99%

隣の席の同僚は、たいへん気のつく女性で、とってもお世話になっている。
疲れたとき気遣われると、その労わりの優しさの、あまりの自然さに、ただ水が砂に染みこむように素直に感謝するばかりなのだが、別の女性を気遣う様子を見たとき、声のかけ方、そのタイミングと温度があまりに絶妙なことに気付き、舌を巻いた。
当の受け手は、自然すぎてそのすごさに気付きにくいのだ。
かゆいところに手が届く、ではないが、いつでも、すばやくするっと相手の感覚の核心を捉えている。
そして、相手の無事を確認するや、微笑んでさっと自分の仕事に戻り、入り込みすぎたりしないから、そこにはいつも爽やかな風が後味に残る。
空気の細かい振動と流れが、敏感に感じ取れるひとはいるものだが、彼女はまさにその典型だと思う。

そんな前置きから、本題へ。

こそっと隠れていたつもりだったが、わたしの、日に一枚ガーナの板チョコを片付ける習慣が割と知れていた。箱が赤いから目立っているのか？
そして彼女には、ある日の午後、ガーナ切れで私がガクリとしているのも、お見通しだったらしい。

チョコレート中毒の禁断症状に、彼女は素敵な処方箋をくれました。
99%カカオ！
の板チョコ、ひとかけら。
「鼻血でたらどうしよう」
と、ふざけて言い合いながら口に入れたら、数拍置いてから、冗談じゃなくほんとに、ギュン！と頭に刺激が来た。
思わず額に手を当てる。
「一気食いしたら、ほんとに鼻血でるかも」と瞬間思ったくらいだった。

が、苦味に顔をしかめながらも、確かになんだか充填されていく、ナニか。

でも、とにかく味が・・・・・・。
あまりにつらそうでヘンな顔をしていたらしく、
甘い熱いコーヒーミルクを差し出してくれたのを飲ませてもらったら、ようやく落ち着いた。
なるほど、そういうチェイサーが要るのね！

以降、顔からして変化し、停滞気味だった午後の作業の能率がにわかにぐいーんと上ったことに、本人が一番驚いたのでした。
「・・・単純なの？」
と訊かれて、返す言葉がなかったけど、でも、やっぱり成分が効いていると思うわ！

それ以来、わたしの表情がだらんとしてくると、絶妙に、
「食べる？」
と99%チョコをそっと示してくれるようになった彼女。
やはり、そのタイミングは素晴らしいのです。