黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

進む法科大学院の「予備校化」 ~共通到達度確認試験(仮称)制度の持つ意味~

2012-12-26 19:45:09 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 なんか最近アクセス数が急増していますけど,たぶん河野さんのブログで紹介されたからでしょうね。他人の批判を厭わない黒猫の辛口暴言はいつものことですし,深くは考えないことにします。

 今日の記事は,二弁フロンティアに書かれていたことではなく,法曹養成制度検討会議の動向に関するものです。
 第5回会議において,文部科学省が『法学未修者教育の充実方策に関する調査検討結果報告』という資料を出しており,これを見た当初は黒猫も何を意味するか分かりかねたのですが,他の資料を比較しながら丹念に読んでみると,既に破綻していると言われて久しい法科大学院の未修者教育を何とか改善しようと文科省内部で検討をし,改善策について一応の結論が出たようです。
 今回示された改善策のうち「目玉商品」と言えるのは,法科大学院の未修者が2年次に進級する際,全法科大学院共通で行われる「共通到達度確認試験(仮称)」を受験させて,その試験で一定以上の点数を取ることを進級の要件にするといった制度を設けることによって,未修者教育の質を高めようという試みでしょう。なお,2年次から3年次への進級時には,「画一的な方法による実施するのはふさわしくない」としつつも,やはり似たような制度を設けることを検討するつもりのようです。
 さらには,このような試験を設ける理論的な根拠が必要と考えたのか,医師出身の国分委員に,医学部で行われているという共用試験(CBT及びOSCE)の説明資料を提出させています。第5回の議事録はまだ公開されていませんが,おそらく国分委員に医学部の「共用試験」に類似した制度を法科大学院でも導入するよう提案させているのでしょう。医学部の共用試験は,平成14年から4回のトライアルを経て,平成17年12月から正式に開始されたとのことなので,確認試験にも同じくらいの試行期間が必要と考えるなら,おそらく実際の施行には少なくともあと3年くらいかかる,ということになるのでしょうか。実際にはそんなことをしている間に,法科大学院の入学者はさらに減り,予備試験ルートが事実上法曹養成制度の中核になるのではないかという気もしますが。

 「共通到達度確認試験(仮称)」,長いので以下単に「確認試験」と表記しますが,このような試験の構想案には,検討会議の新顔である和田委員が早速意見を述べています。意見のうち確認試験に関する部分を要約すると,「確認試験が本当にうまく運用できるのであれば,法科大学院教育をめぐる問題も改善されることになるので構想自体には賛成するが,多くの法科大学院には,そのような確認試験の導入に耐えられる教育力はないと思われる」といったものになるでしょう。
 和田委員の指摘している法科大学院教育の実態というものは,もはや教え方のまずさ以前の問題で,例えば憲法なら国会についての講義を全30時間のうちたったの1時間で終わらせてしまうとか,民法なら総則の講義で錯誤の話ばかりをし,期末試験でも繰り返し錯誤から出題していたとか,そもそも初学者に分かりやすく教えることなど全く出来ないとか,自分の狭い専門以外の領域になると学生に教える基本的知識も不正確で,勉強の進んだ学生から間違いを指摘されるといった教員も珍しくはないようです。
 なお,このような問題は必ずしも下位校の教員に限った話ではなく,司法試験合格者を数多く出している有名校でもそのような教員がいる(法学部時代の話でよいのなら,黒猫が通っていた時代の東京大学にも,講義内容が一部にとどまり必要な範囲をしっかり教えてくれない教授はいました。検討会議等の常連である井上正仁教授もその一人です。)ということに注意する必要があります。
 このような状況の下で確認試験を導入した場合,法科大学院が「確認試験対策の授業で手一杯になる」ならまだ良い方で,ひどいところでは「法科大学院は,司法試験や確認試験対策の勉強をするところではない。確認試験の対策は予備校でやってくれ」と投げ出してしまうところさえ出てくるでしょう(司法試験対策に関しては,既にほとんどの法科大学院が事実上投げ出していると言っても過言ではありません)。そうであれば,いっそのこと法科大学院の授業自体を予備校に外注してしまえばよいのではないかという批判は必然的に生じてくるでしょう。
 予備校であれば,授業科目のうち少なくとも司法試験・確認試験に必要な事項については満遍なく教えてくれますし,授業方法にも工夫を凝らして受講生に定評のある講師が教えてくれますので,少なくとも法科大学院の教員よりはまともな授業をしてくれるはずです。
 
