黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

修了生による『法科大学院』の評価

2012-04-15 12:52:04 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 法科大学院については,衆議院の法務委員会で自民党の河井克行議員がこのような発言をし,業界内で話題になっています。
『法曹養成と法曹人口を一軒の家に例えれば、設計が間違い、かつ施工も不良で、新築のときから土台から傾き始め、築後九年目、誰の目にももはや住むことができない状態であることが明らかであるにもかかわらず、台所の水漏れをどうしのぐかということを考えている、これがこの司法修習生の給与のあり方についての今の議論だと私は認識をいたしております。』
 全くの正論であり,議場内でも民主党の議員から賛同の声が挙がったらしく,河井議員はこれに続けて「ありがとうございます。初めて民主党から褒めていただきました。」と発言しています。自民党,民主党,そして裁判所法改正案の修正案を出している公明党の議員もこのような認識を持っているとすれば,既に国会内では法科大学院の存在意義自体を疑問視する意見が大勢を占めつつあるといっても過言ではないでしょう。法曹志望者を金づるとした既得権益を構築し,法曹養成制度を歪めに歪めまくった法科大学院制度も,ようやく終わりが見えてきました。攻撃の手をゆるめてはなりません。少なくとも法科大学院修了を司法試験の受験要件から外し,法曹養成制度を一刻も早く正常化しなければなりません。

 ところで,このような動きに対し,法科大学院出身の弁護士に,いかにも「法科大学院教育は有益だった」というような「体験談」を語らせ,何とか法科大学院制度を擁護しようとする動きもあります。下記のリンクに挙げた村岡美奈弁護士へのインタビュー記事はその最たる例でしょう。

http://www.saiban-kenpo.org/hatugen/backnumber/120409.html

 この記事では,若干内容が曖昧なところはあるものの,概ね法科大学院の授業は「実務に近い」ものであり,司法試験との関係でも「ひととおりの基本的な知識の理解は法科大学院の授業で十分だと感じています」と述べている一方,司法修習については「率直に言って、司法修習は物足りなく感じました。いわゆる「白表紙」を読んで起案するなどしましたが、実際の実務は、目の前にいる生身の人間である依頼者のお話しを聞きながらすすめられるのですから、私にとっては、修習はあまり役に立たなかったように感じています。」と,否定的な感想を述べています。
 しかし,この村岡弁護士は,司法修習生時代に栄光総合法律事務所で弁護修習を受け,その際の手記を残しています(以下のホームページにアップされています)。

http://www.eiko.gr.jp/photoessey/lawyeressey064.html

 この記事に書かれている村岡修習生の主な発言。
「弁護修習中に京都の弁護士事務所での内定が決ま「りましたが、そこは昔ながらの街の相談所的な、いわゆる「街弁(まちべん)」です。この先、私が無事に弁護士になっても企業法務の仕事に接することはないでしょう。そういう意味でも貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました。」
「初めのうちは、その事件のスケールや、訴額の大きさに驚いていました。印紙代だけで、私の住んでいる部屋の毎月の家賃を軽く超えています。次には、その法律問題が、当該取引業界についての前提知識がないと正確に把握できないということも知りました。打ち合わせの前に、必ず記録を読ませてもらうことにしていましたが、問題点を把握するだけでも四苦八苦です。最近ようやく、法人の事件に慣れてきたことで、お客さんの様子に目を向ける余裕も少しだけでてきました。そして、法人のお客さんにも『顔』があり、困った顔、怒った顔、うれしい顔があるのが時折りわかるようになってきました。
 当初、余裕のない私にとって、法人のお客さんとして事務所でお会いする会社の担当者の方々は、会社の抱える問題について、あくまで「仕事」としてクールに取り扱っているように見えました。しかし、徐々に、クールな計算や駆け引きでは説明の付かない感情が、法人のお客さんにもあるのだなと思えるケースがいくつかありました。つまり、目の前に『困っている顔』のお客さんがいる、という点で、個人のお客さんと変わりはないのではないかな・・・?と、思い始めました。」

