覚醒剤密輸、検察が立証見直し…裁判員無罪多く(読売新聞) - goo ニュース
今日,ネットでこんな記事が流れていました。
覚せい剤の営利目的輸入については,覚せい剤取締法第41条第2項の規定により,無期又は3年以上の懲役に処されることになっており,さらに情状によっては1000万円以下の罰金が併科されることもあります。覚せい剤の営利目的輸入は,通常の市民生活とはかなり縁遠い事件というしかないのですが,法定刑に死刑又は無期懲役を含むものはすべて裁判員対象事件とされていることから,覚せい剤の営利目的輸入についても裁判員裁判の対象とされています。
覚せい剤の営利目的輸入に関する典型的な事案は,覚せい剤を別の物品に隠して入国しようとしたが,税関職員に発見されその目的を達することができなかった,そして被告人は「覚せい剤であるとは知らなかった」と弁解するといったものです。事案の性質上,成田国際空港を管轄に置いている千葉地裁にこのような事案が多いようです。
一度でも海外旅行をした人なら分かると思いますが,空港には覚せい剤や違法薬物に関する警告のポスターがうんざりするほど貼ってあります。覚せい剤の類を日本に持ち込むと犯罪になります,他人から預かった荷物に覚せい剤が紛れ込んでいたという事件が多発しているので,他人から預かった荷物を日本に持ち込まないで下さいなどといった趣旨のものです。
善良な市民であれば,これらの警告を見て,そもそも他人から預かった荷物を持ち込むのは危険だと判断するでしょうし,仮にうっかり持ち込んでしまっても,税関では他人から預かった荷物がないかどうか申告することになっているので,そのような荷物があれば当然申告するでしょう。そして何より,自分の荷物から覚せい剤が見つかったなどと税関の職員から告げられれば大いに狼狽するのが常でしょうし,覚せい剤の密輸に手を染めていない人間であれば,税関の職員から白い粉を見せられてそれが覚せい剤だと分かるなどということはないでしょう。
成田の税関に引っかかる人の中には,本当に運び屋として利用されてしまい中身は知らなかったという人もいるので,そのような人全員が起訴されるわけではなく,その時の態度などに照らして明らかにクロだなという人だけが覚せい剤の営利目的輸入で起訴されるようになっているので,公判で被告人が「覚せい剤であるとは知らなかった」などと弁解しても,そのような弁解はほとんど通用しないのが常でした。今までは・・・。
ところが,このような覚せい剤の密輸事件では,裁判員裁判による無罪事件が相次いでおり,裁判員裁判による全無罪事件17件のうち7件を占めるまでに至っており,この事態を受けて最高検察庁では,密輸事件の立証方法を見直す検討会を発足させることになったというのが記事の趣旨ですが,これに関連する裁判例として,最高裁の平成24年2月13日判決が物議を醸したことは記憶に新しいところです。
判決書によると,この事件の被告人は,平成21年11月1日,マレーシアのクアラルンプール国際空港から成田行の航空機に搭乗する際,覚せい剤998,79gをビニール袋3袋に小分けした上でチョコレートの缶3缶に収納し,これらをボストンバッグに隠して機内預託手荷物として預けて航空機に積み込ませて覚せい剤の輸入行為を行ったものの,成田空港の税関職員に覚せい剤を発見されたというもののようです。
被告人は,税関検査の際,携帯品・別送品申告書の「他人から預かった物」を申告する欄に「いいえ」と記載し,税関職員から覚せい剤などの持込禁止物件の写真を示されてそれらを持っているかどうかを尋ねられた際もこれを否定しました。
税関職員は,チョコレートの缶が先に検査した同種のものに比べて明らかに重いことからこれを不審に感じ,被告人の了解を得てX線検査を行ったところ,チョコレート缶の底にいずれも黒い影が発見されましたが,犯罪であるかどうかの裏付けを取るため,税関職員は敢えてX線検査の結果については被告人に告げず,これらのチョコレート缶は自分でもらったものかどうか改めて被告人に尋ねましたが,すると被告人は途端に前言を翻し,昨日イラン人らしき人からもらったものだと返答しました。
税関職員は,改めて被告人に対し,荷物に対する確認票を作成させ,どれが他人から預かったものであるかを尋ねたところ,被告人はチョコレート缶のほか,黒色ビニールの包み,菓子数点を申告しました。
