「一聴了解」というブログ経由で知ったことですが,伊藤塾のHPに妙な記事が載っていました。
http://www.itojuku.co.jp/shiken/yobi/feature/DOC_017013.html#root
これまで,新制度下で法曹になる方法といえば,法科大学院を修了して新司法試験を目指すか,それとも予備試験に合格して新司法試験を目指すかの二択だと思われていたのですが,司法試験の受験予備校である伊藤塾では,「予備試験合格後に難関法科大学院(東大ロー,京大ローなど)に進学する」というルートを勧めているのです。
具体的には,「司法界の新スタンダード! 法科大学院は予備試験,さらには司法試験に合格してから進学する時代に変わります!」などと銘打って,実際に予備試験に合格しながら東大法科大学院に進学した人の「声」が複数掲載されているのですが・・・。
著作権などの問題があるので,「合格者の声」自体を直接引用することは避けますが,要するに彼らの言い分を総合すると,予備試験または司法試験に合格していながら敢えて法科大学院に進学することには,次のようなメリットがあると認識されているように思われます。
1 試験に合格してから法科大学院に進学することで,試験範囲にとらわれない「真の法律学」の勉強が出来る。具体的には,興味のある科目をとことん勉強する,司法試験で選択していない科目や司法試験にない科目を含め幅広い知識を身に付ける,など。
2 著名な学者が多く在籍しているので,一流の教授陣による高度で知的好奇心をかき立てられるような授業を間近で受けられる。
3 優秀で志の高い友人達と出会える。
まあ,黒猫も法学部在学中に大学院進学を検討したことのある身なので,こういう発想も理解できないわけではありませんが,結論としてはかなり間違った発想ではないかと思います。
こういう発想をする人達が,おそらく誤解していると思われる点を列挙してみましょう。
その1。法科大学院で「真の法律学」の勉強をするのは難しいということ。
東大の大学院でも,かつて存在した実務家養成コースであれば,興味がある特定の法律分野を集中的に勉強したり,いろんな発展科目の講義を聴いて見識を深めたりすることは十分に可能であり,現に大手渉外事務所に就職した弁護士などが学びに来ている実例もありました。
しかし,法科大学院は司法試験合格前の学生を想定したカリキュラムが組まれているため,授業の6割くらいは司法試験に出題される「法律基本科目」の授業であり,その内容も基本的には「司法試験合格前の学生」に向けた授業であるため,司法試験合格者の受講には適しません。しかも,レポート課題なども頻繁に出されるため,「真の法律学」の勉強とはほど遠い無益な作業に忙殺されることになります。
なお,法科大学院でやっている模擬裁判や実務教育の類は,実務をやっている側から見れば単なるお遊びに過ぎず,そのような勉強をしたいから法科大学院に行くというのは愚か者のすることです。
それでも大学院で「真の法律学」の勉強をしたいのであれば,大学院の修士課程なり博士課程なりに進んだ方がまだましではないでしょうか。時間もたっぷり取れますし,授業料も法科大学院より安いですし。
その2。東大の教授達は,一流の研究者ではあっても一流の教育者では決してないということ。
他大学の法学部出身者の中には,著名な教授達から直接授業を受けられる東大生をうらやましがる人も結構いるようですが,基本的に東大の教授というのは,研究者としての実力を高く評価されてている人達であって,学生に教える実力を評価されているわけではありません。学界では高名な民事訴訟法の教授であっても,大学の講義ではほとんど自分が書いた本を棒読みするだけで,学生の不評を買っているような教授も過去にはいました。
また,高名な東大教授であっても,現行の実務からかけ離れた問題意識を持ち,実務とは無関係な研究をしている人も少なくありません。知的好奇心を満足させられるような授業を受けられる保障は全くありません。
その3。友達は実務修習でも,また弁護士になってからでも作れるということ。
これはわざわざ説明を要することではありませんが,友達を作るために法科大学院に行くというのは,よほどお金と時間を持て余している人でない限り,止めた方がいいでしょう。