 しかも,前述した法学未修者教育の充実方策云々という資料の中には,「法律基本科目など講義形式を中心とする授業科目については、双方向性は確保しつつも、必ずしも少人数授業にこだわらないことと(する)」といった記述や,「質疑応答や討論を中心とした授業方法に過度にこだわるのではなく、法学の知識や法的思考力等の基礎・基本の徹底を図るため、講義形式での授業方法を中心として取り入れるといった工夫が求められる」といった記述(いずれも13頁)があります。
 そもそも,法科大学院の設立が検討された時点では,法科大学院では従来の法学部や予備校ではできなかった授業(少人数教育で双方向的・多方向的な密度の濃い授業)をやるんだ,具体的には一方的な知識の伝授ではなく,判例を題材に教員と学生が議論しながら授業を進めていくケース・メソッド(ソクラテス・メソッド)やら,学生同士の討論やらを中心とした授業をやっていくんだ,だから法科大学院が必要なんだという趣旨のことを,法科大学院創設の主導者である佐藤幸治教授は国会答弁でも繰り返し主張されていました。
 これに対し,今回文科省が出してきた資料では,一転して従来法科大学院教育の目玉とされてきたケース・メソッドや討論形式の授業にこだわる必要はなく,むしろ知識の伝授である講義形式を中心にすべきであるとか,知識を確認するための演習科目を充実させる必要がある代わりに,講義の方は少人数でなくても構わない(双方向形式の授業が事実上困難になる,ある程度大人数の授業になってもやむを得ない)といったことを,国の方針として唐突に言い出したことになります。
 黒猫自身は,そもそもケースメソッドとか討論形式といった授業のやり方は間違っていると繰り返し指摘してきた立場ですので,文科省が(事実上)間違いを認めたことは積極的に評価しますが,結局講義プラス演習(答案練習)という予備校とさほど変わらない形式の授業を行うのであれば,教員の質が壊滅的にダメな法科大学院などさっさと廃止して,その予算を司法修習の充実や司法試験勉強のため予備校に通う人への経済的支援などに充てた方がよほどましではないかという批判に対し,もはや法科大学院制度は逃げる術を失った,ということもできます。
 法曹倫理の授業などは司法修習でやればいいですし,基礎法学・隣接科目や応用・先端科目の授業は,そもそも社会人や他学部出身の学生にはあまり必要でないものらしい(上記資料自体にそういう趣旨のことが書いてあります)ですから,実務に入ってから勉強することとしても特に問題はないと考えられます。
 確認試験の導入を柱とする文科省(正確には中教審ワーキンググループ)の打ち出した「改善策」は,もともと構想自体からして間違っており,制度施行後も散々迷走を続けて各方面から批判を浴び続けた法科大学院制度の行き着いた「最後の墓場」であると言って良いでしょう。
 文科省の資料にはそれ以外の改善策なるものも縷々書かれていますが,そのほとんどは改善策の内容自体が曖昧かつ不明確なものであり,逐一論じるにも値しません。要するに,文科省は法科大学院を存続させるための時間稼ぎとして詭弁を弄しているに過ぎませんので,構造改革を唱える安倍自民党政権やその成果を監視する国民の皆様がこのような詭弁に惑わされず,法科大学院制度の廃止が法曹養成制度を立て直す唯一の道である旨正しく認識して頂くことを願うほかありません。