 これが,「修習はあまり役に立たなかった」人の感想なんですかね。こんなこと言うなら,修習生時代の給費を自発的に返還すべきではないかと思うのは私だけでしょうか。
 このような村岡弁護士の「二枚舌」ぶりは,既に他のホームページ(http://ameblo.jp/mukoyan-harrier-law/entry-11219133172.html#cboxで指摘されているものではありますが,これに対する反論もどぎついことが書かれています。
 まず,ブログ主である向原弁護士の意見。
「法科大学院設立当初は、司法試験がどうなるかのグランドデザインも示されておらず、先生方といえば、司法試験についてはまるっきりの素人の先生が多いので、なにをやったらいいのかよくわからないままの試行錯誤が続いていたと感じられました。高い学費を払ってるのになんで試行錯誤してんねん、金返せ、と思ったことさえありました(笑)今でも返してほしいです(笑)。当時は若かったんですね。(笑)
 1年目の前期は、ほとんど公法系、なかでも憲法にばかり力をいれさせられました。毎回、授業の前と後にレポートを要求され、しかも、資料をバッサバッサと渡され、中身も、やたらと学術に走ったものでした。
 学生は、レポートを書くため、いろんな学術的資料をコピーして集めることになります。が、あまりにも膨大な資料が必要なため、学生が分担してコピーを行い、それを集約してみんなに配る、というシステムが構築されて行きました。
 学生は、膨大な資料を見た上で、膨大な時間をかけて、パソコンでレポートを書きます。法科大学院のパソコンは夜中まで埋まっていたようです。
 私は当時、仕事をしながら法科大学院に通っていたので、そんな潤沢な時間はありませんでした。それでも、なんとかレポートを毎回書いて提出していたのですが、入学して1ヶ月もすると、フッと「こんなんしてて受かるんか?」という疑問が頭を擡げ始めました。周りをよく見てみると、結局、レポートを集めて、引用できそうな箇所を引用してレポートを書いているだけ。いわゆる「コピペ」です。
 完全に馬鹿らしくなった私は、そんなことに時間を割いてられないと思いました。
 いくら偉そうなことを言っても所詮、試験に受からないと話にならないし、いくら「新」司法試験だからといって、試験時間には必ず制約があるのだから、こんな、レポート作成を、時間無制限で資料無制限で漫然とやっていても、力などつかないだろうと判断しました。
 私は旧試験の受験を経験していて、択一合格経験もあったのですけれど、まったく旧試験未経験の未修者は大変だったようです。なにしろ、択一合格レベルの知識を付けるチャンスは、法科大学院にはありません。自学自習するか、さもなくば、予備校に通うしかありません。
 しかし、法科大学院の授業は大学と同じで、教授の都合で飛び石的に並べられていて、予備校に通うには夜行くしかありませんが、レポート地獄でその時間は取れません。一方で、法科大学院側は、予備校を敵視していましたので、基礎力不足を自覚して自発的に予備校に通った学生を呼び出して注意するといった始末でした。
 要するに法科大学院は、基礎力不足の学生に対するケアどころか足を引っ張る場でしかなかったのです。」
 黒猫自身は旧試験の合格者なので自らの体験は語れませんが,向原弁護士のご意見は,黒猫がこれまで聞いている法科大学院教育の実態と概ね合致しています。弁護士会で実際に法科大学院教授として教えている人の話を聞いても,法科大学院を修了した現役弁護士の話を聞いても,本当にろくでもないことしか教えていない機関だとしか思えないのです。
 また,大学時代,黒猫は井上正仁教授(現在法曹養成に関するフォーラムの構成員で,法科大学院側の弁護をしています)に刑事訴訟法を教わったのですが,公判手続きの途中くらいで授業が時間切れになってしまったことについて,「予備校じゃないからいいや」の一言で済ませてしまったことが今でも印象に残っています。法学部の看板を法科大学院に付け替えたところで,司法試験の受験に必要かつ十分な知識の講義などできるわけないだろうと思っていましたが,やはりそのとおりだったようです。

 さらに,この記事に対するコメント欄も必見です。
「卒業してからようやく自学自習する時間ができ、受験勉強ができるようになった未修者です。択一も論文も、卒業してから予備校を通して苦労して一から対策方法を身につけていかねばならず、受験期間が長引くばかりでさりとて回数制限にも直面し、本当に辛い思いをしています。
 法科大学院の勉強をしていれば大丈夫という言葉に騙され予備校にいく時間もロクにないまま過ぎて行ったあの三年間を返して欲しいと本気で今でも思います。」

