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読書の森

心も凍る『入江の記憶』(松本清張昨品より)

黄砂の飛来する空の下、歳のせいか、やたらと綺麗な色の故郷の春(昔)の山や川を思い出します。
誰にとっても故郷は夢のように美しいか、と言うとそうでは無いようです。
松本清張の短編『入江の記憶』です。この作品は残念ながら手持ちの本でないですが、強烈な印象があります。

松本清張自身、家の貧しい事情で、転々として学校教育を満足に受けられない辛い子供時代を送りました。
唯一の自伝を読むと、家柄、学歴、容姿に強いコンプレックスがあったと言いますが、全てを跳ね除ける強い知力、意志、実行力の持ち主だった事が分かります。

ただし、女性には相当リアルで冷酷な眼差しを向ける方だったらしい。
『入江の記憶』はまさに一途に愛する女性にとって残酷としか言えない物語であります。

非常に短い作品であるし、著者の複雑かつ多重的な性格の一面を表していると思い、そのまま説明するのをお許しください。
松本清張の短編集はとても面白いので、この機会に色々読んでいただければ幸いです。

妻の妹と不倫の仲になり、彼女にせがまれて故郷の入江を訪れる男。
社会的地位も確立した大人の男性である。それが若い女にたまらない魅力と映る。
姉よりも綺麗で、何よりもこの男に対する愛情なら負けないと、自信を持っている。

未だ初々しさを保ち、男の全てを知りたくて、慕い続ける可愛い愛人の様子を男は優しく見守る。

そして、、その晩の宿で、愛された後、安らいで眠ってる愛人は殺害され、誤って入江で溺死した、、と表向きにはなる。

殺人者は彼女の恋慕う男(夫)と姉(男の妻)!

世間体や自分の地位を脅かす女は危険だ、あまりに純粋に愛し過ぎるから、その点においてこの殺人者(夫婦)の意見が一致して、邪魔者を消す結果になった。

「なんて理不尽な!なんてひどい!」
と思う以上に、今は男女のことに限らず、人の世の残酷な一面を表してるな、と思います。

大人になるとは、競争社会における人間心理の残酷な一面の許容範囲が広がることかも知れませんね。

ただし、当該作品の夫婦は当然殺人者であり弾劾されるべき人間です。
許してよい事、悪い事の区別は明確にしたいです。
心で思うだけなら許される事も実行すれば罪になるのです。


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