なお,昨今は法曹界全体の不人気に伴い,東大法学部すら定員割れが生じている状況であるため,東大・京大の法科大学院も学生の質は相当落ちている模様であり,司法試験合格者にとって「友人として共に切磋琢磨できる」レベルの学生はそれほど多くないと予想されます。
その4。東大法科大学院を卒業したからといって,実務界に高く評価されるわけではないこと。
実情を知らない外野から見れば,同じ司法試験合格者でも東大や京大の法科大学院を卒業した方が,実務界に高く評価され就職にも有利だろうと思えるのかも知れません。
まあ,同じ法科大学院卒の間では有名大学の方が有利かも知れませんが,もともと法曹界の間では,東大法学部卒より東大法学部中退の方が高く評価されるという奇妙な風習があり(後者は大学2年ないし3年で司法試験に合格したことを意味するため),現行制度の下では,おそらく法科大学院卒より予備試験合格者の方が高く評価されるでしょう。予備試験に合格していながらわざわざ法科大学院を経由し年を食ってしまうのは,予備試験合格というせっかくのプレミアチケットを自ら捨ててしまうことになりかねません。
なお,法曹界における空前の就職難は,東大法科大学院を卒業しストレートで司法試験に合格しても就職できない人が相当数いるというレベルに達しているため,仮に東大法科大学院を卒業すれば就職には困らないだろうなどと考えている人がいたら,それは全くの幻想でしかありません。
受講生減に悩んでいる伊藤塾が長年対立関係にあった大学側との和解をもくろんでいるのか,それとも単に新商法の開拓を模索しているのかは知りませんが,少なくともこれだけは言っておきます。
弁護士でも裁判官でも検察官でも,法律の実務家になりたいのであれば,できるだけ早く実務に就き,経験を積むのが最適な手段です。就職するにも,同じ能力なら若い人の方が絶対有利です。実務に就くのが遅れれば,その分だけ就職の機会も少なくなり,生涯所得も大きく減少することになります。
伊藤塾の言うような,予備試験・司法試験に合格しながら敢えて法科大学院に進学するという進路は,あまりにも時間とお金の無駄遣いであり,決して一般化はしないと思います。
http://www.itojuku.co.jp/shiken/yobi/feature/DOC_017013.html#root
これまで,新制度下で法曹になる方法といえば,法科大学院を修了して新司法試験を目指すか,それとも予備試験に合格して新司法試験を目指すかの二択だと思われていたのですが,司法試験の受験予備校である伊藤塾では,「予備試験合格後に難関法科大学院(東大ロー,京大ローなど)に進学する」というルートを勧めているのです。
具体的には,「司法界の新スタンダード! 法科大学院は予備試験,さらには司法試験に合格してから進学する時代に変わります!」などと銘打って,実際に予備試験に合格しながら東大法科大学院に進学した人の「声」が複数掲載されているのですが・・・。
著作権などの問題があるので,「合格者の声」自体を直接引用することは避けますが,要するに彼らの言い分を総合すると,予備試験または司法試験に合格していながら敢えて法科大学院に進学することには,次のようなメリットがあると認識されているように思われます。
1 試験に合格してから法科大学院に進学することで,試験範囲にとらわれない「真の法律学」の勉強が出来る。具体的には,興味のある科目をとことん勉強する,司法試験で選択していない科目や司法試験にない科目を含め幅広い知識を身に付ける,など。
2 著名な学者が多く在籍しているので,一流の教授陣による高度で知的好奇心をかき立てられるような授業を間近で受けられる。
3 優秀で志の高い友人達と出会える。
まあ,黒猫も法学部在学中に大学院進学を検討したことのある身なので,こういう発想も理解できないわけではありませんが,結論としてはかなり間違った発想ではないかと思います。
こういう発想をする人達が,おそらく誤解していると思われる点を列挙してみましょう。
その1。法科大学院で「真の法律学」の勉強をするのは難しいということ。
東大の大学院でも,かつて存在した実務家養成コースであれば,興味がある特定の法律分野を集中的に勉強したり,いろんな発展科目の講義を聴いて見識を深めたりすることは十分に可能であり,現に大手渉外事務所に就職した弁護士などが学びに来ている実例もありました。
