アモルの明窓浄几

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NPT再検討会議の年を迎えて(その1)

2010年04月10日 | 万帳報
この4月8日にプラハにおいて、オバマ米国大統領とロシアのメドベージェフ大統領は、両国の戦略核兵器を削減する新たな核軍縮条約に署名しました。
しかし、今回の条約は実質的な削減効果は少ないとも報道されています。
署名後に『新条約は重要な前進だが、より長い旅路のほんの一歩にすぎない。この条約はさらなる削減へのおぜん立てにすぎない』(朝日新聞より)とオバマ米国大統領自らが述べています。
従って、今後の国際的な核不拡散への取り組みに、より注目しなければならないでしょう。

そこで、ニューヨークの国連本部で来月開催されるNPT再検討会議が最重要な「場」となると思われます。
私は、所属する建築士事務所協会の機関誌(くすのき3月号)へ寄稿するにあたり、時期的にもホットな話題と思いNPT再検討会議を取り上げてみました。
建築士とNPT再検討会議がどの様に関わるのかは、以下の文章をお読み頂けたらお解かり頂けると思います。但し、同胞の建築士を対象にした文章であることをご了承ください。又、二回に分けて掲載します。


2005年ニューヨークでのNPT平和行進(平和市長会議より)

今年の2010年は、FIFAワールドカップ(サッカー)が行われる年です。
南アフリカで6月11日からの一ヶ月間、世界中が歓喜に包まれる時間を過ごすものと思われますが、その約一月前の5月3日から28日までの間、ニューヨークの国連本部では、NPT再検討会議が開催されます。

NPTについては、ニュースなどで「核不拡散条約」や「核拡散防止条約」と呼ばれており、ご存じの方も多いと思いますが、正確には『核兵器の不拡散に関する条約』(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)なので、「核兵器不拡散条約」と云います。

この条約は、1970年に発効されました。その後、加盟国は5年毎に運営の再検討する会議を開いて来ています。
今年は、そのNPT再検討会議の年に当たるのです。
現在の条約締結国は、190ヶ国(2008年12月現在)に上ります。
国連加盟国の中でNPT条約を締結していない国は、インド、パキスタン及びイスラエルの3ヶ国のみですが、朝鮮民主主義人民共和国は2003年に脱退を表明したにも拘らず、現在に至るまで脱退を認められていません。

では、NPT条約とはどのような条約なのでしょうか。条約の概要を見てみましょう。

『核不拡散条約(NPT)の概要』(外務省の広報より)
 1.核不拡散:米、露、英、仏、中の5ヶ国を「核兵器国」と定め、「核兵器国」以外への核兵器の拡散を防止。
   (参考)第9条3「この条約の適用上、「核兵器国」とは、1967年1月1日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国をいう。」
 2.核軍縮:各締約国による誠実に核軍縮交渉を行う義務を規定(第6条)。
 3.原子力の平和的利用:右は締約国の「奪い得ない権利」と規定するとともに(第4条1)、原子力の平和的利用の軍事技術への転用を防止するため、非核兵器国が国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受諾する義務を規定(第3条)。
   (参考)NPTの主要規定・・・前文、条文全11条及び末文から構成。

同上「核不拡散」の条文は、核兵器国の5ヶ国のみに核保有を認めるとしているため、核兵器国の特権を認める不平等条約と云われています。
この事を理由にインドとパキスタンは、加盟を拒否しているとの事です。更に、1995年のNPT再検討会議において、当条約を無条件、無期限延長と決定したために、世界の核兵器廃絶を訴える市民団体等から反発を受け、必ずしも高い評価を受けている条約ではないのが実情です。

では、如何して今年のNPT再検討会議が世界の注目を集めているのでしょうか。
マスメディアはこぞって、「世界的な核不拡散の取り組みにおいて、2010年は極めて重要な年になるだろう。」と報道しています。
それは、「核軍縮」(第6条)に希望を見出せる状況があるからです。具体的には、アメリカとロシアが核軍縮で合意に達する事が出来るのではないかと云った期待です。

発端は、昨年4月のオバマ米国大統領のプラハ演説です。その演説の一部を紹介します。
『21世紀には、世界中の人々が恐怖のない生活を送る権利を求めて共に戦わなければなりません。そして、核保有国として、核兵器を使用した事がある唯一の核保有国として、米国には行動する道義的責任があります。米国だけではこの活動で成功を収める事は出来ませんが、その先頭に立つことは出来ます。その活動を始める事は出来ます。従って本日、私は米国が核兵器のない世界の平和と安全を追求する決意である事を、信念を持って名言いたします。』(在日米国大使館翻訳より)

そして、この後に具体的な道筋を説明しています。核兵器の保有量の削減、ロシアと新たな戦略兵器削減条約の交渉、米国における包括的核実験禁止条約の批准、兵器級物質の製造の停止及び核不拡散条約の強化です。
更に、昨年9月の国連安全保障理事会の首脳会合において、オバマ自身が議長を務め、『核兵器のない世界』を目指す決議を全会一致で採択しました。

私は、「プラハ演説」を全面肯定するものではありません。
例えば、『如何なる敵であろうとこれを抑止する』とか、『効果的な兵器を維持する』など、強権的な米国政府の一面も覗かせています。

私が、今年のNPT再検討会議に期待を寄せる最大の理由は、プラハ演説ではなく、冨田宏治氏(原水爆禁止世界大会起草委員長)の講演によるものです。
オバマ流に云うと“核兵器を使用した事がある唯一の核保有国”米国に原爆を投下された広島と長崎の被爆者の方々の願いです。

冨田氏はこう言います『被爆者の方が、たとえ米国の上にでさえ、二度と核兵器を使ってはならない、原爆を落としてはならないと声をあげたのです。自らが受け続けている苦しみを二度と世界の何処にも、誰の上にも繰り返してはならないと考えられた。そして、自らの経験を通して人類の危機を救おうと立ち上がり、核兵器をなくせと叫んでこられた訳です。それは9.11テロの後、直ぐに報復だと叫んだブッシュ大統領と比べて、如何に崇高だったかと云う事を改めて心に刻みたいと思います。』

被爆者の方々は、決して報復は望まなかったのです。自らが受け続けている苦しみを誰の上にも繰り返してはならないと主張してきたのです。「再び被爆者をつくるな!広島・長崎を繰り返すな!核兵器をなくせ!」と叫び続けてきたのです。そして被爆者と共に歩んできた世界中の人々がNPT再検討会議の開催日の前日(5月2日)にニューヨークで大デモンストレーションを行う予定でいます。
『核兵器のない世界へ』の絶好のチャンスを掴み取るために。(つづく)


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