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「永続敗戦論 戦後日本の核心」<領土問題> VOLⅠ

2024年09月10日 | 海底電線・領土問題

 白井聡著 太田出版刊「永続敗戦論 戦後日本の核心」を古書店で購入して読みました。著者は、1977年生まれという若い政治学者ですが、歴史探求に深い造詣があります。

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第一節 領土問題の本質 
 第一章では、戦後日本のレジームの根本をなすものを「永続敗戦」と名づけ、その構造を概観した。続く本章では、「平和と繁栄」のうちの「平和」がいま侵されつつある現場である日本の対外関係について見てゆく。そこで第一に議論の対象とするのが、いわゆる領土問題である。その理由は、この問題が尖閣諸島問題をはじめとして平和の維持にとって緊迫性を帯びていることだけでなく、この問題ほど日本社会における「敗戦の否認」という歴史意識が明瞭に、また有害なかたちで現れている問題はほかにないからである。 
 周知のように、日本国家は三つの領土問題(尖閣諸島・竹島・北方領土)を事実上抱えている。それぞれの問題は、歴史的経緯や日本による実効支配の有無といった重要な事情においてそれぞれに異なっている。しかしながら、いずれの問題に関しても日本政府がとっている「日本固有の領土」という論理は共通していること、そして、領土問題をめぐって燃え上がる日本のナショナリズムがどのケースにおいてもある重大な政治的事実と歴史を見落としている、という点において三つの問題は全く同様の問題として立ち現れている。 
 日本に限ったことではないが、領土問題となると人々は日ごろ見向きもしなかった古地図やら古文書やらに突如として群がり、自国の主張にとって好都合な証拠を血眼になって探し始める。しかし、こうした「古反故(ふるほご)への熱狂」は、日本の領土問題にとって本質的にはほとんど無意味である。なぜならば、これらの問題は、古文書の類を引っかき回さねばならないほど古い問題ではないからである。 
 結局のところ、国家の領土を決する最終審級は暴力である。すなわち、歴史上の直近の暴力(=戦争)の帰趨が、領土的支配の境界線を原則的に規定する。日本の領土問題にとって、この「直近の暴力」とは第二次世界大戦にほかならない。日本社会の大半の人間が見落としているのは、三つの領土問題のいずれもが第二次世界大戦後の戦後処理に関わっている、つまりこの戦争に日本が敗北したことの後始末である、という第三者的に見れば当然の事情である。このことは、日本と他国との領土問題の処理の仕方が、ポッダム宣言受諾からサンフランシスコ講和条約に至る一連の日本の戦後処理の根本方針によって規定されざるを得ない、ということを意味する。このことが国民的に理解されない限り、領土問題の平和的解決はあり得ず、したがってこれらの、それ自体は些末である問題が戦争の潜在的脅威であり続ける状態は終わらない。 
 しかし、結論から先に言ってしまえば、この国の支配的権力は敗戦の事実を公然と認めることができない(それはその正統性の危機につながる)がゆえに、領土問題の道理ある解決に向けて前進する能力を、根本的に持たない。こうした状況のなかで、「尖閣も竹島も北方領土も文旬なしに我が国のものだ」「不条理なことを言う外国は討つべし」という国際的には全く通用しない夜郎自大の「勇ましい」主張が、「愛国主義」として通用するという無惨きわまりない状況が現出しているわけである。 
 そして、日本の領土問題を複雑にしているのが、サンフランシスコ講和条約に中国・韓国・当時のソ連は参加していないという事情である。同講和会議に中華人民共和国は招請されず、ソ連は共産中国が招請されなかったことを不服として条約調印を拒否、韓国は戦争当時日本の一部であったのだから日本と戦争することはできなかったとされて、参加資格を与えられなかった。それゆえ、これらの国々との戦後処理(敗戦処理)を日本は個別に行なってゆくことになる。 
 日本政府(外務省)の主張するところによれば、領土問題をめぐる現在の政府の立場は、戦後日本が国家主権を回復したサンフランシスコ講和条約において同意した原則に完全に一致するものであって、問題の領域が「日本固有の領土」であることにいささかの疑問の余地もない、という。果たして、この立場に十分な妥当性はあるのか? 以下、順番にその歴史的過程を概観し、政府の主張や国内世論の正当性を吟味する。 
 なお、この際強調しておきたいのは、領土問題をはじめとする国家間の問題について考えるときに、締結された条約や共同声明等の条文を読むことの大切さである。実際にどのような文面に署名がなされ国家の意思が刻印されたのかを知らずして、国家の現在の主張の是非を判断することは決してできない。かつその際には、生の条文にあたってみるべきである。なぜなら、雑誌や新聞の記事は、条文を示さないまま記事執筆者の見解を示している場合が多いが、その際条文の解釈が当を得ているかどうか、保証の限りではないからである。本書ではなるべく豊富に条文を引用するが、読者もまた、自分で考える際には自ら条文にあたってみることを強くお勧めする(いまではインターネット上で正確な条文を調べることが簡単にできるのだから)。傍線は管理人。

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この著作を読むと、日本共産党志位和夫氏の著作「領土問題をどう解決するか」は、些か疑問がでてきます。例えば「北方領土問題は、スターリンの領土不拡大という戦後処理の大原則を蹂躙している」と述べています。しかし、アメリカは「サンフランシスコ講和条約」で沖縄を「施政権」という名目で事実上「領土不拡大という戦後処理の大原則を蹂躙」しているのです。

クリックしますと「サンフランシスコ平和条約」の原文となります。

(了)

 

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