不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

La tempesta di Giorgione

2010-11-09 20:25:04 | アート・文化

「La Tempesta(テンペスタ:嵐)」という題名がつけられている
Giorgione(ジョルジョーネ)の作品は
1507年から1508年頃に描かれたといわれています。
しかし、他の彼の作品と同じように謎が多く、
様々な解釈のされている作品でもあります。

Tempesta

手前右手には半裸の女性が授乳をしており
左手には木棒に寄りかかるようにした格好で男性が立ち、
見るとはなしに女性のほうを向いています。
その後方には崩れた建物の一部があり、
さらに後方に街が広がり、
その街には稲妻の閃光が走り、
今まさに嵐が訪れようとしています。

この絵画作品の一番最初の所有者は
ヴェネツィアの富裕者Vendramin(ヴェンドラミン)で
1569年頃までは彼が所有していたようですが、
その後1856年にManfrin(マンフリン)コレクションに
含まれていることが確認され、
さらに1875年にはベルリン美術館に所有が移りますが、
イタリア政府によって海外流出禁止要請が出され、
Giovannelli公によって買い戻されています。
1932年にGovannelli公の遺品として残ったものを
ヴェネツィアのアカデミア美術館が購入しています。

1530年の時点では
「嵐と兵士とジプシー」とタイトルがついていた作品ですが、
その後「自然のアレゴリー」とも「モーゼの発見」とも
「トロイア王子パリスの幼少期」とも「幸運のアレゴリー」とも
「慈悲の力」、「楽園追放されたアダムとイヴ」、
「マーキュリーとヴィーナス」とも言われ
未だ解釈に定説ができていませんが
いずれにしてもこの作品の評価が高いのはその「風景」。
豊かな自然の表現が主役であり、
その中に描かれる人物像は自然の一点でしかないのです。
背後で展開される嵐の偉大さに比べると
人類の存在の如何に小さなものか
ということを語っているようでもあります。

最新の説は
Erasmo da Narni(エラスモ・ダ・ナルニ)の肖像画を
カモフラージュするために描かれた作品であるというもの。
エラスモ・ダ・ナルニとは
通常Gattamelata(ガッタメラータ)と呼ばれる
イタリアの傭兵隊長で
フィレンツェ、教皇庁、ヴェネツィア共和国に仕えた人物。
Guerrino Lovato(グエッリーノ・ロヴァート)の唱える
この新説によると
この作品はガッタメラータが
城壁の建設を命じられたトレヴィーゾの街と
ガッタメラータ本人を描いたものだということになります。
しかしながらこの新説には異議を唱える声も多く
今まさに嵐に襲われそうな、背後にある街は
Padova(パドヴァ)だとする人もいます。
城壕、建築物、
城門に見えるCarraresi(カッラレージ家)の紋章などが
パドヴァ説の証だと言われています。

このパドヴァ説も未だ確約されてはいませんが、
パドヴァの市立美術館ではこの作品を招いて
ジョルジョーネや他の芸術家と
パドヴァの街の文化的な繋がりに焦点を当てた展覧会を開催中。

パドヴァにはドナテッロ作のガッタメラータ騎馬像もあるので
この機会に是非見比べながら鑑賞してみたいところです。

Giorgione a Padova
L'emigma del Carro
会期: 2011年1月16日まで
会場: Musei Civici agli Eremitani パドヴァ
入場料: 8,00ユーロ