アモルの明窓浄几

芦屋・仕舞屋・三輪宝…生噛りの話題を机上で整理します。

私の愛歌

2010年04月26日 | 万帳報
自分自身の事を話題にするのは、当ブログの主旨に反するのですが、今日は私の愛歌についてお話します。
ひとは誰しも一生の思い出としての愛歌をもっているものでしょう。
以前このブログにおいて、チャック・ベリーの『ジョニー・B・グッド』を紹介しました。
若いころは、ジャズ、ゴスペルやR&Rをよく聴いていました。今も、ジョージ・ルイスの演奏やマヘリヤ・ジャクソンのゴスペルはよく聴いています。

妻と一緒になってからは、オペラなども聴く機会が増えました。妻は、プラシド・ドミンゴやホセ・カレーラスがお気に入りですが、私はルチアーノ・パヴァロッティが大好きです。パヴァロッティといえば、トリノ冬季オリンピック(2006年)の開会式で話題になった『誰も寝てはならぬ』(トゥーランドットより)が有名ですが、私は『人知れぬ涙』(ドニゼッティ「愛の妙薬」より)がお気に入りです。この歌を聴けば誰しもパヴァロッティを好きになるでしょう。
尚、ジャズやオペラについては又機会があれば話題にしたいと思います。

さて、愛歌と云っても私の中学から高校にかけての頃の話です。当時、私は和辻哲郎、倉田百三や三島由紀夫などに傾倒しており、宗教的、保守的などちらかと云えば、右翼的思考傾向にありました。それと並行するように、春や夏休みには万葉集歌片手に奈良大和路へ足を運んだりもしました。

石上神宮から山の辺の道を南下すると終着の大神神社に着きます。拝殿からご神体とする三輪山を仰ぎみると『三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや』と詠んだ額田王の飛鳥京を去り、近江大津宮へ向かう心境が時空を超えて偲ばれました。

当時の私の愛歌といえば万葉集歌です。今日はその中の一首をご紹介します。
私の最も好きな歌です。

巻第七 挽歌(雑挽)
1411  何有人香 黒髪之 白成左右 妹之音乎聞
   幸のいかなる人か黒髪の白くなるまで妹が聲を聞く

大意 幸のどれだけ多い人であらうか。黒髪の白くなるまで、妹の聲を聞くよ。
作意 老ゆるまで妻と死別せざる人の幸福なことを、うらやみ歌ったのである。自らが妻を先に亡くした人の歎聲である。世間的理の入ったところもあるが、それは民謡の致し方ない所で、まづ歌い得た作と見るべきであらう。
土屋文明「萬葉集私注」より

この歌は、あまり評価の高いものではないようですが、私がこの歌を知った時の感動は、今も覚えています。
妹とは妻のことですが、当時は「…妹(いも)が声を聞く」のフレーズが気に入っていました。土屋文明氏によると、妻に先立たれた歌人がうらやむ歌のように述べて居られますが、私の当時の解釈は異なっていました。
白髪になってもなお妻の声を聞く事の出来る自分は何と幸せ者だろうと歌っているように思えたのでした。そして、その時間の重さと永くかわらぬ妻への思いに、学生である私にとっても、人間を信じあえる永遠の真理に触れた思いでした。

今でも寄せ書きの機会があれば、しばしばこの歌を書いています。


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