税関職員は,黒色ビニールの包みを開けるよう求めたところ,被告人は企業秘密の書類だからと答えてこれを拒否したため,この時点で被告人にX線検査の結果を告げ,被告人の承諾を得てチョコレート缶の中身を調べたところ,3個の缶全部から白色の結晶(覚せい剤)が発見されました。
税関職員は,被告人に対し,「これはなんだと思うか。」と白色結晶について質問したところ,被告人は,「薬かな,麻薬って粉だよね,何だろうね,見た目から覚せい剤じゃねえの。」と答えました。税関職員は,再び黒色ビニールの包みについて被告人に開披を求め,その同意を得てこれを開けると,中には名義人の異なる5通の外国の旅券が入っており,そのうち3通は偽造旅券でした。
被告人はその場で逮捕されましたが,チョコレート缶輸入の経緯については供述を二転三転させ,最終的にはカラミ・ダボットという人物から30万円の報酬で偽造旅券の密輸を依頼され,偽造旅券を受け取った際に土産としてチョコレートを渡すよう頼まれたと供述しました。なお,カラミ・ダボットという人物は別の覚せい剤密輸事件の共犯者で起訴され,一審で無罪判決を受け検察官による控訴中という状態にあり,被告人もそのような事情は聴かされていました。
正直,誰が見てもクロではないかと思う事案なのですが,裁判員はおそらく被告人の言い分を鵜呑みにして無罪だと判断してしまったようで,一審では無罪判決が言い渡されました。その判決理由について全文は挙げませんが,いかにも先に結論ありきで無理な事実認定をしたような書き振りになっています。
この一審判決は当然のように高裁で破棄され,高裁で被告人は懲役10年及び罰金600万円の有罪判決を受け,覚せい剤3袋も没収する旨の判決が言い渡されました。
これに対して最高裁では,裁判員裁判による第一審判決が事実誤認であるとして破棄するためには,論理則,経験則に照らしてその判断に不合理な点があることを具体的に示さなければならず,高裁判決はその点について十分な判断をしていないとして原判決を破棄し,結論として被告人を無罪にしてしまいました。
無罪判決が出て日弁連は喜んだようですが,多少おかしな判断でも裁判員裁判だからいいんだ,裁判員裁判の趣旨を尊重するためなら覚せい剤密輸の取り締まりが骨抜きになってもいいんだと言わんばかりのこの判決に現場の実務家が納得するはずもなく,まず検察が立証方法の改善に関する検討を始めたことは前述のとおりです。
そして,高裁もこのような最高裁の言いなりにはなりません。大阪高裁は3月2日,似たような覚せい剤密輸事件で一審無罪となった男性に対し破棄差し戻しの判決を言い渡し,東京高裁は4月4日,同じく覚せい剤密輸事件で一審無罪となったイギリス国籍の男性に対し逆転の有罪判決を言い渡しています。
東京高裁のやり方は,判決書の全文はまだ読んでいませんが,おそらく前述した最高裁判決を踏まえて,一審判決がいかに不合理なものかを具体的に判示し,最高裁の論理に正面から挑戦しようとするものですからまだ良いのですが,問題は大阪高裁のやり方です。
裁判員対象事件について,一審判決が高裁で破棄差し戻しとなった場合,現在の法律では差戻後の一審でも裁判員裁判が実施されます。別の裁判員が選任されて審理をやり直すわけですが,この裁判員裁判では決してフリーハンドに判断できるわけではありません。裁判所法第4条の「上級審の裁判所の裁判における判断は,その事件について下級審の裁判所を拘束する」という規定は裁判員裁判でも適用除外にはなっていませんので,高裁が判決理由で「被告人は有罪だ」と言わんばかりの判断をしている場合,裁判員も法律上それに従った判断をしなければならないのです。
歴史は繰り返される,一度目は悲劇として,二度目は茶番として。こんな名文句があります。
一度目の裁判を担当した裁判員は,特に法律や裁判に関する素養もないのに,覚せい剤の密輸なんて馴染みのない問題の審理をさせられて,被告人の運命のみならず社会全体の治安にもかかわる重大な問題についての判断を迫られる悲劇ですが,二度目の裁判を担当する裁判員は,実質的に量刑を決めることしかできません。仮に上記大阪高裁の事案で,高裁の思惑どおり差し戻し後の一審で逆転有罪判決があり,被告人や弁護人が控訴しても控訴棄却となった場合,最高裁に上告しても最高裁が判断材料とするのは差戻後の一審判決の当否です。