 なお,黒猫が以前から問題視してきた中教審法科大学院特別委員会の第49回会議議事録は,今日確認した限りまだ公表されていませんが,おそらく文科省の官僚が検討会議に提出する資料の作成に追われた結果,議事録の公表は後回しになってしまったのでしょう。もはや議事録を読まなくても,ケース・メソッド方式の講義を批判する山本教授の意見は事実上容れられたということが今回の資料で分かりましたので,情報公開請求などは特に行わないことにします。

11 コメント

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Unknown (甲南ロー出身の弁護士)
2012-12-26 20:09:32
最近感じますが、給費制よりも、まずロースクール廃止を訴える方が、あるいはロースクール廃止とセットで給費制復活を訴える方が、世論の支持を得やすいのではないかと思います。

ロースクール制度が不合理であることが年々明らかになっても、ロースクールが存続している状況であり、ロースクール廃止の声が増える中、ロースクール推進派が、法曹検討会議の主力であったりと、未だ勢力が強い状況です。

ロースクール受験資格要件強制違憲訴訟も視野に入れた検討の必要性も感じています。
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Unknown (SB)
2012-12-26 23:05:22
法科大学院制度には致命的な欠陥だらけですが,その1つとして,法律事務所は若い人を欲しがるところばかりであり,社会人経験者の需要は全くと言っていいほどないということも挙げられます。
http://www.noandt.com/topics/2012/20121221_01.html
http://www.jurists.co.jp/ja/topics/others_13299.html
http://www.mhmjapan.com/ja/news/12390/detail.html

未習者が原則であるという法科大学院制度は既に原始的不能が確定しています。何をやっても法科大学院制度の改善可能性はありません。
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Unknown (Unknown)
2012-12-27 01:53:22
長島大野の新人は,見事なまでに新卒ですね。
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Unknown (芳賀)
2012-12-27 09:26:58
難関試験受かっても現役で数%しか大手に
入れず、他はイソ弁の椅子の取り合いです
よね。

政令指定都市の地方公務員のほうがはるかに
コストパフォーマンス良いですよね。
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Unknown (Unknown)
2012-12-27 10:33:41
甲南ロー出身修習生様のおっしゃるとおりで、給費制復活だけ言っててもしょうがなく、ロー制度こそ諸悪の根源であることを言うことで、説得力は数倍に膨れ上がると思われます。給費制復活にも弾みがつくでしょう。

しかし、ロー廃止については、給費制復活に血道をあげていた日弁連が、なぜか手を付けません。
理由は2つ。
1 ローを推進してきた勢力が発言力を持っていて、ロー廃止を打ち出せない(こいつらさえいなければよかったのにw)
2 給費制復活運動の主力の中に、ロー出身や、1の勢力の人間が多数混ざっている。したがって、ロー廃止をひっくるめると、これらがゴソッと出ていって、給費制復活までもひっくるめて活動する人がいなくなるおそれがある。

ただ、ロー出身にいいたい。
おまえらはロー出身で、ローのおかげと思ってるかもしれんが、そんなことは関係ない。制度がどうあるべきかの問題は、もっと客観的に見るべき。法律家ならそのぐらいの分析的思考ができないとダメだぞ。
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Unknown (Unknown)
2012-12-27 10:37:36
法科大学院制度の欠陥

法科大学院自体の教育がうんこというのもありますけれども、社会人からみて

卒業後2ヶ月してから司法試験
それから発表まで4ヶ月も待たされる
1回目で合格しても、キャリアは半年中断する

これ、どうにかなんないんですかね。
制度設計したヤツは真正のアホでしょう。
だいたい、受験してから4ヶ月も採点にかかる理由を聞いて呆れはてましたよ。わたしは。

その理由とは。
採点委員の多くを占める学者が、夏休みに入らないと採点できないから。
ですって。

なんだそれ。
学生の都合は完全無視かい!笑

こんなクソ以下の制度で、社会人を呼び込もうって。
よっぽど社会がイヤになった社会人しかこねーよ。
まして法曹のお先は真っ暗だ。
まともな社会人は、こないね。きっと。

