
宇佐美由芽子は今年30になる。
大学卒業時に両親が離婚して、その後酷い鬱状態になった。
長い引きこもりの時期があって、就職が遅れ、26の時仕事に就いた。
非常に運の良い事に、語学に堪能な点を買われて一流会社に中途採用された。
外人の訪問客も多いところから本社受付に抜擢されたのだ。
ところが、元々世渡りの不器用な彼女は、人の目を意識し過ぎてミスばかり重ねたのである。
人の良い上司は見兼ねて、彼女を営業所配属にした。
いわば、大勢の営業や技術者の雑用係りである。
年の割にうぶな彼女は営業部員の目に新鮮に映ったらしい。
男性が大多数を占める営業所の中で彼女はかなりチヤホヤされた。
入社4年目の事である。

営業部員は自分の用事をキッチリ仕上げてくれる為に、彼女を持ち上げた部分が多分にあった。
そういう事情に気がつく由芽子ではない。
おだてに乗りやすい彼女は生き生きと仕事に精を出した。
同じ事務方の白い目にも無知だった。
そんな彼女に同情の目を向けた営業部員がいた。
自分の勤務成績と全く関係のない仕事まで引き受けて出しゃばりと言われ出した彼女が、気になって仕方ないのである。
彼、広崎太郎は30歳。
いかつい顔つきをしてるが、極めて繊細な神経を持った男であった。
(続く)