読書の森

お化け屋敷の思い出



東急東横線の多摩川駅が多摩川園前駅と呼ばれていた頃、夏休みになると私は多摩川園のお化け屋敷に行くのが楽しみだった。
昭和30年代、小学生の時だ。
友達と連れ立って屋敷の暗い入口に足を踏み入れる時のワクワク感を今でも思い出す。
何が待ち構えているのだろう。
「絶対怖がってなんかやるもんか」と子供の私は自分に誓う。
それでも、ぞっとする怖さを求めて湿った順路を歩いていく。
気味の悪い笑い声の聞こえる竹藪を通り、青白いライトに照らされた幽霊(人形)に遭遇する。
その度にキャーキャー悲鳴が聞こえるのが面白い。

古井戸に生首が浮いていたり、壁から青白い手がヌッと突き出してきたりと、狭い屋敷は怖いものが満載である。
上から客を襲ってくる生首は滑車で動く。
極めつけは、出口近くでほっとしたところに首筋をひやりと冷たい幽霊の手でなぜられる事だ。
これは全身黒づくめのアルバイトが、そっと忍び寄ってこんにゃく(!)を客の首筋に当てる仕掛けである。

今考えるとホントに素朴で長閑な幽霊たちだったと思う。

多摩川園の歴史は古く大正時代に開園したが、土地価格の高騰(超高級住宅地のため)や子供の数の減少のために1979年(昭和54年)閉園した。
今はおじさんおばさん(お爺さんお婆さん)世代の東京西部や横浜辺の子の大半は、この遊園地で遊んだ思い出があるのではないか?
緑豊かで、心の贅沢が思う存分できたユートピアだった。



時代は流れ、お化け屋敷なんか行かなくても今の世の中はスリルとサスペンスにあふれている。
こんにゃく片手の牧歌的なお化けと異なり、必殺仕事人的メカが追いかけてくるようだ。

それでも、私は未だに「怖いもの」が見たい。
そんな性格が治らない為に、それこそホントの怖いものをいっぱい見てしまった。

それでも未知の怖いものって何だろうと冒険してみたい。
さすがに「君子危うきに近寄らず」という諺はしっかり体得したが、今は君子ならずとも危うきを避け過ぎている気がする。

自分たちを襲う怖い猫の首に鈴を付ける蛮勇を持ったネズミちゃんの登場を願ってしまうのだ。

読んでいただきありがとうございました。

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