いくら高裁判断の強い拘束下にあったとしても,最高裁に事件がのぼってきた地点における,裁判員裁判での「国民の判断」は差戻後の一審判決であり,最高裁も明らかに不合理な点がない限りこれを尊重しなければならないことになり,最高裁が大阪高裁のやり方を汚いと思ったところで,差戻前の一審判決に戻すことはできないのです。
正直なところ,このようなやり方による裁判員裁判は,国民参加といっても単なる茶番でしかないでしょう。一審判決が高裁の職業裁判官にとって是認できないものであれば,高裁が満足するまで何度でも裁判員裁判をやり直すわけですから。このような運用は,もちろん法律上禁止されてはいないのですが,下手をすれば裁判員裁判の趣旨自体が疑問視され制度の崩壊につながりかねない「禁じ手」というべきでしょう。
もちろん,現場の裁判官としても,ただでさえ時間をお金のかかる裁判員裁判を何度もやり直したいとは思っておらず,これまでは裁判員裁判による一審判決がおかしいと思ったら高裁が破棄自判するのが通常でしたが,最高裁がめちゃくちゃな判断をしたため,ついに裁判員裁判のやり直しという「禁じ手」に手を染める裁判所が現れてしまいました。
司法制度改革審議会の段階では憲法違反まで持ち出して反対していたのに,法案が通ると一変してひたすら裁判員制度の擁護に回り出した最高裁。現在の最高裁長官は,東京地裁判事時代に陪審制の調査に派遣され,陪審制を徹底的に批判する報告書を出したにもかかわらず,裁判員法が成立すると一転して裁判員制度の擁護に回り,その「功績」を評価されて最高裁判事を経ずに長官に抜擢されたという典型的な阿諛追従主義者ですが,そのような最高裁の在り方に対し,現場の裁判官の怒りが沸騰しているのかもしれません。
今日,ネットでこんな記事が流れていました。
覚せい剤の営利目的輸入については,覚せい剤取締法第41条第2項の規定により,無期又は3年以上の懲役に処されることになっており,さらに情状によっては1000万円以下の罰金が併科されることもあります。覚せい剤の営利目的輸入は,通常の市民生活とはかなり縁遠い事件というしかないのですが,法定刑に死刑又は無期懲役を含むものはすべて裁判員対象事件とされていることから,覚せい剤の営利目的輸入についても裁判員裁判の対象とされています。
覚せい剤の営利目的輸入に関する典型的な事案は,覚せい剤を別の物品に隠して入国しようとしたが,税関職員に発見されその目的を達することができなかった,そして被告人は「覚せい剤であるとは知らなかった」と弁解するといったものです。事案の性質上,成田国際空港を管轄に置いている千葉地裁にこのような事案が多いようです。
一度でも海外旅行をした人なら分かると思いますが,空港には覚せい剤や違法薬物に関する警告のポスターがうんざりするほど貼ってあります。覚せい剤の類を日本に持ち込むと犯罪になります,他人から預かった荷物に覚せい剤が紛れ込んでいたという事件が多発しているので,他人から預かった荷物を日本に持ち込まないで下さいなどといった趣旨のものです。
善良な市民であれば,これらの警告を見て,そもそも他人から預かった荷物を持ち込むのは危険だと判断するでしょうし,仮にうっかり持ち込んでしまっても,税関では他人から預かった荷物がないかどうか申告することになっているので,そのような荷物があれば当然申告するでしょう。そして何より,自分の荷物から覚せい剤が見つかったなどと税関の職員から告げられれば大いに狼狽するのが常でしょうし,覚せい剤の密輸に手を染めていない人間であれば,税関の職員から白い粉を見せられてそれが覚せい剤だと分かるなどということはないでしょう。
成田の税関に引っかかる人の中には,本当に運び屋として利用されてしまい中身は知らなかったという人もいるので,そのような人全員が起訴されるわけではなく,その時の態度などに照らして明らかにクロだなという人だけが覚せい剤の営利目的輸入で起訴されるようになっているので,公判で被告人が「覚せい剤であるとは知らなかった」などと弁解しても,そのような弁解はほとんど通用しないのが常でした。今までは・・・。
ところが,このような覚せい剤の密輸事件では,裁判員裁判による無罪事件が相次いでおり,裁判員裁判による全無罪事件17件のうち7件を占めるまでに至っており,この事態を受けて最高検察庁では,密輸事件の立証方法を見直す検討会を発足させることになったというのが記事の趣旨ですが,これに関連する裁判例として,最高裁の平成24年2月13日判決が物議を醸したことは記憶に新しいところです。
