南西諸島貝殻学入門

分子細胞生物学と博物学の分野に跨る「貝類学」を、初歩から学んでみましょう。美術学や数学的な見地からも興味をそそられます。

茜ちゃんのつれづれ草 -028

2012年10月26日 | 日記

 

茜ちゃんつれづれ

                 -28

 

 山中教授のノーベル賞が決定してから数週間が経ちました。今年は日本のノーベル賞受賞者は1名でした。また来年に期待しましょう。

 

【山中教授にノーベル賞】バイオ産業の発展にはずみ 日本の理論・技術の優秀さ示す

 

山中教授の受賞理由となった「万能細胞の研究」は、あらゆる細胞に分化する能力がある「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」ということでした。

「万能細胞の研究」は現代再生医学分野のトップレベルの研究です。

                 ・・・・     A- ES細胞の研究

 「万能細胞の研究」 ・・・・   B- iPS細胞の研究

大きく2分野に分かれます。学問的には<ES細胞の研究>が先んじておりました。ヒトの身体は約60兆個もの細胞でできています。最初はたった1個の受精卵から始まり、さまざまな種類の細胞に分化・増殖を繰り返して臓器や骨、筋肉、皮膚などがつくられ、人間が誕生します。出発点の受精卵には、あらゆる細胞を生み出す万能性があるわけです。

ES細胞の研究は受精卵を使って、さまざまな種類の細胞に分化・増殖を繰り返して(細胞の初期化)臓器をつくる手法ですが、人間に応用した場合、研究段階で倫理に抵触するという問題点がありました。 キリスト教関係のバチカンなどはこれを認めませんでした。

           マウスES細胞: WIKIより掲載 

               緑の部分が小型のES細胞の塊であり、周りの細胞はフィーダー細胞

 

それに対して、iPS細胞の研究の手法は、皮膚などの一般的な細胞を使うやり方ですので、倫理問題をクリアー出来るという利点があります。当然のことながらバチカンもこれを認めました。

   産経新聞より掲載

iPS細胞による再生医療

 

また他人の受精卵を使うES細胞は移植後に拒絶反応が起きるが、患者自身の細胞でiPS細胞を作れば拒絶反応も防げるという、免疫学の問題もクリアーできるという、素晴らしい手法でした。画期的な手法が世界に認められ、早い時期のノーベル賞の受賞に繋がったのでしょう。

万能細胞の研究では、ES細胞を使ったマウスの遺伝子改変技術が2007年にノーベル医学・生理学賞を受けたばかりでした。万能細胞は心臓や肝臓、神経、血液など、あらゆる細胞を作ることができます。目的の細胞を作製して患者に移植すれば病気になった臓器や組織を「再生」でき、現在の臓器移植に替わる画期的な治療法というわけです。

iPS細胞の研究

マウスのES細胞で重要な働きをしている24種類の遺伝子のうち、4つが万能性に関係していることを発見し、これをマウスの皮膚細胞に組み込むと、ES細胞とほぼ同じ能力を持つ万能細胞ができることがわかりました。カギを握る4つの遺伝子は「山中因子」と呼ばれます。

人の皮膚細胞から山中因子を使い、万能細胞が出来上がりましたが、これが初めての人のiPS細胞となりました。

           iPS細胞 

因みに

ES細胞・・・・・胚性肝細胞(Embryonic stem cells)

iPS細胞・・・・人工多能性幹細胞(Induced  pluripotent stem cells)

から来ています。当時流行していた米アップル社の携帯音楽プレーヤー「iPod」(アイポッド)にあやかり、「iPS細胞」と命名したという話もあります。誘導多能性幹細胞とも訳されます。

しかし、問題点がないわけではありません。アメリカ辺りで問題になっています、同性愛者同士の結婚にかかわる事です。つまり、この技術を応用しますと、男性から卵子、女性から精子を作るのも可能になり、同性愛者同士による子供の誕生も可能になる(代理出産を使う)ということです。  

                                                  

