アモルの明窓浄几

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耐震診断と耐震補強について-17

2009年03月23日 | すまいのこと
下記の写真と文章は、講演会のレジュメの表紙に使用したものです。

この写真の巳待供養の石碑は、当ブログの「軽井沢発地方面の石仏を訪ねて-4」(2009.01/14)でも紹介しましたが、江戸時代の農民達が災害等を避けるため、この石碑を建立し祈願したと伝えられています。
平賀三郎氏の言葉の通り、「一基の石碑から、人事を尽くしてもどうにもならない災害に対する農民の切実な祈りが伝わってくる。」のであり、石碑に籠められた農民の思いは、想像に難くないのではないでしょうか。

しかし、祈る他には手立てのなかった当時と比べると、防災等の科学技術も発達している今日においては、災害を最小限に食い止める事も可能なはずなのに、地震等の災害のある度に同じ事を繰り返しているのは何故なのでしょうか。

今回は、東京都の「東京都震災対策条例」(以後、現条例と呼ぶ)と、その旧条例に当たる「東京都震災予防条例」(以後、旧条例と呼ぶ)の前文を比較し、人間の英知を導くためには如何すればよいのかを考えてみたいと思います。

● 東京都震災対策条例
平成12年12月22日 条例第202号
東京都震災対策条例を公布する。
東京都震災予防条例(昭和46年東京都条例第121号)の全部を改正する。

前文
地震を予知することが未だ困難な現在、阪神・淡路大震災をはじめとする都市型地震の経験は、改めて地震発生直後の危険性と不断の危機管理の重要性を、行政はもとより多くの人々に知らしめたところである。
地震による災害から一人でも多くの生命及び貴重な財産を守るためには、まず第一に「自らの生命は自らが守る」という自己責任原則による自助の考え方、第二に他人を助けることのできる都民の地域における助け合いによって「自分たちのまちは自分たちで守る」という共助の考え方、この二つの理念に立つ都民と公助の役割を果たす行政とが、それぞれの責務と役割を明らかにした上で、連携を図っていくことが欠かせない。
東京都は、全国に先駆けて東京都震災予防条例を制定し、予防対策重視の視点から地震に強いまちづくりを進め、行政主導の下で震災を未然に防止し、最小限にとどめることを目指してきた。
今後は、この取組を一層進めるとともに、危機管理に重点を置いた応急対策及び復興対策をも視野に入れた総合的震災対策の体系を構築し、震災対策の充実及び強化に努めていくことが極めて重要である。
東京は、多くの都民の生活の場であるとともに、日本の首都として政治、経済、文化等の中枢機能が集中している世界でも有数の大都市である。地震による被害の影響は国内にとどまらず、全世界に及ぶものであり、地震による災害から東京を守ることは、行政に課せられた重大な責務である。
震災対策の推進に当たっては、区市町村が基礎的自治体として第一義的責任と役割を果たすものである。その上で、広域的役割を担う東京都が区市町村及び国と一体となって、都民と連携し、都民や東京に集う多くの人々の生命及び財産を守り、首都東京の機能を維持するという決意を表明するとともに、総合的震災対策の推進の指針を示すため、この条例を制定する。
以上

● 東京都震災予防条例 ……… (旧条例)
昭和46年10月23日 条例第121号
東京都震災予防条例を公布する。

前文
東京は、都市の安全性を欠いたまま都市形成が行なわれたため、その都市構造は地霹災害等に対するもろさを内包している。
東京を地震による災害から守るためには、必要な措置を急がなければならない。
いうまでもなく、地震は自然現象であるが、地震による災害の多くは人災であるといえる。したがって、人間の英知と技術と努力により、地震による災害を未然に防止し、被害を最小限にくいとめることができるはずである。
この条例は、その英知と勇気を導くための都民と都の決意の表明であり、都民と都が一体となって東京を地震による災害から守るための合意を示すものである。
以上


条例等の前文は、法律の趣旨や目的又は、基本的立場を述べる文章であり、法律の制定理念や理想を明らかにするものと云われています。
現条例に改正された当時、この前文を読んで、旧条例と180°違った理念にビックリした事を思い出します。
文章が長ければ良いといったものではないでしょう。
旧条例の前文は、簡潔明瞭であり、都と都民が一体となって地震等の災害から東京都を守るという決意が素直に伝わってきます。

この両震災条例の制定時の都知事は誰だかお分かりでしょうか。
その回答の前に、ある雑誌に掲載(2001.07/27)された私の両震災条例に対しての投書を下記に掲載します。

