希美は大学では心理学を専攻した。
コミュケーション心理を研究したとかで、実に巧みに顧客の購買心理を掴んだ。
紘やカナより二歳上だが、グッと大人の女の魅力を持っていた。
カナが希美を疑ったのは、殆ど女の勘である。
会計は営業マンの諸費用の精算について直接掛け合う事もある。
10階にある第一営業課の紘とあくまで事務的に語ってるつもりが、希美の刺す様な瞳を何度か感じた事がある。
「希美は若々しい紘を好きなのだ」カナは微かな優越感を覚えていた。
カナが会社を辞めた時の希美の嘲笑いの様な眼差しを思い出すと、屈辱感が込み上げた。
嵌めたのはカナを選んだ紘に女のプライドを傷つけられた希美の復讐だとカナは思った。
思っても、今は取り返す術もない。
きっとまた春が来る、もう一度やり直したいとカナはひたすら仕事に専念した。
そのカナに、非常に過酷な試練が降りかかった。
翌年の立春を過ぎた頃、カナは体調不良と腕の付け根の違和感に悩まされた。
迷った挙句一ヶ月後に検査を受けたのである。
それまでカナは重い本を運ぶ作業も重なり、過労が原因と思い込んでいた。
きっと、適当な薬を服用すれば治ると。
ところが、下された診断は「乳癌の疑い」だった。
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