面会した翔はさすがに窶れていた。
無精髭がポツポツと見える頬が痩け、目に生き生きした輝きがなかった。
その目を麗奈は愛しげに、そして真剣に見た。
この個室にカメラが備えつけられ、盗聴されている事を知っている。
スマホを持つ事は許されているが、当然皆丸分かりであろう。
この場合、伝えられるのは心から心へでしかない。
「見かけ悪いけど、中身よね」
そう言ってわざと指で鍵の埋まった辺りを突ついた。
そして激しい目で翔を見た。
一瞬翔もかって見慣れた強い眼差しで見返した。
「じゃあね。さよなら」
握手した。
翔の骨太な指の指先までが愛しかった。
この人ともう永遠にさよならだ。
鍵はコインロッカーの鍵だ。
そこに翔の財布、貯金通帳、パスポートと免許証、などが入ったボストンバックが入れてある。
バックの中に鳥打帽とマスクも入れた。
現金はそこへ行くまでの金だ。
病院の見取り図は掃除夫を騙して手に入れた。
見取り図に、ロッカーの場所と今後の事も書いてある。
行先で落ち合うというのは嘘だ。
そこには新聞社の仲間が待っているだろう。
麗奈が一緒に居る事は鈴をつけた猫の様なものだ。
権力者は自分に従順な者は愛するが、不実な者には残酷である。
翔を西に逃がす。
麗奈は海外へ飛ぶつもりだった。
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