アモルの明窓浄几

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裁判員制度について思うこと-2

2008年12月18日 | 万帳報
今回からは、前回掲載した文面から[註]印部分の紹介、又は説明をします。

●[註1]は、日弁連会長の緊急声明文です。

裁判員制度施行時期に関する緊急声明

最近、一部から、来年5月21日から施行される裁判員制度の施行時期を延期すべきではないかという意見が表明されています。
しかし、当連合会は、刑事弁護を担ってきた立場から、また、国民の司法参加を願ってきた立場から、裁判員制度が予定通り実施されるよう強く求めます。当連合会は、裁判員制度実施に向けて、今後とも万全の体制で準備にあたります。

人質司法と言われるように密室の中での違法不当な取り調べが横行し、自白しないと保釈が許されない、いったん虚偽の自白をすると、撤回が許されず、捜査官が作成した膨大な調書のみが積み重ねられます。そして、99.9%が有罪判決であるという状況の下で、裁判官は有罪判決を下すことに慣れてしまい、有罪判決を書くための要素のみを無意識にピックアップしてしまうおそれがあります。捜査も裁判も官のみが行う状況ではチェックが働かず、一向に冤罪はなくならないのです。

今回の法改正で、公判前整理手続が導入され、弁護人の活動により、捜査側の手持ち証拠が広範囲に開示されることになりました。再審開始決定された「布川事件」のような冤罪事件で問題になった捜査側の証拠隠しの防止のためには大きい改善であり、裁判の充実にも良い結果をもたらしています。

しかし、人質司法や調書裁判という刑事裁判の根本的な欠陥はそのままです。
これを変えるためには、市民のみなさまに裁判に関与していただき、無罪推定の大原則の下、「見て聞いて分かる」法廷で判断していただくことが不可欠です。
「見て聞いて分かる」法廷では膨大な調書は存在できませんし、捜査も自白よりも物的証拠や科学的な捜査を重視する方向に向かわざるを得ません。

市民のみなさまにはご負担をおかけしますが、是非とも裁判員裁判に参加していただき、みなさまの健全な社会常識を司法の場に生かしていただきたいのです。

事前のアンケートでは不安を覚える市民の方が多いという報道がなされています。
この点、同じ市民が司法に直接参加し、検察官の不起訴の判断の妥当性を判断する検察審査会では、守秘義務を負いつつも、多くの市民が日常生活を中断して参加されていますが、参加前のアンケートではやはり多くの市民の方が参加に消極的です。しかし、一度審査員を経験された後では、実に96%の市民の方が「参加して良かった」と言う御意見に変わっています。諸外国でもこのような傾向は同じです。裁判員制度は誰もやったことがなく情報も少ないためご不安を覚える方も多いと思いますが、問題のある刑事裁判を良くするために是非ともご参加をいただきたいと考えています。

もちろん、今の裁判員裁判制度に改善すべき点がないというわけではありません。また取調べの可視化(取調べの全過程の録画)なども極めて不十分です。しかし、裁判員制度を実施することによって、改善すべき点は改善し、また、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)をさらに広げたり、調書裁判の弊害や人質司法の弊害を改善する動きを進めていくことが大切です。裁判員裁判を延期したのでは何よりも根本的な欠陥を抱えた現行の刑事裁判が続く結果となるだけです。

多くの冤罪弁護事件を支援し、刑事弁護を担ってきた当連合会は、裁判員制度を延期して今の刑事裁判を継続するのではなく、この制度を実施の上、欠点があれば、実施状況を見ながら改善していくという方法で進めるべきであると考えます。
世界に誇れる刑事裁判の実現に向けて予定通り実施されるよう、ここに改めて強く求めるものです。

2008年(平成20年)8月20日
日本弁護士連合会
会長 宮 誠


●[註2]は、『裁判員の参加する刑事裁判に関する法律』(平成十六年法律第六十三号)の第一条です。

第一章 総則
(趣旨)
第一条 この法律は、国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ、裁判員の参加する刑事裁判に関し、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)及び刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の十特則その他の必要な事項を定めるものとする。


●[註3]は、山口正紀氏のコラム「人権とメディア」(週刊金曜日719号)から。( 一部分を抜粋)

裁判員制度 報道にも「見直し」の視点を

そこには、冤罪・誤判への反省はない。それどころか、「国民参加」には「裁判迅速化」が必要として、被告人の諸権利を制限し、冤罪を助長する制度改悪を伴っている。

その最たるものが公判前の「争点整理手続き」だ。弁護側も公判前に立証内容を示すよう求められる。手続き後は新たな証拠調べを請求できない。手続きは非公開で、被告人抜きでも可能な密室審議。事実上、「公判前」に裁判の結論が出てしまうようなシステムだ。

しかも、その手続きを担当した裁判官がそのまま、裁判員とともに事実認定から量刑まで「多数決の評決」に加わる。事件の予備知識・法律知識を持った裁判官と「素人」の裁判員による審理が、「対等」なものになるだろうか。「市民の感覚」を生かせる審理ができるか。


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