櫻子は今日もターミナル駅の一角にある書店の売り子をしている。
この頃客の応対が上手くなったと先輩に褒められた。
商品のレイアウトにも意見が出せる様になった。
客の尋ねた書籍を検索しないで出せる様になった。
死んでいた書物が、「私はここに居ます」と主張する声が聞こえる気がする。
単調と思えた毎日が生き生きと思えるのは、きっとスマホの所為だろう。
セキュリティ設定をしっかり施したスマホにイジワルなメッセージは入り込まない。
その代わり覚がスマホの中で生きている。
そう思える様になったのだ。
「ポケットの中に入れた恋人だわ」と独り言を言う。
明るくなった櫻子は、最近デートに誘われた。
本好きの知的な客である。
覚に電話して「いいか?」と聞く訳にもいかない。
電話番号は知ってるが、何故かかけられない。
スマホは相談に乗ってくれない。
お昼休み、櫻子は雲がフワリと浮いた空を眺める。
覚も眺めた空である。
これから雲が何処へ行くのか誰も知らない。
その夜、櫻子は覚の住む街を歩いている。
覚はマンションの入り口で待っている筈だ。
「何も言わないでいいの。私を抱いて下さい。あなた以外の誰にも抱かれたくないの」
これが今の櫻子の一番自分に正直な気持ちだった。
だって愛してるからと思う。
電話口で覚の息を呑む音が聞こえた。
「いいかしら?」
「君はいいのか」
「いいの」
「じゃあ来いよ」
微かに暖かい風を受け、櫻子はそれだけのやり取りを何度か頭の中で繰り返す。
^_^
この時点で櫻子は覚が自分にハッカー行為をした事に気付いていません。
それにしても「愛してる」事はかなり怖いものがあります。
読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️
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