黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

司法試験はどうあるべきか(2)

2012-06-23 13:27:20 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 黒猫の司法試験制度論,第2弾の記事です。今回は「法務士」に関する部分です。
 司法制度については,自民党の河井議員がいろいろ面白い指摘をされていますので,そちらに言及するためにも,宿題になっていた法務士制度関係の記事は早めに切り上げることにします。なお,この記事に書いた構想はあくまで現時点の暫定版なので,黒猫自身の意見は後日予告なく変更する場合があります。

第2 法務士制度
 1 基本的な考え方
 私案において,従来の行政書士制度をそのまま維持するのではなく,「法務士」という聞き慣れない新制度に改組するものとした理由は,次の3つである。
 第1は,法務資格の国際化に対応するものである。米国では,ロースクールを修了し各州の司法試験に合格した者をロイヤーと呼び,ロイヤーの資格を有する者は110万人に達すると言われているが,ロイヤーの全てがわが国の弁護士のような法廷業務を取り扱うわけではなく,むしろ法廷業務を取り扱う者はロイヤーの中でもごく一部である。また,英国でも大規模な事務所を展開し精力的な海外進出に取り組んでいるのは,バリスタではなく法廷外の法律事務を行うソリスタであり,人数もソリスタの方が圧倒的多数派である。
 昨今,将来的にこれらの諸外国と法律資格の共通化や相互承認が行われることに備え,法科大学院協会や経済界などで「課題解決士」なる新資格の創設を唱える動きがある。その具体的内容は未だ明らかでないものの,おそらくは法科大学院修了者を「課題解決士」として行政書士及び司法書士並みの権限を与え,(法廷)弁護士の資格はその中から一定の実務経験等を積んだ者に付与するといったものを想定しているのではないかと考えられるが,言うまでもなくこのような考え方は,破綻に瀕した法科大学院に新たな特権を与えることで法科大学院を救済しようとしているものに過ぎず,わが国における法律資格資格を現行制度以上に腐敗させるものであって妥当ではない。
 しかし,わが国において,米国のロイヤーに対応するような裁判外の一般的な法律事務を行う資格制度が存在しないのも確かであり,上記のような法律資格共通化の動きに対応するためには,わが国においてこれと最も近い性質を持つ行政書士の資格を改組することが最も現実的と考えられる。なお,現行行政書士試験は,出題の内容が実務と大きく乖離していることで有名であり,改組に伴って試験の内容を大幅に変更しても,実務上の弊害は特にないと思われる。
 第2は,法律資格制度の共通基盤を構築することである。わが国の法律資格は,弁護士や司法書士,行政書士のほか,弁理士・税理士・社会保険労務士などが独立した資格として併存しており,それぞれが限定された分野で法律業務を行っている。これらの法律隣接資格と呼ばれる業種は,国民に対し専門性の高い法的サービスを提供している点は評価できるものの,業種間の権限分配に不明確な点があり不毛な勢力争いも絶えない,業種間の連携が困難であるため国民は一個の法的課題に対し複数の専門家への相談や依頼を余儀なくされるといった問題点も存在する。
 私案は,このような問題点に対し,これらの資格制度自体の統合は現実的でないと考えるが,法務士をこれらの資格に共通する法律基礎資格と位置づけ,登録制度などもできるだけ共通化することにより,現行制度の弊害を緩和しようとするものである。なお,司法試験については,法務士資格を有することを受験資格とするため,事実上法務士試験が現行制度における司法試験予備試験の役割を兼ねることになるが,難関資格である司法試験の受験者に対し段階的な学習を促すこと,司法試験合格を断念した者に対し転身の途を開くことに関しては,現行制度より私案の方がはるかに優れているものと確信する。
 第3は,法学部教育の充実強化である。法科大学院制度の創設に伴い,従来の法学部は実質的な教員数が削減され教育内容が希釈化しており,法学部への志望者も減少傾向にあるが,法科大学院を廃止する一方で法学部を現状のまま放置した場合,わが国における「法の支配」の担い手は大幅に減少する由々しき事態となりかねない。そこで,法務士試験を法学部の修了試験に近い位置づけとすることで,法学部における教育の質を再建し,多くの学生を法学部に呼び戻す政策の一環とすることが有用であると考えられる。
 なお,「法務士」の名称については,以前このブログで「法律士」(仮称)と呼んでいたものから名称変更しているが,これは想定される業務の内容に照らし「法務」の名称を当てるのが相当と判断したことに基づくものであり,記述の便宜上特に「仮称」を付すことはしていないが,問題なのは資格制度の実質的内容であり,名称に拘泥する趣旨ではない。

 2 法務士の業務
 法務士の業務は,以下のとおりとする。
● 報酬を得て,一般的な法務に関する相談(税務相談その他特に弊害が認められるものを除く)に応じること。
● 他人の依頼を受け報酬を得て,官公署に提出する書類又は電磁的記録(他の法令において制限されているものを除く)の作成及び当該書類等の提出を代理すること。
● 他人の依頼を受け報酬を得て,契約書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成すること。
 なお,現行法の行政書士と異なり,法律相談の範囲を「書類の作成」に関する事項に限定していないが,このような限定に実質的な意味があるとは思われないこと,現在では弁護士による法律相談も無料化が進んでおり,特に専門性を有しない法務士から有料の法律相談を受けようとする者もあまりいないと思われることから,私案では法律相談の内容については特に限定しないものとしている。ただし,税務相談については,脱税相談などの有害な業務が行われる危険性に照らし,現行法では無料の相談であっても税理士以外の者はなし得ないものとされていることを考慮し,税務相談は当分の間法務士業務の対象外とするほか,税務相談以外の業務であっても特に弊害が認められるものについては,他の法令で制限する余地も残すことにしている。
 なお,本来弁護士に相談すべき紛争性のある事項の法律相談は,そうでない事項との線引きが困難であるため私案では禁止の対象にはしていないが,法務士協会の内規等によって,法律相談の内容に紛争性が認められる場合には弁護士その他の専門家に事件を引き継ぐよう務めることを義務づけることが必要である。

