読書の森

バレンタインケーキ脱出大作戦 その6



面会した翔はさすがに窶れていた。
無精髭がポツポツと見える頬が痩け、目に生き生きした輝きがなかった。
その目を麗奈は愛しげに、そして真剣に見た。

この個室にカメラが備えつけられ、盗聴されている事を知っている。
スマホを持つ事は許されているが、当然皆丸分かりであろう。

この場合、伝えられるのは心から心へでしかない。
「見かけ悪いけど、中身よね」
そう言ってわざと指で鍵の埋まった辺りを突ついた。
そして激しい目で翔を見た。
一瞬翔もかって見慣れた強い眼差しで見返した。

「じゃあね。さよなら」
握手した。
翔の骨太な指の指先までが愛しかった。
この人ともう永遠にさよならだ。



鍵はコインロッカーの鍵だ。
そこに翔の財布、貯金通帳、パスポートと免許証、などが入ったボストンバックが入れてある。

バックの中に鳥打帽とマスクも入れた。

現金はそこへ行くまでの金だ。
病院の見取り図は掃除夫を騙して手に入れた。
見取り図に、ロッカーの場所と今後の事も書いてある。

行先で落ち合うというのは嘘だ。

そこには新聞社の仲間が待っているだろう。
麗奈が一緒に居る事は鈴をつけた猫の様なものだ。

権力者は自分に従順な者は愛するが、不実な者には残酷である。

翔を西に逃がす。
麗奈は海外へ飛ぶつもりだった。

読んでいただき心から感謝します。 宜しければポツンと押して下さいませ❣️

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