Belle Epoque

美しい空間と、美しい時間

『午前4時、東京で会いますか?』

2010-03-31 | rayonnage...hondana
「ツイテル人と付き合わな、あきまへんで。」
と、かの松下幸之助翁はおっしゃったそうですが、「ツイテル人」には、いくつか不可欠な条件があると思います。

その中でも大きなものを挙げると、

1、コミュニケーション力がある
2、自分のOrigineの伝統、文化に精通しており、誇りを持っている

の2つが、世界規模で通用するときの鍵になるのでは、と考えます。
とりわけ、1、ですね。
これは=「感謝する力」でもありそう。


『午前4時、東京で会いますか?』(ポプラ文庫)

この「ツイテル」2人、シャンサ×リシャール・コラス両氏の往復書簡を読了して、様々な感想が湧きました。
とてもとても、面白い本でした。
往復7時間超にも渡る、京都⇔和歌山奥地の電車道中に一切倦むことなく過ごせたのは、この内容濃い一冊のおかげ。
リシャール・コラス氏の軽妙洒脱な小説世界のファンでしたが、彼について知る以上に、シャンサ氏について深く知ることができたのが、意外な、大きな収穫でした。
アジア人がフランス語を学ぶ際の参考にも、大いになります!

知識人の枠を広げ、アーティストとして活躍するシャンサ氏。
一家揃って中国屈指の頭脳であり、少女時代から詩の才能に満ち、また男子にもモテモテであったらしいですが、そんな平和な記述はほんの少し・・・・・。
わたしの数年歳上なだけとは思えない、激動の人生に、衝撃はたいへん大きかったです。
同時代なのに、子供のころ、わたしは飢えも革命も知りませんでした。
近くの中国でこんなことがふつうに起きていて、人々はこんな傷跡を日常として暮らしていたとは、思いもよりませんでした。

思えばわたしは、フランスに住んだ折も、中国本土の人たちとは接点がありませんでした。日本寄りの文化を持つ台湾の子たちとはあっという間に距離が縮まりましたが、彼らにしても「本土の子とは肌が合わない」と敬遠しがちでいたのを、当時不思議に思ったのを、憶えています。
お恥ずかしながら今、全てに合点がいきます。


シャンサ氏は、フランスに住みフランス語で小説を書く作家。
(あっ、もしかして時期的に、わたしはパリや東京で彼女とすれ違っていたかもしれないんだわ
また画家でもあり、作品は多く個人蔵となるそう。
烈しい気性を感じさせる炎のような女性でありながら、同時に冬の月のように、静かで冷たく冴えわたっている。


シャンサ氏の作品@高島屋in2007

ここで冒頭の話題に戻り。
外見の美しさも含めて才能が豊かですが、彼女の放つ魅力がこうまで世界に広まったのは、彼女の傑出したコミュニケーション力(感謝力)、そして揺るがぬ決然とした誇りが軸となっているように感じられます。
すべて仕事のできる人に備わる特質ですが・・・。


コミュニケーション力は、燃え尽きない信念と誇りを持ったがため、外界とバランスをとる努力が大きく必要とされるほど、磨かれます。
経た道のりの重さを乗り越えていくほど、芸術の域にまで達する。
なぜ、そんなことが叶ったか?・・・
激動の中国で様々な情報に翻弄されながら、
また、若くして渡ったフランスで、デカルト思考に違和感を強く感じながら、
それでも彼女が優雅に生き抜いてきたのは、
「断罪しない勇気」
を、粛清によって最期を遂げた先祖から教わったため、というくだりに、わたしは息をのみました。

国のため、家族のために生きるみんなが、精一杯「正しく」生きようとしている。
そこに何が正義か問うのは大変に難しいことです。
だからまず、他人を尊重することが、全ての始まりになる。
すべてのことに感謝する心、の派生として、コミュニケーション力が大きく育つのですね。

一般に名声を手にしたり社会で成功をおさめた人に対して、ひとは
「あの人は特別恵まれてるから」
と分け隔てて考えがちです。
でも、現実にそういう人種であるシャンサ氏の、烈しい努力と、その底に広がる大陸のような感謝の心を知ると、
誰でも生まれたときは同じように真っ白であること、
どんなに過酷な中でも生きようとする炎が、つまるところ人生に影響することがわかります。
読んでいるこちらにも、活き活きした気力の芽生えのようなものが、むくむくと湧いてきます。


この本においては、
コラス氏のフランス人らしい――生涯でフランス本土にほとんど暮らしていなくても、“フランス人のDNA”というのはこうまで発露するものなんだなあと感動(?)――応酬がまた楽しいです。
根が生真面目なアジア人に対して、真面目なのにどこかおふざけ感が取れないフランス人。
コラス氏のユーモア(エスプリではなく)によって対話の雰囲気はやわらげられています。
片や、中国人なのにフランスに暮らし、片や、フランス人なのに日本に暮らす不思議な人生を選んだお二人の、「おとなの距離感」が興味深い、洒落た一冊です。


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