判決書によると,この事件の被告人は,平成21年11月1日,マレーシアのクアラルンプール国際空港から成田行の航空機に搭乗する際,覚せい剤998,79gをビニール袋3袋に小分けした上でチョコレートの缶3缶に収納し,これらをボストンバッグに隠して機内預託手荷物として預けて航空機に積み込ませて覚せい剤の輸入行為を行ったものの,成田空港の税関職員に覚せい剤を発見されたというもののようです。
被告人は,税関検査の際,携帯品・別送品申告書の「他人から預かった物」を申告する欄に「いいえ」と記載し,税関職員から覚せい剤などの持込禁止物件の写真を示されてそれらを持っているかどうかを尋ねられた際もこれを否定しました。
税関職員は,チョコレートの缶が先に検査した同種のものに比べて明らかに重いことからこれを不審に感じ,被告人の了解を得てX線検査を行ったところ,チョコレート缶の底にいずれも黒い影が発見されましたが,犯罪であるかどうかの裏付けを取るため,税関職員は敢えてX線検査の結果については被告人に告げず,これらのチョコレート缶は自分でもらったものかどうか改めて被告人に尋ねましたが,すると被告人は途端に前言を翻し,昨日イラン人らしき人からもらったものだと返答しました。
税関職員は,改めて被告人に対し,荷物に対する確認票を作成させ,どれが他人から預かったものであるかを尋ねたところ,被告人はチョコレート缶のほか,黒色ビニールの包み,菓子数点を申告しました。
税関職員は,黒色ビニールの包みを開けるよう求めたところ,被告人は企業秘密の書類だからと答えてこれを拒否したため,この時点で被告人にX線検査の結果を告げ,被告人の承諾を得てチョコレート缶の中身を調べたところ,3個の缶全部から白色の結晶(覚せい剤)が発見されました。
税関職員は,被告人に対し,「これはなんだと思うか。」と白色結晶について質問したところ,被告人は,「薬かな,麻薬って粉だよね,何だろうね,見た目から覚せい剤じゃねえの。」と答えました。税関職員は,再び黒色ビニールの包みについて被告人に開披を求め,その同意を得てこれを開けると,中には名義人の異なる5通の外国の旅券が入っており,そのうち3通は偽造旅券でした。
被告人はその場で逮捕されましたが,チョコレート缶輸入の経緯については供述を二転三転させ,最終的にはカラミ・ダボットという人物から30万円の報酬で偽造旅券の密輸を依頼され,偽造旅券を受け取った際に土産としてチョコレートを渡すよう頼まれたと供述しました。なお,カラミ・ダボットという人物は別の覚せい剤密輸事件の共犯者で起訴され,一審で無罪判決を受け検察官による控訴中という状態にあり,被告人もそのような事情は聴かされていました。
正直,誰が見てもクロではないかと思う事案なのですが,裁判員はおそらく被告人の言い分を鵜呑みにして無罪だと判断してしまったようで,一審では無罪判決が言い渡されました。その判決理由について全文は挙げませんが,いかにも先に結論ありきで無理な事実認定をしたような書き振りになっています。
この一審判決は当然のように高裁で破棄され,高裁で被告人は懲役10年及び罰金600万円の有罪判決を受け,覚せい剤3袋も没収する旨の判決が言い渡されました。
これに対して最高裁では,裁判員裁判による第一審判決が事実誤認であるとして破棄するためには,論理則,経験則に照らしてその判断に不合理な点があることを具体的に示さなければならず,高裁判決はその点について十分な判断をしていないとして原判決を破棄し,結論として被告人を無罪にしてしまいました。
無罪判決が出て日弁連は喜んだようですが,多少おかしな判断でも裁判員裁判だからいいんだ,裁判員裁判の趣旨を尊重するためなら覚せい剤密輸の取り締まりが骨抜きになってもいいんだと言わんばかりのこの判決に現場の実務家が納得するはずもなく,まず検察が立証方法の改善に関する検討を始めたことは前述のとおりです。
そして,高裁もこのような最高裁の言いなりにはなりません。大阪高裁は3月2日,似たような覚せい剤密輸事件で一審無罪となった男性に対し破棄差し戻しの判決を言い渡し,東京高裁は4月4日,同じく覚せい剤密輸事件で一審無罪となったイギリス国籍の男性に対し逆転の有罪判決を言い渡しています。
