アモルの明窓浄几

芦屋・仕舞屋・三輪宝…生噛りの話題を机上で整理します。

NHK『介護百人一首』から

2012年05月14日 | 万帳報
NHKのEテレ「ハートネットTV」で、介護短歌『介護百人一首』が紹介されました。
その内から、私のお気に入りの短歌六首をご紹介します。

センセーと 両手広げる つれあいの 笑顔嬉しき 面会の午後
(東京都  原野 和夫さん)
妻が認知症となり5年。
最近は見舞った私の名を忘れて「先生」と呼ぶようになりました。
顔はまだちゃんと覚えていて見舞った時に喜んでくれるのが喜びです。

「いい時も 有ったんだよ」と いう母に 紅引いてやる 思い切り赤
(岐阜県  横山 美枝子さん)
母は現在94歳、やや認知症です。しっかりしていた90歳の頃「いい時も有ったからもう死んでもいい」と言う母に、真っ赤な口紅を引いてやりました。
はにかみつつもうれしそうでした。

山育ちの 夫(つま)は病室の 窓に寄り パン屑並べて 鳥を待ちおり
(岐阜県  辻 絹枝さん)
ガンを病む夫は最後まで不機嫌な顔をあまり見せませんでした。
友人たちが来てくださると、にこにこ満面の笑みで迎えていました。

家政婦に 吾(わ)れを指さし あの婆々(ばば)に 亭主あるかと 問いただす夫(つま)
(静岡県  勝又 文江さん)
認知症の夫を自宅介護していた頃、体調を崩した私を家政婦さんが助けに来て下さいました。その時の夫の言葉です。
思わず笑ってしまいましたが、寂しくもありました。

いつまでも思う夫と いつまでと思う鬼嫁 母は知らずに ママ ママと言う
(神奈川県  栗原 せい子さん)
義理の母は96歳。認知症で7年前から寝たきりになりました。仕事の合間を縫って、義母の介護をしています。寝たきりになってからは、否定的な見方になっていました。

寂しさと 自由の重み 天秤に かけてはかれぬ まだ五十日
(愛知県  榎本 令子さん)
今までお買い物にも出られなかったのに、今では時間を気にせずに、ああ自由になったんだと思う反面、待っている人がいないと思う。
そんな寂しい気持ちでいます。


⑤と⑥の短歌は、介護短歌百首には選ばれませんでしたが、作者のご両人は別の短歌で入選されています。しかし、私はこちらを選びました。
尚、介護短歌『介護百人一首』は下記のHPで、ご覧になれます。
→ http://www.nhk.or.jp/heart-pj/event/tanka/index.html


[ 追伸 ]
『楢山節考』の作家である深沢七郎は、母の死後に「愛情は悪魔の化身だ」との言葉を残しています。(当ブログ2007/05/19「現代版 楢山節考」参照)
七郎は、一緒に暮らすガン闘病の母を介護し続けたが、死後には気持ちが妙に楽になれたと言ったともいわれています。
介護に対する真摯な向き合いは、時には本心をも深淵へ追いやるのでしょうか。
『介護百人一首』は、根底に深い思いやりが読み取れ、救われました。


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