                      ハーシーとチェイスの実験

            ハーシー                                チェイス

        Alfred Hershey.jpg           Martha Chase.jpg

 

  先回は<バクテリオファージT2>の細菌への感染と溶菌サイクル溶原サイクルについて書いて見ました。DNAの説明ならば普通は二重螺旋DNA構造について焦点を当てて書かれるのが一般的です。

以前から経験則に基づいて、細胞核の中にある染色体がDNAとたんぱく質から構成されていることは知っておりました。(1920年代) このころDNAに特異的に結合して、細胞内のDNA量に比例して赤く染まる染料が発見され、DNAが遺伝物質あるという状況証拠がもたらされました。

状況証拠-1 DNAが細胞核と染色体における重要な成分である事がわかった。

状況証拠-2 種によって特定の核DNA量を有している事がわかった。

状況証拠-3 体細胞(生殖のために特殊化していない細胞)のDNAは生殖細胞 (卵や精子)のDNA量の2倍であった。

しかし、これでは科学的な因果関係の実証にはならなかった。それで次のような実験を行なったのです。

A・ グリフェイスの<肺炎双球菌の形質転換

B・ ハーシーとチェイスのバクテリオ・ファージの増殖

この結果、DNA=遺伝子ということが実証されたのです。先回まではこの実験の大まかな概略を書きましたが、今回はさらに細かく説明して見ましょう。

1952年・カーネギー遺伝学研究所のハーシーとチェイスがT2バクテリオ・ファージを使って、遺伝子=DNA or  たんぱく質 を追求しました。この時2種類の放射性同位体 32P 、35S  を使い、細菌には大腸菌を使用しました。

1-標識と培養

<放射性トレーサー>

DNA・・・・32Pを含む細菌培地でT2バクテリオ・ファージを培養。32Pで標識。

たんぱく質・・・35Sを含む細菌培地でT2 バクテリオ・ファージを培養。35Sで標識。

                 T2 バクテリオ・ファージ

 御茶ノ水女子大より掲載

1- T2 バクテリオ・ファージの標識と培養とウイルスの放出。

                32P         35S

2- 数分後各々の感染させた大腸菌をミキサーにかけ、大腸菌に感染しなかったウイルスを大腸菌から引き剥がしました。

3-遠心分離機による分離  溶液や懸濁液を遠心分離機を使って、その密度にしたがって勾配(分離した層)をつくります。

4-結果 大腸菌に進入しなかったファージは上澄み液に回収されます。一方、重い大腸菌の細胞は溶器の下に沈殿物として分離された。

32P は殆どが大腸菌の中に留まっていることを発見。

35S は上澄み液に含まれていることを発見。

以上のことから、大腸に進入したのはファージのDNAであることを発見し、DNAが大腸菌細胞の遺伝プログラムを変更する化合物である事を示唆しました。

一般に日本の高校の参考書、教科書の説明はここまでですが、<アメリカ・大学生物学教科書>はこの後の実験結果も掲載しています。 

 

 * <アメリカ・大学生物学教科書アメリカのMITなどで一般的に使用されている生物学の教科書。 「LIFE」の中の一部分。 邦訳あり・3巻、日本の高校生で十分使用できる。非常に良い教科書です。「Essential細胞生物学」ほど専門的ではない。

彼らはさらにT2ファージの子孫世代を回収するという、長い期間の実験を行ないました。その結果、子孫ウイルスは35Sを殆ど含んでおらず、親由来のたんぱく質を有しておらず、元の32P の約1/3を含んでいました。この結果から論理的な結論は、ウイルスの遺伝情報はDNAの中に含まれているという事になります。

以上が2名の研究者が行なった実験です。日本の高校の教科書・参考書では簡単に掲載されているだけですが、DNAの構造ウンヌンよりも大事な事だと思います。

しかし、現在ではウイルスは生物ではないとする立場もあるため、厳密には遺伝子とは言えない場合もある。ただし当時はウイルスは未知の微生物とされていたので問題視されなかったということです。

次回は真核生物の形質転換について書いて見ましょう。

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