東京高裁のやり方は,判決書の全文はまだ読んでいませんが,おそらく前述した最高裁判決を踏まえて,一審判決がいかに不合理なものかを具体的に判示し,最高裁の論理に正面から挑戦しようとするものですからまだ良いのですが,問題は大阪高裁のやり方です。
裁判員対象事件について,一審判決が高裁で破棄差し戻しとなった場合,現在の法律では差戻後の一審でも裁判員裁判が実施されます。別の裁判員が選任されて審理をやり直すわけですが,この裁判員裁判では決してフリーハンドに判断できるわけではありません。裁判所法第4条の「上級審の裁判所の裁判における判断は,その事件について下級審の裁判所を拘束する」という規定は裁判員裁判でも適用除外にはなっていませんので,高裁が判決理由で「被告人は有罪だ」と言わんばかりの判断をしている場合,裁判員も法律上それに従った判断をしなければならないのです。
歴史は繰り返される,一度目は悲劇として,二度目は茶番として。こんな名文句があります。
一度目の裁判を担当した裁判員は,特に法律や裁判に関する素養もないのに,覚せい剤の密輸なんて馴染みのない問題の審理をさせられて,被告人の運命のみならず社会全体の治安にもかかわる重大な問題についての判断を迫られる悲劇ですが,二度目の裁判を担当する裁判員は,実質的に量刑を決めることしかできません。仮に上記大阪高裁の事案で,高裁の思惑どおり差し戻し後の一審で逆転有罪判決があり,被告人や弁護人が控訴しても控訴棄却となった場合,最高裁に上告しても最高裁が判断材料とするのは差戻後の一審判決の当否です。
いくら高裁判断の強い拘束下にあったとしても,最高裁に事件がのぼってきた地点における,裁判員裁判での「国民の判断」は差戻後の一審判決であり,最高裁も明らかに不合理な点がない限りこれを尊重しなければならないことになり,最高裁が大阪高裁のやり方を汚いと思ったところで,差戻前の一審判決に戻すことはできないのです。
正直なところ,このようなやり方による裁判員裁判は,国民参加といっても単なる茶番でしかないでしょう。一審判決が高裁の職業裁判官にとって是認できないものであれば,高裁が満足するまで何度でも裁判員裁判をやり直すわけですから。このような運用は,もちろん法律上禁止されてはいないのですが,下手をすれば裁判員裁判の趣旨自体が疑問視され制度の崩壊につながりかねない「禁じ手」というべきでしょう。
もちろん,現場の裁判官としても,ただでさえ時間をお金のかかる裁判員裁判を何度もやり直したいとは思っておらず,これまでは裁判員裁判による一審判決がおかしいと思ったら高裁が破棄自判するのが通常でしたが,最高裁がめちゃくちゃな判断をしたため,ついに裁判員裁判のやり直しという「禁じ手」に手を染める裁判所が現れてしまいました。
司法制度改革審議会の段階では憲法違反まで持ち出して反対していたのに,法案が通ると一変してひたすら裁判員制度の擁護に回り出した最高裁。現在の最高裁長官は,東京地裁判事時代に陪審制の調査に派遣され,陪審制を徹底的に批判する報告書を出したにもかかわらず,裁判員法が成立すると一転して裁判員制度の擁護に回り,その「功績」を評価されて最高裁判事を経ずに長官に抜擢されたという典型的な阿諛追従主義者ですが,そのような最高裁の在り方に対し,現場の裁判官の怒りが沸騰しているのかもしれません。
個人的には警察・検察が取り調べの可視化を拒否すると、逆にそこを突かれて法廷術に長けた弁護人にいいように引っ掻き回される原因になると思います。彼等は精密刑事司法の幻想に縋ってブラックボックスを後生大事に守っていきたいようですが…
第一、検察官は逮捕やら押収やら強制捜査権限ある上に、自腹も切らず国費を何億円でも投入して鑑定だ検証だやりたい放題な上に、警察官を何人でも動員する指揮権まで持っている。弁護士にそんな権限が欠片でもあるか? これだけ一方的に有利な検察官が、それでもしくじるとはどういうことだ?
検察官は杜撰な仕事をしてもいいというのなら、弁護士は杜撰な検察官に迎合しなければならないというのなら、あなたや私が何か事件に巻き込まれた時にその「杜撰な仕事」の犠牲になるのを認めろということだ。
少年時代の私は、このように検察官や弁護士の役割について教わったのですが、黒猫氏の考えは違うのでしょうか?