● 都の震災条例から消えた「人災」の視点
東京都震災予防条例が全面改正し「東京都震災対策条例」として、今年の四月一日から施行されました。私は、都民ではないのでどのような経緯でこのような改正がなされたのか知りませんが、阪神淡路大震災などの教訓を活かしての改正であるともいわれています。果してそうなのでしょうか。
条例の基本的な考え方は、前文で謳われています。旧条例では『…地震は自然現象であるが、地震による災害の多くは、人災であるといえる。したがって、人間の英知と技術と努力により、地震による災害を未然に防止し、被害を最小限にくいとめることができるはずである。…』と地震は人災の側面があるとする視点にたっています。そして、前文の最後には『この条例は、その英知と勇気を導くための都民と都の決意の表明であり、…災害から守るための合意を示すものである。』と結んでいます。
しかし、新条例においては、『…まず第一に「自らの生命は自らが守る」という自己責任原則による自助の考え方、…』とする自己責任(特に個人住居に対する自助努力)の原則を強く打ち出しています。又、知事の指導的色合も強く出ており、例えば防災訓練の実施について旧条例は『都民は、…防災訓練に積極的に参加しなければならない。』であったものが、『知事は、…防災訓練を積極的に行わなければならない。』というように知事の指導性が強調されています。都民の自助努力に対し、都はどのようなフォローをしようとしているのか、新条例では具体的事項は全て規則で定めることになっています。
被災地に身をおくものにとっては、永らく住宅は個人の財産であり自助努力は当然とする呪縛に捕らわれてきました。例えば、二重の住宅ローンに苦しむといったことを自己責任の原則として追い詰めてよいのでしょうか。被災者の自力再建には限界があり、住居は個人資産ではあるが、同時に社会資本でもあるといった考え方こそが教訓として活かされるべきではないでしょうか。鳥取地震のおり、片山知事は『住居は公共性がある』と言ったそうです。では、石原都知事は何と言うのでしょうか。具体的施策で教訓が活かされることを願っています。
以上


私が、この震災条例について投書したのは、首長によってまるで違った条例が生まれる事を知ったからです。
現条例の「東京都震災対策条例」は、現職の石原慎太郎 都知事の一期目に制定されたものであり、旧条例の「東京都震災予防条例」は、美濃部亮吉 元都知事の二期目に制定されたものです。
両条文とも職員(公務員)が作成したものとは云え、首長の考えが色濃く反映されていると思うのは私だけでしょうか。

大塚将司氏は、「…日本人の意識に“官治国家”という認識が染みついている。しかし、果たしてそうであろうか。私はかねてから疑問に思っている。」と云い、後期高齢者医療制度を例にあげて、高齢者を分離する独立方式に決めたのは、「…小泉政権の改革路線に乗せる以上、独立以外に選択肢はなかった。それを主導したのは政治なのである。」と述べています。(この件については当ブログ2008.5/17を参照)

同じ事が、この震災条例にも云えるのではないでしょうか。
国家公務員(特に官僚)と地方公務員を十把一絡げにしてはいけないのかもしれませんが、やはり政策決定は、政治主導で決まっているのではないでしょうか。
やりたい放題の公務員の不祥事や疑惑を見ている私達は、法律等も公務員の都合の良いように作られていると思い込んでいますが、それを許しているのは政治家であり、政治家の力量によって左右されているものと私は考えています。

以前にお話しましたが、国は「耐震改修促進法」を制定しているが、県が事業化しなければ国からの補助は無いため、地域格差が生まれています。
阪神淡路大震災の教訓から、住宅は社会資本であるといった世論が形成され、三年後には「被災者生活再建支援法」が制定(1998.5/15)されました。十分とは云えないが、その後も2004年と2007年の二度に渡り法改正され、個人の生活復興の重要性が行政側にも認知されてきました。
又、片山善博 元鳥取県知事は、鳥取県西部地震(2000.10/06)の時に「住居は公共性がある」といい、全国初の「住宅復興補助金制度」(住宅再建支援金)を制定しました。

これらの制度は、課題が残されているとはいえ、一定の成果を積み上げてきましが、あくまで被災後の措置の問題です。それとは別の「耐震改修促進法」は、震災の被害を最小限に食い止めるため、建物の耐震化による減災を目的とする予防的措置法です。
しかし、以前述べたように同法は、建物の所有者が「自らの問題」として耐震化に取り組む事とした、努力義務に過ぎません。多数のものが利用する等の特定建築物においては、所有者に一定の義務を課していますが、あくまで自己責任に基づいています。

個人の生活復興の重要性が認知された今日においては、予防的措置法についても「被災者生活再建支援法」等と統一的、総合的な制度の体系化をめざす必要があると考えます。

従って、我々の要求を実現させるにはやはり政治に期待すべきであり、理念と実行力のある首長や議員を選び、我々の期待に応えるべく、持てる力量を発揮してもらう事が大切でしょう。

又、私達も「住宅は社会資本である」と認識するならば、地域社会の安全性の視点から自宅の耐震化を考える必要があるでしょう。制度の充実を要求する一方で、私達も地域社会の一員として、責任を果たさなければなりません。

今回を持て、このシリーズは、終了します。
皆様の住まいが安全で、安心して生活するために、少しでも参考になればと思います。
何かご意見、質問等があれば、メール(コメント)を頂ければと思います。

追伸:
新年度(H21)の耐震診断・改修補助事業等の申込みは、5月頃から受付けされる予定です。
詳細は、各市の広報誌に掲載されます。芦屋市は、現在でも申込書を提出すれば、受付けにはなりませんが、預かってはもらえるとの事です。


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