アモルの明窓浄几

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再度、「後期高齢者医療制度」について思うこと-3

2007年10月14日 | 万帳報
この保険制度は、高齢者や障害者に多大の自己負担を強いる制度ですが、保険料や窓口負担だけの問題ではないようです。
前回の制度のあらましで触れましたが、診療報酬の支払いが「包括評価方式」(以下、包括定額制という)であること、それにこの制度の運営が都道府県単位の「広域連合」によることです。

この包括定額制は、医療費を削減する目的で導入される事が明白です。
包括定額制は、既に述べたように病気ごとに一日当りの医療費を定め、その金額に入院日数を掛けた料金が診療報酬となります。 例えば、ある病気の検査料、治療費、薬剤費及び手術(有無)料等を含めた場合の一日当りの医療費が10万円とします。 仮に入院日数が10日すると、10万円×10日=100万円が病院が受取る診療報酬となります。
このケースの場合で総医療費が100万円以上掛かった場合は、増加分が患者の自己負担分(窓口負担とは別です)となります。
この様に、一ヶ月当りの医療費が決まってしまうので、自己負担料を押えるには、診療回数や薬の量を減らさなければならないケースがありえます。
病院側は経営のことを考えると一定の医療費内で治療をしなければならず、医療の質の低下や充分な診療を受けることが出来ないのではないかと不安視されています。
では、この点について芦屋市議会ではどのような議論がなされたのでしょうか。

(A)H18-12月定例会:民生文教常任委員会からの報告
  ・「今回の改正で、高齢者の負担がふえ、医療の受診抑制につながるのではないかとの委員の質疑に対し、当局の見解は、従来のような医療や費用負担では制度は維持できない。高齢者がふえると、若年世代が負担増になるので、その負担を軽減するという意味でこの1割の保険料がある。」との当局の答弁。

(B)H18-12月定例会:平野貞雄議員-第93号議案の反対討論
  ・「…加えて問題なのは、後期高齢者医療制度では、診療報酬も別建てで、後期高齢者の心身にふさわしい診療報酬体系などの口実で診療報酬を引き下げ、手抜き医療になる危険性も持ち合わせています。」
  ・「…以上指摘したように、本来医療面で将来の不安を解消あるいは緩和すべき医療保険制度が、逆に不安を強めるばかりでなく、現在の暮らしと健康さえも脅かすという深刻な矛盾を生み出すのが政府の進める医療制度改悪であり、この後期高齢者医療制度はその一部をなすものであります。」

(C)H18-12月定例会:前田辰一議員-第93号議案の反対討論
  ・「この新制度のもとでは、後期高齢者の心身の特性等にふさわしい医療制度が提供できるよう、新たな診療報酬体系を構築するとしています。しかし、このことは、後期高齢者に対する差別的医療を行うと宣言しているに等しいと言わざるを得ません。」
  ・「格差社会と言われて久しいですが、多くの低所得者には最低限度の医療を行い、高い私的契約保険に基づく被保険者には保険額に応じた手厚い医療を提供するというアメリカ社会をこの日本でも出現しようとすることは明らかではありませんか。私どもは、このような日本国憲法第25条、生存権を完全否定する医療制度そのものに強く抗議し、反対をするものです。」

(D)H18-12月定例会:青木央議員-第93号議案の賛成討論
  ・「現在の老人保健制度ではその維持は困難となり、高齢者がふえると、若年世代が負担増となるため、後期高齢者に1割の保険料を担っていただくというものであり、低所得者に対する適切な軽減措置も講ぜられるとのことです。」
  ・「今後の老人保健制度を維持するためには適切な制度かと思われますし、この制度に入らなければ、平成20年以降の芦屋市の後期高齢者の保健制度がなくなり、大変なことになります。」

以上、平成18年12月定例議会の第93号議案『兵庫県後期高齢者医療広域連合の規約の制定に係る協議について』での討論から「包括定額制」に関する部分を抜き取りました。
(A)は、民生文教常任委員会からの報告で、高齢者の負担が増え医療の受診抑制につながるのではないかとの委員からの質疑が出ているにもかかわらず、従来のような医療や費用負担では制度が維持できず、高齢者がふえると若年世代が負担増になるとの市側の論理を充分に検証されずに受け入れています。
(B)、(C)は、それに対する反対討論です。
(D)は、この第93号議案が起立多数で可決されたにもかかわらず、唯一の賛成討論でした。
その討論内容が(A)での当局側の答弁と全く一緒です。 低所得者に対する適切な軽減措置とは具体的にどのようなものなのか説明されていません。

最後に、平成19年3月定例議会における第3号議案『平成18年度芦屋市一般会計補正予算(第5号)」に対する田中えみこ議員の反対討論をご紹介します。

●(田中えみこ議員)登壇=(省略)ただいまの議案3号から8号までの中の第3号、平成18年度芦屋市一般会計補正予算、そして、4号の国民健康保険事業特別会計補正予算、そして8号の病院事業会計補正予算、この3件について。、反対の立場で討論をいたします。
-(省略)-この制度では、高齢者の医療給付費がふえるたびに保険料の値上げが行われる、あるいは医療の内容の切り下げか、どちらをとっても痛みしかないという選択を迫られる仕組みになっています。このことが受診抑制につながり、高齢者の命と健康に重大な影響をもたらすことが懸念されています。診療報酬を定額制にして、医療に制限を設ける方向までがこの制度で検討をされ始めております。
 これまで経団連等の財界は、現役世代と高齢者が同じ医療保険に加入し、労使折半で拠出金を出し合って高齢者医療を支える現行の制度に対し異議を唱えて、高齢者医療を現役世代の保険から分離せよとたびたび政府に要求をしてきておりました。新制度は、こうした財界の要求にこたえるものであります。さらに、財界は、この制度への企業負担をなくして、労働者負担のみとし、公費には消費税を充てよとまで要求をしております。大企業の拠出がない国民負担増と高齢者に過酷な後期高齢者医療制度のスタートの予算に反対をするものです。

次回は、「広域連合」について触れます。

追伸:政府は、医療サービスの水準を落とすことなく、医療費を抑制する手段として「包括定額制」の導入を実施しようとしていますが、問題はないのでしょうか。
既に2003年から一部の病院に導入されているので、ネット上を検索してみたのですが、適切なデーターを見つけることが出来ませんでした。
ここで紹介する『包括制導入が医療費と診療の質に及ぼした影響に関する分析』は、2000年1月の報告書で1996~7年に導入された外来医療における二つの包括制(小児外来医療並びに老人外来医療)についての検証です。従って、今回の後期高齢者医療制度に導入される包括制度とは、どの程度共通性があるのかがわかりませんが、参考にご紹介します。
包括制の特徴は、診療行為を減らす誘因が存在するため医療費を抑制する効果がある事、更に診療密度を薄くするインセンティブがあり、必要な医療まで削減し質が低下する事です。
論文の要約に依ると、理論と実証の両面から検討を行った結果、第一に現制度化(当時の)では医療費はむしろ増大している事。第二に理論的に診療の質を低下させる誘因を持つため、包括制と出来高制の折衷である二部料金制度導入や医療機関における診療の質に対するモニタリング或いは、診療サービスの標準化が必要とのことです。

紹介論文:『包括制導入が医療費と診療の質に及ぼした影響に関する分析』
        -老人慢性疾患外来ならびに乳幼児外来に関して-
         慶應義塾大学経済学部助教授    河井啓希
         慶應義塾大学産業研究所特別研究員 丸山士行
      → http://www.econ.keio.ac.jp/staff/hk/paper/PPS2000.PDF



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