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麗奈はコインロッカーのある駅に佇んでいた。
この駅から新幹線に乗れば、目的地に3時間とかからない。
しかし、翔は無事に脱出出来るだろうか?
すっかり心変わりした振りをして、貴族的な生活に憧れるお芝居をした麗奈である。
ただ、翔に対する警戒を緩めて欲しいためのお芝居だった。
今は野暮ったいグレーのブルゾンを着込み、リュックに黒縁のメガネといった格好をしている。
ぼうっとロッカーの方向を眺めていた麗奈の肩は軽く叩かれた。
帽子を目深に被り、マスクをかけた翔の目が笑ってる。
「脱出作戦成功だ。そして二人の脱出作戦はこれからだ」
翔は「えっ」と軽く抗らう麗奈の手を掴み新幹線の自由券を買った。
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「俺、今度の事で何よりも君を捨てたくないと思ったんだ」
「でもそれって一時的なものじゃない?翔は仕事が命だもの。私は足手まといになりそうよ」
心地よい列車の揺れに身を委ねて二人は囁いた。
「いや俺の一番大切なのは君なんだ。上司も事情を知ってさらに長期休暇を許してくれた。そして休暇中の住居も指示してくれたんだよ」
麗奈は首を傾けた。
「ただし限界集落の現状を探るというレポートが宿題だ」
列車を乗り継ぎ、山深くの集落に残った一軒で二人は暮らす事になったと言う。
その集落のルポルタージュを取れと言うわけである。
「これから住む所は、最近若夫婦が都会で暮らす為に捨てた家だ。
道具は揃ってるし痛んでもいないそうだ。俺たちの耐乏生活が始まる。デスクしか知らない秘密の場所だが」
麗奈は呆れたのと気が緩んだので、泣き笑いの表情を浮かべた。
これから又厳しい生活が待っているのかも知れない。
「でもついて行くしかない」と麗奈は唇を引き締めた。
ふと思いついて、バックの中からチョコレートボンボンを出し、翔の口に入れる。
「Happy Valentine's night!」声に出して笑いかけた。