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3人のメアリーとエリザベス 3

2008年02月04日 | 雑記
メアリー1世のかなり不遇な少女時代を前回紹介しましたが、彼女の不遇な人生はまだまだ続きます。

2人目のメアリー:メアリー1世
 先にメアリーの母キャサリンは父ヘンリー8世と離婚したと言いましたが、厳密には違います。キリスト教は離婚を許しません。なので、キャサリンヘンリー8世の兄の未亡人であったことから、近親婚による「結婚の無効」を主張したのです。キリスト教では兄嫁と結婚することも近親婚となったことは、前回説明しました。
 あれ? だからこそ教皇に特赦をもらったんじゃないの?
 まさしくその通り。
 兄嫁と結婚するから特赦をもらったのに、兄嫁と結婚したから結婚は無効だなんて、教皇じゃなくても「ちょっと待てや」と言いたくなります。

 そんな訳で、メアリーは自分が産まれる前、父と母の結婚自体を無かったことにされたために、王位継承権を剥奪とか王女の地位を失うとかそんなレベル以前の問題、私生児として扱われることになったのです。
 この当時、私生児と嫡出子との差は天と地ほどにもあいていました。
 一方は「王子様」「王女様」として大勢の家臣にかしずかれて生活します。
 しかしもう一方はその王子様・王女様にかしずく存在です。例えその王子様と王女様が血を分けた兄弟であっても。
 ということで、メアリーは産まれたばかりの王女、エリザベスの召使い扱いをされることとなりました。

 ところがここで奇妙な運命が彼女に訪れます。
 何と自分を召し使い扱いしていたにっくき継母が、自分の母と同じように飽きられ父ヘンリー8世に捨てられたのです。
 ヘンリー8世エリザベスしか産めなかったアン・ブリーンには早々と見切りをつけ、新しい恋人ジェーン・シーモアと結婚しようと考えます。方法はメアリーの母キャサリンの時に使った手です。ヘンリー8世アン・ブリーンを姦通罪と反逆罪の罪に問い、伝家の宝刀「結婚の無効」を宣言します。そしてこれにより、エリザベスの出生も白紙に戻り、彼女はメアリーと同じ私生児となります。この辺の事情を映画にしたのが『1000日のアン』です
 さらにアン・ブリーンは国王の暗殺を企てただの、魔術を行っていただの、実の兄と近親相姦を行っていただの様々な罪をなすりつけられて処刑されます。
 ざまぁ、見ろとメアリーが思ったかどうかは知りませんが、母を失い王女の地位を剥奪された二人の王女が、手を携えて生きたわけではないことはその後の二人の関係を見ていれば分かります。父ヘンリー8世からメアリーの後はエリザベスと指定されながら、メアリーはぎりぎりまで妹エリザベスに王位を譲らなかったばかりか、彼女を反逆罪の疑いでロンドン塔に幽閉したこともあります。

 さて、父親の三番目の妻ジェーン・シーモアは待望の男の子を産みます。超機嫌が良かった父は、メアリーエリザベスを王宮に呼び戻しますが、ジェーンはそのまま亡くなってしまいます。
 さすがにこれには厚顔無恥な父親もショックだったらしく、引きこもりになってしまいます。王宮に呼び戻されたのは良いけど、父親がこの調子だから結局メアリーエリザベスの立場は微妙なまま放って置かれてしまったのでした。
 その後、父親はさらに3人の女性を妻に迎えます。4人目の妻アン・オブ・クレーヴズとは肖像画と実物が違うという理由で、たった6ヶ月で離婚します。5人目の妻キャサリン・ハワードはエリザベスの母アン・ブリーンの従妹でしたが、従姉と同じく姦通罪で処刑されます。結婚生活1年なので、身内のエリザベスを気に掛ける暇もなかったのですが、そもそもそういう性格の人でもありませんでした。メアリーエリザベスは相変わらず私生児待遇で、放ったらかし状態です。
 最後の妻、キャサリン・パーはとても良い人で、この人の嘆願でやっとメアリーエリザベスは剥奪されていた王女の地位を取り戻します。そして異母弟エドワード6世の後の王位継承権も与えられます。彼女はさらに、王宮で放ったらかしで育っていたメアリーエリザベスに王女としての教育も与えます。
 とっても優しく聡明な継母だったらしく、メアリーエリザベスもこの継母になついていました。産まれてすぐに母親を亡くしたエリザベスにとっては、母同然の存在でもありました。
 しかし彼女はヘンリー8世の死後トマス・シーモアと再婚しますが(実はキャサリンはヘンリー8世と結婚する前トマスと恋人同士でした。そしてヘンリーに見初められた時、王の死後トマスと結婚すると約束していました)、子供を産んだ後そのまま亡くなってしまいます。

 やっと訪れた安らぎはあっという間に失われ、二人の王女はまたもや孤独となるのでした。

参考文献:ヘンリー8世関係
       森護「英国王室史話」
参考文献:アン・ブリーン関係
       石井美樹子『薔薇の冠』朝日新聞社、1993年
       大野真弓『新版イギリス史』山川出版社 1983年
       小西章子『華麗なる二人の女王の闘い』朝日新聞社、1988年
       ダイクストラ好子『王妃の闘い ―ヘンリー八世と六人の妻たち』、未知谷、2001年
       渡辺みどり『英国王室物語 ―ヘンリー八世と六人の妃』講談社、1994年
参考文献:アン・オブ・クレーブズ関係
       ダイクストラ好子『王妃の闘い』
       渡辺みどり『英国王室物語』
参考文献:キャサリン・ハワード関係
       森護『英国王妃物語』三省堂選書
       渡辺みどり『英国王室物語』

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