アモルの明窓浄几

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裁判員制度について思うこと-1

2008年12月17日 | 万帳報
前回、「裁判員制度とはどのようなものなのか、考えてみたいと思います」と言ってから早や一ヶ月以上経ってしまいました。
この間、裁判員候補者宛てに通知書(裁判員候補者名簿記載通知書)が発送(11/28)されました。通知書が届くとどのように対応すればよいのかなどがマスコミ等で取上げられてきましたが、論調の多くはこの裁判員制度を受け入れることを前提に解説されているようです。
若し自分が裁かれる側に立った場合にこの制度をどのように受け入れればよいのかといった視点に立った論調が少ないように思われます。

ご存知のように裁判員法は、来年の5月21日からスタートします。
新聞などのアンケートをみると国民には評判がよくないにもかかわらず、着々と準備が進められています。但し、この制度の内容が精査されてのアンケート結果とは思えず、米国などの陪審制度と勘違いしている市民も多いようです。このまま施行日を迎えると、第二の「後期高齢者医療制度」になるのではともいわれています。

この制度に対する世論の芳しくない反応に、日弁連会長が緊急声明を8月20日に発表しましたが、この制度は有罪無罪などの事実認定だけに止まらず、死刑などの量刑までも裁判員が判断するものであり、制度の内容を知れば知る程、問題が多いと思います。
この日弁連会長の緊急声明は、法務省と一体となり進めようとするものですが、これに対し一部の弁護士達は、反対の意思を表明していますが、弁護士の総意は何処にあるのかがハッキリしません。

私は、現場に近い弁護士がこの制度をどのように受け入れようとしているのかを知りたく、週刊誌に投書しました。それが、これからご紹介する『日弁連会長の緊急声明は、弁護士の総意なのか』です。

この投稿は、10月31日の発行誌に掲載されたため、そのままここに載せられない事、又週刊誌には字数制限があった事から削除した部分があったりした事もあり、ここでは原本をそのまま掲載します。


〓日弁連会長の緊急声明は、弁護士の総意なのか〓

駅構内に大きなポスターが張り出されている。法廷を背景にアイドルタレントが正しく『はじまります、新しい裁判』といっている様だ。彼女は官公庁のイメージキャラクターとしてよく起用されているが、この裁判員制度によって、市民が死刑をも言渡す大変な立場におかれる事を知っているのであろうか。

この制度に対する世論の反応に、日弁連の会長が緊急声明[註1]を発し「裁判員制度が予定通り実施されるよう強く求めます」と訴えている。この裁判員法[註2]の第一条(趣旨)によると、国民が刑事訴訟手続きに関与する事で「…司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資すること」としている。被告人の権利や利益について何ら関係の無いこの制度を法務省と一体となり何故性急に実施したいのであろうか。声明文によると「裁判官は有罪判決を下すことに慣れてしまい」、「一向に冤罪はなくならない」従って、市民の「みなさまの健全な社会常識を司法の場に生かしていただきたい」との事だが、果たしてそうであろうか。後半に述べられている取調べの可視化や人質司法等の極めて重要な事柄が裁判員制度を実施しなければ改善できないといった論調は納得できるものではない。

又、公判前整理手続きが導入される事により、冤罪解決によい結果をもたらすというが、この点については、当誌719号の山口正紀氏[註3]によって問題点が指摘されている。

私がこの制度に対し、如何しても納得できず譲れない点が二つある。

一つは、裁判員が量刑の判断を行う事である。諸外国で実施されている陪審制度や参審制度をモデルにしている様だが、陪審制度は、事実認定はするが量刑については判断しない。裁判員制度と参審制度は、事実認定と量刑共に判断を下すが、両制度には大きな違いがある。両方共に評決は多数決で決まるが、裁判員制度においては、民意が反映されない場合がある。

裁判員制度の構成は原則、裁判官三名と裁判員六名の計九名の過半数で決まるが、多数側には裁判官と裁判員の両方が加わっている必要がある。例えば、裁判員の五名が無罪としても成立しない[註4]のであり、逆に裁判官三名と裁判員二名が有罪とすれば死刑にでも出来る。参審制度のフランスやイタリアでは構成員数は異なるが、有罪とするには必ず参審員の半数以上[註5]の賛成が必要である。これで、裁判員制度が市民の健全な社会常識を司法の場に生かせるといえるだろうか。

二つ目は、裁判員が刑の言渡しの公判日に出頭[註6]しなくても判決は宣告され、判決書に裁判員が署名捺印する事も無く裁判員の任務は終わるという。裁判官だけの署名捺印のみで被告人は納得できるであろうか。又、裁判員は責務を果たした事になるであろうか。

この様に、裁判員は量刑まで行い、自身は望まなくても多数決で死刑を言渡す立場になる。被告人は、判決書に署名捺印しない裁判員に命を委ねる。

そして、会長声明は「しかし、人質司法や調書裁判という刑事裁判の根本的な欠陥はそのままです」という。これらが改められる事も無く、見切り発車しようとしている。
                                   以上

次回からは、[註]印部分を説明します。


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