桜に酔う

銀座のバーの一室にて、毎年貸切で行われるという、お花見会。
今は、関東では、桜はまだ開き始めの時期ですが、そこは日本列島。
南方から、もういち早く満開になった大枝を取り寄せて、その部屋に飾り、一足早くお花見を楽しもうということらしい。
風邪のため、お誘いをいったんはお断りしたものの、どうしても桜は見たくて、まあ銀座は帰りの通り道であることもあり、会の始まる前に、一人でちょっとだけ、そのバーに寄ってみました。

まだ誰もいない部屋に、落ち着いたやわらかな明かりに照らされて、満開の桜の大きな一枝ずつが、両隅に。
ソメイヨシノではない、たぶんだけど、山桜？
白くはかない花たちは、まとまると密度がありながらも、花弁の一枚一枚がレースのように薄く繊細で、
天井から降り注ぐほど満開であっても、けっして妖艶な華やかさはなく、
どこまでもひそやかに清楚な影を、そっと室内におとすのでした。

桜には、とりわけこの桜には、昼の太陽の光より、夜の幻のような空気が似合います。
この世の果てを感じてしまうような、ひっそりとした奥ゆかしさと妖しさ。
夢の世界への入り口に咲くような、不確かなはかなさ。

「花より団子」なんていうけれど、夜、この花の下にいたら、食べたり・飲んだり、現世の愉しみをたっぷり味わわないと、
桜の無限の魔力に吸い取られて、心の中があまりにも、しん・と静まり返って、精神が旅に出てしまうのではないでしょうか。
物音のない部屋の中、一人で桜に包まれていると、桜の織り成す幻に、静かに包み込まれてしまうような気がしました。



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