見出し画像

読書の森

50銭紙幣の思い出

本日は昨日とうって変わり、美しく晴れた空に恵まれて何よりです。

子どもの頃に住んだ町の淡く優しい空の色をふと思い出します。地方都市の小さな町です。
路地を挟んで同じような小さな木造建ての家が並んで、前の家に上級生の女の子がいて、確かキクちゃんと言ったけ、ナナという名の大人しい仔犬を飼っていたけど早く死んじゃってとても辛かった、ラジオから大好きな連続ドラマの『笛吹童子』のメロディが流れてた、、なんてフワフワ漂う夢のような思い出です。

小学校1年生の終わりに祖母に連れられ、上京してから再びその町を訪れた事はないのです。

フワフワ漂う夢のよう、と書きましたが、ところどころ、恐ろしく鮮明に覚えてる記憶が幾つかあります。

その一つが50銭紙幣の思い出です。
戦後恐ろしく紙幣の価値が変わりました。銭単位の戦前の紙幣は使用出来ないのです。
その中で唯一使えたのが昭和23年発行の50銭紙幣です。
今みたいな上質な紙幣でなく、肖像画は板垣退助(板垣死すとも自由は死せずで有名)地味な色の小さな紙幣でした。

ある日、幼い私はその紙幣を握りしめて、近くの駄菓子屋に好物のパンを買いに行ったのです。
その辺りで一軒しか無い駄菓子(雑貨)店は小川の近く、小さな橋を渡ってお店があり、もっと先に行くと神社がありました。


お目当ての菓子パンを店のおばさんが広告のビラで包んで渡すその時、私は一旦ポケットにしまった筈の50銭が無いのに気づいたのです。
スーッと血の気が失せてしまった。

お金を落とすなんて初めてです。こんな時にお金が無いなんて、必死の形相で「ごめんなさい。お金落っことしたみたい!」

おばさんもつられて慌てた。
「どこ?どこか覚えてる?」

情けない事に全然覚えてないのです。道々辺りの景色を能天気に見てた事だけ覚えてました。
「どれどれ」奥の襖が開いておじさんが出てきた。


「そのポケットにお金入ってたんだよね」
「はい。手で握ってたのをポケットに入れました」
「どこで?」
「橋の上」
おじさんとおばさんは顔を見合わせて頷いた。
「その時ポケットにきちんと入らないで川に落ちたんだよ」

「どうしょう、お金無くしちゃった!」
泣きそうになった私に優しい眼差しを向けて
「良いから良いから。パン持って家に帰ってお母さんに言ってらっしゃい」
「お母さん未だ帰ってないみたいだけど(パート事務にでてる)」
「大丈夫よ。パンはもっと安いから今度お代を持ってきてな」

そうして私はやけに重たく感じるタダ(?)のパンを手に帰宅しました。その後。
急いで駄菓子屋に行った母は、浅い川で50銭札を探してる裸足のおじさんに平謝りだったそうです。

綺麗な水の流れてる川から、とうとう50銭紙幣は出てこなかったそうです。

昔昔のお話です。
50銭紙幣は、昭和28年いっぱいをもって使用不可となりました。多分その年六月の忘れられない出来事でした。




読んでいただきありがとうございました。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

最近の「エッセイ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事