「新61期未修のものです。
 私も、当初より法科大学院の授業がひどいものだったので、とても試験に有効なものとは思っておりませんでした。
 その思いはサンプル問題を見た以降、確信に変わり、それ以降は授業はただ、「こなす」ものに変化しました(ごく一部科目を除く。ある科目は試験委員が授業を持っていたためそれだけはしっかりやりました。それはとても効果がありました。)。
 その後はサンプル問題、及び(入手できてからは)1期の本試験問題・採点コメントを徹底分析し、独自に勉強していました。少なくとも当時は、予備校もピントはずれの答練しか出してなかったので(今もダメかはわかりませんので受験生は参考にしないでください)、1回だけ解答用紙と長時間試験になれるために模試を受けたくらいで、その後は利用しておりませんでした(択一問題集は除く)。
 真に自学自習力を問う試験といえそうなので、試験自体は昔より向上しているのではないでしょうか。ただ、ロースクールに通わせる意義が全く見えません。新試験で一発勝負にすれば取得コストが下がり、参入障壁が下がるためより良い人材を確保できると思います。
 従いまして、ロースクールは費用(学生個人のみならず、補助金という形をとった税金の無駄遣い)と時間をかけ、無駄な勉強をさせる癌としか思えないお荷物制度と考えます。
 ましてやこんな癌みたいなもののせいで司法修習が短縮されているなど論外です。1年6ヶ月、又はせめて前期修習くらいはあってほしかった。」

 村岡弁護士の発言と向原弁護士の発言のどちらを信じるかは読者の皆さんの勝手ですが,東京大学の法科大学院でさえ,自発的な学習への取り組み,予習の必要性などということを強調しています。これは法科大学院に限ったことではありませんが,司法試験対策の基本的知識などは自分で勉強しろ,大学の授業では学生にそうした基本的知識が身に付いていることを当然の前提として,より高度な内容(実務に役に立つかどうかは別問題)を教えるというのが,あの大学の基本的なスタンスです。
 そして,法科大学院協会で主導的地位を占めているのは大半が東大教授(または元東大教授)なので,他の大学が目線を下げて,予備校のように司法試験合格に必要な基礎的知識の伝授をしようとすれば,文部科学省から注意や行政処分を受けることになってしまいます(実際,日大が予備校的な受験教育をしているという理由で処分を受けたこともあります)。
 このような法科大学院の論理では,学生が法科大学院の教育で十分な知識が身に付いていないのは「十分な予習をしていないから」であり,司法試験対策について「法科大学院の授業で十分」というのは「司法試験対策を含む基礎的知識について十分な予習をしていれば」という隠れた前書きが前提になっているのです。
 現在法科大学院で学んでいる人,及びこれから法科大学院への進学を考えている人は,このことを絶対に誤解しないで下さい。

3 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-04-16 12:47:31
何も知らない未修者が真に受けて三振したらどう責任を取るんでしょうかね。
私なら良心の呵責でとてもあんなことは書けませんね。
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Unknown (Unknown)
2012-04-20 16:52:41
おっしゃることはよく理解できるのですが、私自身、ロースクールに通えず自学自習している身からすると、ロースクールに通っていないことによる弊害と云うかハンディを感じています。
曲がりなりにもロースクールではその道のプロから法律の勉強を教わるのでしょうが、こちらは
素人が素人流に自分で自分に教えなくてはなりません。卑近な話ですが、難解用語を間違えて「読み」覚えていたらどうしようと気が気ではありません。
仲間がいることで練習会などを組めることも、独習者からすると脅威です。独学故に軌道修正してくれる人もいません。
そうしたことを考えると、自己責任で選んだとはいえ、3年間を自分で自由に使うのと、ロースクール通学に大半を費やすのとでは、そんなにロースクールが障害があるのだろうかと思ってしまいます。
逆の立場から見た視点が取り上げられていないので、そう感じている受験者もいることを知ってほしいです。
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Unknown (Unknown)
2012-04-20 23:40:23
合格者の立場から言わせてもらいますと、

学者は実務のプロではない。
学者の授業が司法試験に対して、決定的に役に立ったことはない。
司法試験レベルでは、定評のある基本書を読めればよく、そこで説明されている「難解用語」自体を読み間違えるということはあまりない。疑問が残れば、他の基本書と比較するなりすればよい。用語ではなく論点間の整合性を誤る危険の方が大きい。これも基本書を読んで趣旨までさかのぼって考えればよし。定評のある基本書ならば書いてある。
答案練習会は、集団自己満足に陥る可能性の方が大きい。また時間的にも冗長になりがちで無駄が多い。答練を受けて優秀答案を分析した方がはるかに役に立つ。
自習だと不安を感じることが多いとは思いますが、情報に惑わらされない方がいいですよ。少なくとも、おっしゃられる点について法科大学院にアドバンテージはありません。
ただ、予備校には情報収集のために通った方が良いとは思います。
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