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読書の森

殺したい人 最終章


ミワは小作りな顔立ちをしてる、目鼻立ちが整っているのに、強くアピールするものがない。
それに社内では、かなり野暮ったい眼鏡をかけていて、頑なに仕事をして、男を寄せ付けなかった。
英美の甘い華やかな雰囲気とは正反対だった。

改めて見ると、今夜のミワは眼鏡を取り、薄く紅を引いて、別人の様に色っぽい。

久人から聞かない内にミワは言った。
「プライバシーが余り問題にされない時は、課内で住所録作ったじゃないですか?
課長の御宅の電話番号、私空で覚えてます」

彼は「何故?」
とは聞けない。
理由は殆ど明白だった。

「課長は責任感強かったし、誠実だったし」

ミワは自分に言い聞かせる様に呟いた。
そして、ギョッとする言葉を吐いた。
「奥様殺したかった!」

「こんな話があるんだな」
久人は他人事の様に聞いていた。
まさか、自分がこんな立場に置かれるとは夢に思っていなかったから。


「課長はとても美人だと言う評判の奥様をお持ちですし」
又ミワは呟く。

気がつくと慌てて、久人は話題を転換した。

「君、今どうやって暮らしてるの?」
確か寿退社ではなかった。

「バブルの時、株やって少し資金が出来まして」


ミワは極めて現実的な暮らしの話をした。
退職金と株の儲けを元手に小さなアパート経営をしてると言う事、都心に近いアパートなので、何とか暮らしていけるという事。

圧倒される思いで久人はミワの話を聞いていた。


「俺は本当につまらない男だ」
「私も潤いの無いつまらない女ですわ」

二人は取り留めのない身の上話をしていた。

いつしか世が明け、空が薄青くなった。
二人は拍子抜けした様な顔を見合わせた。

「コーヒーお代わりしない」
「これが本当の夜明けのコーヒーだ」

微かに笑った。

久人は
「又会おうな」
と言いかけて言葉を呑んだ。

空が明け切るまでに言えるのだろうか?






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