しかし,法科大学院は司法試験合格前の学生を想定したカリキュラムが組まれているため,授業の6割くらいは司法試験に出題される「法律基本科目」の授業であり,その内容も基本的には「司法試験合格前の学生」に向けた授業であるため,司法試験合格者の受講には適しません。しかも,レポート課題なども頻繁に出されるため,「真の法律学」の勉強とはほど遠い無益な作業に忙殺されることになります。
なお,法科大学院でやっている模擬裁判や実務教育の類は,実務をやっている側から見れば単なるお遊びに過ぎず,そのような勉強をしたいから法科大学院に行くというのは愚か者のすることです。
それでも大学院で「真の法律学」の勉強をしたいのであれば,大学院の修士課程なり博士課程なりに進んだ方がまだましではないでしょうか。時間もたっぷり取れますし,授業料も法科大学院より安いですし。
その2。東大の教授達は,一流の研究者ではあっても一流の教育者では決してないということ。
他大学の法学部出身者の中には,著名な教授達から直接授業を受けられる東大生をうらやましがる人も結構いるようですが,基本的に東大の教授というのは,研究者としての実力を高く評価されてている人達であって,学生に教える実力を評価されているわけではありません。学界では高名な民事訴訟法の教授であっても,大学の講義ではほとんど自分が書いた本を棒読みするだけで,学生の不評を買っているような教授も過去にはいました。
また,高名な東大教授であっても,現行の実務からかけ離れた問題意識を持ち,実務とは無関係な研究をしている人も少なくありません。知的好奇心を満足させられるような授業を受けられる保障は全くありません。
その3。友達は実務修習でも,また弁護士になってからでも作れるということ。
これはわざわざ説明を要することではありませんが,友達を作るために法科大学院に行くというのは,よほどお金と時間を持て余している人でない限り,止めた方がいいでしょう。
なお,昨今は法曹界全体の不人気に伴い,東大法学部すら定員割れが生じている状況であるため,東大・京大の法科大学院も学生の質は相当落ちている模様であり,司法試験合格者にとって「友人として共に切磋琢磨できる」レベルの学生はそれほど多くないと予想されます。
その4。東大法科大学院を卒業したからといって,実務界に高く評価されるわけではないこと。
実情を知らない外野から見れば,同じ司法試験合格者でも東大や京大の法科大学院を卒業した方が,実務界に高く評価され就職にも有利だろうと思えるのかも知れません。
まあ,同じ法科大学院卒の間では有名大学の方が有利かも知れませんが,もともと法曹界の間では,東大法学部卒より東大法学部中退の方が高く評価されるという奇妙な風習があり(後者は大学2年ないし3年で司法試験に合格したことを意味するため),現行制度の下では,おそらく法科大学院卒より予備試験合格者の方が高く評価されるでしょう。予備試験に合格していながらわざわざ法科大学院を経由し年を食ってしまうのは,予備試験合格というせっかくのプレミアチケットを自ら捨ててしまうことになりかねません。
なお,法曹界における空前の就職難は,東大法科大学院を卒業しストレートで司法試験に合格しても就職できない人が相当数いるというレベルに達しているため,仮に東大法科大学院を卒業すれば就職には困らないだろうなどと考えている人がいたら,それは全くの幻想でしかありません。
受講生減に悩んでいる伊藤塾が長年対立関係にあった大学側との和解をもくろんでいるのか,それとも単に新商法の開拓を模索しているのかは知りませんが,少なくともこれだけは言っておきます。
弁護士でも裁判官でも検察官でも,法律の実務家になりたいのであれば,できるだけ早く実務に就き,経験を積むのが最適な手段です。就職するにも,同じ能力なら若い人の方が絶対有利です。実務に就くのが遅れれば,その分だけ就職の機会も少なくなり,生涯所得も大きく減少することになります。
伊藤塾の言うような,予備試験・司法試験に合格しながら敢えて法科大学院に進学するという進路は,あまりにも時間とお金の無駄遣いであり,決して一般化はしないと思います。
これはさすがにいいすぎで、評価云々するほどの数がきわ
めて少ないと思いますよ。仙谷さんみたいなのもいるから
ないとはいわないですけど。
昔の外務省キャリアの場合なら別ですけど。