読書の森

愛してるから その2



幸い、緩やかな勾配で二人は直にに起き上がる事が出来た。
その時、覚は櫻子が倒れ無い様にしっかりと抱きしめた。
抱擁めいた事は、櫻子にとっては勿論覚にとっても初めての体験であった。

周りの仲間と何事もない様に馬鹿話する覚も、時々笑みを浮かべるが後は黙り込む櫻子も、頬の上気を抑える事が出来なかった。

依田覚は仲間の笑いをかう行動ばかりとっているが、よく見れば整ったクールな顔立ちをしたイケメンである。
両親が離婚して父親に育てられた彼は、父の再婚と同時に一人暮らしを始めた。

彼の懐疑的で人が信じられない性格は母が男と駆け落ちをした時から育った。
女についても、その残酷な面しか見られない。

一流大学の理科系を選択しとけば食いはぐれはあるまい。
金を稼ぎ高い地位を占めて金持ちになって、馬鹿にした人を見返してやるつもりだった。
彼は馬鹿にされてなくても、かなりナイーブな魂を持っていた。

そして、何も知らない剽軽者と装うのが一番世渡りし易いと信じていた。
旅の会を選んだのも、この手の健康的なサークルに入っておけば就職に有利と思ったからである。



櫻子と出会ってから覚の内部に混乱が起きた。
抱き起こした時、自分の腕の中で震えた柔らかい生き物の感触が忘れられない。

それは恋というよりもっと即物的で欲望に繋がるものであった。

頻繁にサークルに通い、櫻子の姿を求める。
清潔な衣装を身につけた櫻子は、彼に対して清潔な微笑を浮かべる。
話そうと思っても言葉が出なくなった。
それは、数学の公式を解く喜びと相反する喜びであった。
それを求めると狂いそうな混乱があった。

堪らなくなった彼は夜の街に繰り出した。
出会い系で知り合った娘と遊ぶ為である。
一夜限りの恋を彼は繰り返した。

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