アモルの明窓浄几

芦屋・仕舞屋・三輪宝…生噛りの話題を机上で整理します。

映画『いのちの山河』を観て

2010年04月06日 | 万帳報
今年に入って、二本の映画を観ました。
『いのちの山河』と『ディア・ドクター』です。
『ディア・ドクター』は、過疎地における医療問題を偽医者である伊野(笑福亭鶴瓶)を中心に描いています。伊野の失踪により、村人の微妙な心の変化を西川美和監督は、巧みに演出しています。

今日は、もう一本の『いのちの山河』をご紹介したいと思います。
以下の感想文は、東神戸病院医療互助組合芦屋支部ニュース(3月号)に掲載したものです。支部ニュース掲載では、紙面の関係で省略した部分もあるのですが、ここでは全文掲載します。



劇場内の其処彼処ですすり泣く声が聞こえます。
この「いのちの山河」は、その様な映画なのです。昭和20~30年代の岩手県の旧沢内村(現・西和賀町)が舞台です。
終戦後に生まれ故郷の沢内村に戻り、地域の民の為に半生を捧げた深澤晟雄(まさお)と彼を支えた妻ミキとの夫婦の絆を軸に、彼の生涯の指針である憲法の精神を行政の舞台で具現化して行く物語です。

深澤の村長時代の最大の功績は、無医村であったこの地を、全国に先駆けて高齢者(65・60歳以上)及び乳児(1歳未満)の医療費を無料化にした事です。国の高齢者(70歳以上)の医療費無料化は、この後遅れる事12年の歳月が掛かるのですが、深澤の県(国の窓口)との交渉場面では、担当職員から医療費無料化は国民健康保険法違反との指摘を受ける等、体制側の姿勢も明確に描かれています。

私はこの場面で、阪神淡路大震災直後の住宅再建支援に対する自己責任論を思い出しました。後の鳥取地震において、当時の片山善博県知事が自助努力には限界があるとして住宅再建支援に踏み切った経緯に似ています。
片山氏は後の東大本郷(2001.1/14)の講演で「住宅再建を支援したら、憲法第何条に違反するのか突き詰めていったら、実は何にも違反しない事がわかりました」と述べています。
深澤も「憲法違反にはならない。…国は後からついてきますよ」と述べています。深澤と片山氏とは、同じ思いであったのです。

深澤の行政マンとしての手腕も確かであったようです。ナメコ栽培を村の主要産業に育て、産業の命綱である道路を冬場も利用すべく除雪し、冬季バスまで運行して人々の交流と流通を図った事です。福祉の裏付けとしての財源の確保には、村人の生活の安定が不可欠であり、車の両輪だと考えていたのでしょう。

又、深澤が最初に取り組んだ行動は、村人一人一人との対話でした。運動をする者の原点は、ここにあるのでしょう。私達互助組合も会員相互の対話が不可欠だと思いました。

一つだけこの映画に注文をつけるとすれば、村人が憲法の精神を理解し、成長して行く過程をもう少し、きめ細かく描いてもらえたらと思いました。村人が、深澤村長を支え、村を再建して行く運動の中心に居る事の重みが不足していると思われたからです。
時代背景を考えると、知性と教養のある深澤が庶民をリードして行く事は致し方ないのかも知れませんが、水戸黄門を観ているような気分になったのは、残念でした。

最後に、晟雄の父親役として加藤剛が出演していました。元気に活躍している姿を大スクリーンで拝見し、嬉しく思いました。

追伸:この映画は、商業用映画館では上映されていません。
ご興味のある方は、下記でご検索下さい。
http://www.cinema-indies.co.jp/aozora2/schedule.php
尚、神戸市内の次回上映は、5月27日(木曜)神戸市中央区の兵庫県民会館です。
①10:30、②14:00、③18:30の三回公演。
詳しいお問い合わせは、東神戸病院医療互助組合(電話078-851-9381)迄。


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