アモルの明窓浄几

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『税を直す』を読む02

2010年06月21日 | 万帳報

専門家でない専門家(?)とは、私が勝手に云っているのですが、その中の一人に社会学者の立岩真也氏がいます。現在、立命館大学院先端総合学術研究科の教授です。今回は、彼の『税を直す』を紹介する事にあります。

立岩氏のテーマは、人が(生)死に向き合う時の自己決定の自由について問います。そして、人はただ存在しているだけでも価値があると主張します。更に、その延長線上において『税を直す』に至るのですが、人と人とが自由で対等な関係を構築するには、資源の分配においても人としての価値を補償する分配でなければならないとし、税制にはその再分配機能がある事から税を論じます。

この書籍は、314ページ(文献表除く)からなりますが、著者の親切なところは、「はじめに」の頭三行に結論が集約されており、書店の立ち読みですむ事です。(立ち読み後に気に入れば購入する事は、云うまでもありせんね。)

「予算を増やさねばならない。しかし難しい。だから増やせない。節約し、減らせるところを減らさざるをえない。しかしそれも限界があるから消費税だとか目的税だとか。そんな具合になっている。だが、その前に、多く得たところから少ないところに移すことをするのがよい。基本的には、ただそれだけのことを述べる」(p.9)

具体的には、累進課税の累進性を強める事であり、平たく云うと高額所得者の所得税増税を意味し、「基本的には、ただそれだけのこと」と著者は云う。又、別の処でも同様の事を繰り返します。

「とくに私たちの国では、とくにこの間、しばしば『共助』という名は付せられながらつまりは『保険』の枠組みのもとで議論がなされるばかりであってきた」(p.28)
「市場において多くを得た人は多く、少ない人は少なく拠出し、生活において多く――の例えば介護、医療――を必要とする人は多く、普通の人は普通に得られるのがよい。これが基本となる。それだけのことである」(p.29)

要するに、憲法の精神である「応能負担の原則」に戻ればよいと云っているのですが、経済学者等の専門家とのアプローチの違いに説得力があるのです。

本の構成も分かり易くなっています。二部構成で、第一部が本編部分であり、第二部は資料編となっています。第一部の第1章から第4章迄は本論部分ですが、ここでも親切に序章(23ページ分)として要約文(要約的な短文)を掲載しています。この要約文を読むだけで概ね立岩氏の主旨は理解できます。

「みんなが知っているように、削るべきでない社会保障・医療に手がつけられてしまっている。そこで、仕方ない、消費税を上げるしかないということになる。…けれどもそれよりすべきこと、できることがある。つまり、課税の累進性、つまりたくさん持っている人がたくさん税を出す仕組みをきちんとさせればよい。…さしあたり課税の仕方をもとに戻すだけでもかなりのことができる。だからそうすればよいと思う」(p.16)

そこで、所得税の累進税率を1987年に戻した場合の税収試算を第二部の第1章「所得税の累進税率変更試算」(村上慎司)で検証しています。但し、幾つかの条件や制約がある故、例えば公務員等の除外など、「精密な試算というよりも日本に近似的なある仮想国の試算と捉えた方が妥当」との前置きを踏まえた上で、2007年の累進税率を1987年に戻した場合の所得税(源泉所得税+申告所得税)の試算結果は、6兆7,594億円の増額となります。

菅直人首相は、この程消費税率10%に言及しましたが、地方に回す配分割合が同じなら、単純計算で6.8兆円の税収増となり、いみじくも立岩氏の試算と程同じとなります。尚、著者は「単純に以前の累進税率構造に戻すことは、税額の増収が見込めても低所得者への配慮が乏しく、何らかの再分配政策とセットで行なうことが必要だと思われる」と述べています。この事の意味は、2007年の税率改正は最低税率を引き下げているため、1987年当時に単純に戻すと低所得者にも負担増になる事が試算の結果明らかになったからです。

著者は、「とりあえずすぐにできることとして累進課税の累進性を…もとに戻そうということだ」と云います。
(つづく)


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