 3 法務士試験
● 法務士になるための試験(法務士試験)は,一般教養の知識を問う第一次試験と,法律に関する知識を問う第二次試験とに分けるものとする。大学の一般教養課程を修了した者については,第一次試験を免除するものとする。第一次試験及び第二次試験は,いずれも短答式の形式によって行う。
● 第一次試験は,人文科学,社会科学,自然科学及び英語から合計40問程度を出題し,そのうち20問を受験者に選択させて解答させるものとする。出題の難易度は,概ね大学入試センター試験を大きく上回らない程度とし,6割以上の得点者を合格者とする。
● 第二次試験は,憲法・行政法・民法・商法・刑法・民事訴訟法及び刑事訴訟法から合計60問程度を出題し,6割以上の得点者を合格者とする。
● 法務士試験は,一般向けの試験を毎年1回以上実施するほか,各大学の法学部においても試験を実施し,法学部生全員に受験の機会を与えるものとする。
 私案においては,法務士試験は現行行政書士試験に代わるものであり,あまり難易度を高くすれば受験する者がいなくなる懸念もあるほか,司法試験や司法書士試験のみならず,重複する試験科目がなく受験者層も大きく異なる弁理士試験,税理士試験等の受験資格にもする関係から,あまり高度な出題内容とすべきではなく,一般的な法学部卒業生が通常身に付けておくべき知識を問う程度の試験にとどめるべきである。
 法律の専門家となる者には,法学以外の一般教養についてもある程度の知識が必要とされることから,一般教養を問う第一次試験を実施する。出題の形式は予備試験の短答式試験教養科目の例によるが,大学の教養課程を経た者については試験を免除するとともに,第一次試験の内容についても過度に複雑難解なものになるのを防ぐため,出題の難易度については大学入試センター試験程度を目安とすべきである。また,大学の教養課程以外にも,社会においてある程度実用的な資格(日商簿記1級など)を取得した者については,第一次試験の免除を検討する余地がある。
 第二次試験については,上記の基本7科目から出題するが,法務士は訴訟に関する業務を行うものではないため,民事訴訟法及び刑事訴訟法からの出題は他の科目の半分(各5問)程度とし,内容も基本的な手続きの流れや証拠に関する基本原則など平易なものに留めるものとする。他の科目についても,なるべく平易な内容とすべきことは同様である。
 法務士試験を大学法学部の教育にも活用する観点から,各大学の法学部でも法務士試験を実施し,学生には通常カリキュラムの中で法務士試験を受験できるとともに,法務士試験の合格には相応の単位を認定するなどして,なるべく多くの学生に法務士試験の受験を促すべきである。ただし,在学中の司法試験合格を狙う者が2年次くらいに受験することもあり得るので,全ての受験生に法務士試験の受験を義務づけることはせず,また法務士試験の合格を修了認定の要件とするか否かについては,大学のレベルによっては非現実的な修了要件となってしまうこともあり得るので,各大学の自主的判断に委ねるものとする。
 なお,現行法では官公庁で20年以上業務に従事した者等については試験を経なくても行政書士登録ができる旨の特例が設けられているが,制度移行に伴う混乱を防止するため,この特例は法務士制度においても当分の間維持するものとする。

 4 法務士の登録等
● 法務士の業務を行おうとする者は,法務士試験に合格した後,日本法務士連合会(仮称)の法務士名簿に登録しなければならないものとする。ただし,現行法の弁護士,司法書士又は行政書士として登録している者は,制度移行の時点で法務士名簿に登録したものとみなすものとする。
● 法務士の登録をする資格を有しない者は,法務士又はこれと紛らわしい名称を用いてはならないものとする。
 現行法では,行政書士となるためには試験合格後に行政書士として登録しなければならず,登録費用が高額であるため試験に合格しても行政書士登録をしない者が多いところ,法務士試験は法務士の業務を行うというよりは,すべての法律家にとっての登竜門(情報処理業界におけるITパスポート試験のようなもの)と位置づけるため,単に法務士と名乗るだけであれば,法務士登録は不要とする。この場合,法務士として登録した者は「登録法務士」などの呼称で区別する必要がある。
 経過措置として,現行法の弁護士や司法書士,行政書士については法務士名簿に登録したものとみなすほか,私案においては法務士の上位資格と位置づけられる弁護士,司法書士(上級法務士に改称),弁理士(知的財産法務士に改称),税理士(租税法務士に改称),社会保険労務士(労働法務士に改称)についても登録機関を一元化することにより,各士業の相互交流を促進するとともに,複数の法律資格を保有することに伴う多重会費負担を解消する必要がある(ただし,士業団体のうち日本弁護士連合会については,独自の公的役割があるため団体としては存続させる)。
 なお,現行法上行政書士が担っている事務や特に専門家が育っていない事務のうち,法律に関する専門的知識や素養が必要なものについては,法務士の資格を有することを受験資格とする新たな専門資格(または法務士内部の専門認定制度)を順次創設することで対応するものとし,また現行法では資格要件のない企業の監査役や内部監査人等について,将来的には法務士資格を基礎とした専門認定制度を創設し,監査役等のうち一定数以上は認定を受けた者の任用を義務づけるといった方策も将来的には一考に値する。