読書の森

結城昌治 『死もまた楽し』

本著は平成七年二月から六月にかけ、結城昌治氏によって語り下ろされた。
半生記でもあり、死生観を記した著でもある。
著者は翌年八月、69歳で逝去した。

肺結核の後遺症で、酸素を吸いながらの晩年だったが、飄々としたユーモアを
忘れない人だった。
本著で描かれた死も軽やかである。

「残り少ない人生を楽しく生きることによって、死もまた愉し、という心境も
 生まれてくるような気がします」
と言う。
そんな心境にとてもなれない、皆生きるのにカツカツだ。
その頃は作家は豊かだったから言える言葉だとも取れる。
しかし、人生は楽しまなきゃ損だ。
楽しい事は自分の身の周りで見つけるものと思う。

結城氏はかって不良仲間にも入ったそうで、自由人で組織に向かない人だった。
その気ままな心境を結核という当時の重い病が後押しした。
療養所内で、彼は石田波郷(俳人)、福永武彦(作家)と知り合う。

彼がミステリーを書き始めたのは、彼らに触発されたからと言える。

私は、直木賞作家として成功した彼の小説のファンとは言えない。
ただ、本書を読んで、実に素直な気持ちになれた。

「一年が無事に過ぎたら、よし、もう一年生きよう。
 一年ごとに新鮮な人生を繰り返すことができる」
「しかし最後に行きつくところで、誰かを愛するということが一番
 大事だと思う」

彼は自分の病態から、死が近いことを予測出来たようだ。
それにしても、なんとさりげなく死を語れる人なのだろうか。

俗念に塗れた自分が到底達することの出来ない境地で、ただ羨ましい。
人間の価値は地位でも金でも名誉でも若さでもない、その心意気だと
感じました。

最後に彼の趣味の俳句を一句紹介します。

「遠花火 けふも一日 終りけり」
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