学者を法科大学院から放逐するか、試験委員から排除しないとダメでしょこれorz
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Unknown (Unknown)
2012-12-27 10:42:13
だいたい、弁護士が高圧的だの敷居が高いだのいうけれど、学者はどうなの。

司法試験受験生が、学者のうんこ以下の授業を見捨てて予備校に走った。

でも反省せず、こんどは、むりやり大学(院)に通わせる制度をつくった。
んでもってまともな授業してるかっつーと、してねーw
あいかわらずの自慰行為的授業。
しかも、学費が高いのなんのw

もう少しマトモならまだしも、ですよ。

それで、単位認定権=司法試験受験資格の付与権を学者に与えたものだから、やりたい放題w
どこぞのローでは、教員が女子学生をラブホに連れ込む始末。アカデミックセクハラって問題になってるけど、高額の学費払って司法試験受験資格付与権まで与えてしまったら、やりたい放題になるんじゃないの?暗数はものすごいことになってるかもわからんね。

高圧的というか、まともに授業しなくてもクビになることがめったにないから、学者のほうが横柄なのは間違いないですな。
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Unknown (甲南ロー出身の弁護士)
2012-12-27 12:58:51
運動論として、ロースクール賛否両者と共通項としてロースクール問題棚上げはやむを得ない所はあります。

しかし、年々ロースクール反対派も増えている中(私もそうですが)、給費制だけの主張ももはや通じず、ロースクール反対派から、今の運動に疑問が呈されているのも事実です。

私も記者会見では、ロースクール問題にも可能な限り、言及するようにしていますが、ロースクール 廃止まで踏み込めないことが辛い所です。

少なくとも問題意識は示すようにしてはいますが、限界はあります。

もはや給費だけの主張は通じず、ロースクール問題も絡めなければ、ロースクール反対派の方々が運動から離れる恐れもあり、運動そのものが瓦解する恐れもあります。

ロースクール問題がなければ、もう少し 給費制運動もしやすかったと思います。
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Unknown (Unknown)
2012-12-27 13:32:46
甲南ロー出身の弁護士さん(さっき修習生と書いちゃいました。ゴメンナサイm(__)m)

そうですね。ローのせいで議論が複雑化してしまっています。というか整理しなきゃいけないのに、整理できないヤツらが上にいるから、ロー問題が整理・総括できず、今に至っているのが実情です。
宇都宮先生は、そこをきちっとしてから、給費制の議論をスタートするべきだったと思うのですが、いかんせん時間がなさすぎましたね(貸与制スタート直前の就任でしたから)。

とすると、過去の執行部のこの問題に対する不作為&ローへの対応は、きわめて重い判断ミスと言わざるをえないでしょう。司法というか弁護士という業種を、故意に近い重過失で危殆に陥れたわけですから。

ロー反対の弁護士も給費制復活運動には多く参加しています(たぶんマトモかつ利害関係なければロー反対w)。このまま日弁連がローをかばいだてする姿勢をとり続けると、給費制活動ごと瓦解するでしょうし、それをみて幻滅した現修習生=ローに対して冷淡=は、日弁連という組織をさっさと見限り、何の期待もしなくなるでしょうから、会員の自己犠牲によってなりたってきているので、それを強制する理由付けを失っているので、会務は一掃されるでしょう。
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Unknown (甲南ロー出身の弁護士)
2012-12-27 13:56:53
少なくともロースクールについて、問題意識は、私の周りも持っていますので、それを世論に伝えていけたらと思います。

私にどこまでできるかはわかりませんが、運動が瓦解しないように頑張ります。
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