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読書の森

泡坂妻夫『比翼』

泡坂妻夫は昭和8年(1933年)生まれです。代々続く下町の紋章絵師の家業に就くかたわら、マジシャン、小説家として多彩な世界を持つ人です。

この時代の人が持つ古風な嗜好や人情を描写した心理ミステリーが光ってます。

題名の比翼の意味は相思相愛の男女、比翼紋とはその二人の家紋を組み合わせて作った紋章の事で、着物の絵柄に使います。
紋章絵師とは、この着物の紋を描く仕事です。同時に和服を美しく保つ為の染み抜きにも精通しているのです。
今や消えかかった伝統的な技術でもあります。
彼の作品の殆どに、消えてしまいそうな日本的情緒が紋章の如く美しく残っているのです。

『比翼』の中で、愛し合った二人が女性の一方的な宣告で別れてしまう一編を紹介します。

男は紋章絵師、女は着物の美を世に広める為海外留学する。その留学中に心変わりをしたと告げる。男は絶望や怒りを心の中で封印して、一家をなした。
20年後、男は染み抜きを依頼された珍しい色留袖の紋章を見た時、ハッとした。別れを告げた時に女が身に纏っていたものだった。依頼したのは彼女の妹である。
その着物の左右の紋章は不揃い(左右対称が常識)で、右側だけ不自然に上に上がっているのだ。
留学中に女は乳癌を患ってしまった。手術の結果肩から胸にかけて肉を削ぎ取られてしまったのである。

何故女が男に愛想尽かしをしたのか、別れの場で美しく装ったのか、男の謎が解けた時はもう遅かったのだった。

この物語は余韻を残して終わりますが、言えば理解し同情される事を相手の立場を考えて言わない、のは日本人独特の美学でしょうか。
特に昭和前半を生きた人は、そんな美学を持つ人が多かった様です。


若い頃は泡坂妻夫の世界は俗だと決めつけて、殆ど読んだ事がありません。
しかし、最近好んで読む様になりました。

あやうく耽美的な世界でありながら、その裏に頭脳的なトリックが潜んでます。

この『湖底のまつり』ぼんやりロマンに浸ってると、最後のどんでん返しで「あっ」と驚く事請け合いですよ。
夏のミステリーでございます。



今日は、思い切り眩しい夏空になっております。
道で見かけたこの紅い木の実はなんと「白木蓮」の実なのだそうです。

白木蓮に紅い実がなるとは初めて知りました。
尚、この様に赤く実をつけない(色づく途中で落ちてしまう)白木蓮も多いという事で、貴重な発見でした。

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