黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

『僕は依頼者が少ない』第2話(2)

2013-04-19 13:01:14 | パロディ小説『僕は依頼者が少ない』
 『僕は依頼者が少ない』第2話の続きです。
<これまでのお話>
第1話(1)http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/28f70d976fc13c6b33d4945f26898f45
第1話(2)http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/53a59ce7a7cc5e49dd04f21bc90c456c
第1話(3)http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/3decfd1ee39e9fc5174e61da3c4b7c04
第1話(4)http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/ffebf599e215af2b18d62f563a3f20d0
第2話(1)http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/9da8d77e84ee60127f6fc39ea7e6da3a

「あたしってほら,完璧じゃない」
 我が物顔で面談室の椅子に腰掛け,刈羽崎さんは言った。
「・・・・・・」
 京香がイラッとしたのが分かる。
「頭脳明晰スポーツ万能,そして見てのとおり絶世の美女。まさしく神がオーダーメイドして作ったとしか思えない完璧な造形美じゃない? 天の不平等を嘆く自由を与えるわ,愚民ども」
 悪役お嬢様としか思えない台詞だが,金髪をかき上げるその仕草はえらくサマになっている。神がオーダーメイドしたかどうかはともかく,まあかなりの美人であることは確かである。
「ふん,下品な乳牛のくせに」
 ボソリと言った京香に,刈羽崎さんは頬をひくつかせた。
「あら,貧乳が何か言ってらっしゃるわね」
「・・・・・・私は別に小さくない」
「中途半端な大きさの胸なんて無いのと同じじゃない?」
「・・・・・・自分より胸の大きい女を全員殺せば相対的に私が巨乳になるな。私の崇高な計画の栄えある生け贄第一号になってもらおうか」
「やめなさい」
 本気でやりかねない感じだったので,僕はとりあえず止めた。
 これまでの言動を見る限り,京香は無駄に行動力があるので何をしでかすか分からない。なお胸に関しては,刈羽崎さんが日本人離れした大きさを誇るものの,京香が特に小さいというわけではない。念のため。
「それで,えーと・・・・・・。ここは要するに,どうやって依頼者を探したらいいか分からないって人たちが,お互いに知恵を出し合おうっていう部活なんだけど・・・・・・」
「知ってるわよ。ポスター見たもの」
 僕が切り出した言葉に,当然のように切り返してくる刈羽崎さん。あのポスター読んで理解できたんだ・・・・・・。
「たしか刈羽崎さんって,会長の娘さんだよね」
「ヘタレ君のくせによく知っているじゃない。特別に私の前で名前を名乗ることを許してあげるわ」
 どうやら名を名乗れと言いたいらしいが,僕より先に京香が答えてしまった。
「ふっ。こいつの名前は『甲野太郎』だ。お前も聞いたことがあるだろう」
 京香から僕の名前を聞かされると,刈羽崎さんは吹き出した。
「ぷっ。あんたがあの『甲野太郎』くんなんだ・・・・・・。なんか別のクラスでそんな名前の人がいるって聞いたことはあるけど,本当にあんな名前の子がいるなんて・・・・・・。」
 法曹関係者以外の人向けに一応説明しておくと,「甲野太郎」という名前は司法関係でやたらと使われる。実務修習の起案で当事者や代理人の名前が「甲野太郎」になっていたり,判例集で当事者の実名を伏せるため原告が「甲野太郎」になっていたり,最近はちょっと変わったみたいだけど,司法試験の受験願書記入例に使われている名前も「甲野太郎」だったり・・・・・・。
 奇しくもそれと同じ名前を持っている僕は,模擬裁判のとき事件資料の被告人氏名が「甲野太郎」となっていたため満場一致で被告人役をやらされたり,起案の講評のたびにジョークのネタにされたりと,とにかく散々な目に遭ったのである。
「正直に白状しなさい,被告人甲野太郎くん。殺意はあったの?」
「ねえよ! そのネタ修習で散々やられたよ!」
「素直に自白すれば,量刑上考慮してやらないこともないぞ」
「京香まで乗ってくるんじゃねえ!」
 いかん。二人がかりの攻勢に,なんか僕の作ってきたキャラが壊れつつある。
「あ,そういえば甲野太郎くんって,司法試験の成績が合格者中最下位だったんでしょう?」
「なんで俺の成績がばれてんだ!?」
「噂どおりのヘタレだったんだ。よろしくね底辺太郎くん。このあたしが踏んであげるから跪きなさい。それとも靴舐める?」
「底辺太郎言うな! あと何で俺が踏まれたり靴を舐めなきゃならないんだ!?」
 そう突っ込むと,刈羽崎は不思議そうに首を傾げた。
「うちのクラスの男子は,ご褒美に踏んであげたり靴を舐めさせてあげるって言ったら何でも言うこと聞いてくれるわよ?」
 そこで刈羽崎はハッとし,何故か恐れたような目を向ける。
「・・・・・・ま,まさか底辺太郎の分際で,傲慢にもそれ以上を求めてるわけ? い,いくらヤンキー語で脅したって,ニ,ニーソックスで縛ってなんかあげないんだからね! この変態!」
「俺は底辺太郎でも変態でもねえ!」
「まあ落ち着け,太郎。なんかキャラが壊れてるぞ」
「ったく誰のせいだ・・・・・・というか,いい加減話を戻したいんだけど」
「あんたって,なんか面白いわね」
 なんか頭にくるが,ここは落ち着いて普段のキャラに戻ろう。僕は興奮するとヤンキーみたいな口調になってしまうので,普段は自制しているのだ。
 しかし京香もアレだが,刈羽崎さんも相当にアレな性格だということがよく分かった。
「それで刈羽崎さん,君は弁護士会会長の娘さんで,普通に考えれば親の事務所にでも就職すればいいのに,なんでこんな部活に入る必要があるの?」
「それは私も聞きたかったところではあるな」
 僕と京香の質問に,刈羽崎さんは急に顔をひきつらせ,目をきょろきょろさせ,顔に冷や汗を浮かべた。何かやましいことがある証拠だが,ここまで分かりやすい表情を示す人も珍しい。
「あ,あたしは見てのとおり成績優秀で,顔もスタイルも抜群のパーフェクト美人弁護士で,一点も非の打ち所なんか無いんだけれど,パパが言うには,下々の愚民どもが苦労しているところも見て来た方がいいって言うから・・・・・・」
 あさっての方を向きながら,刈羽崎さんは何やら弁解を続ける。
「・・・・・・まあ,何もかも完璧なあたしがそんなことする必要ないと思うんだけど,まあパパがそう言うなら,ゼロから依頼者探すなんて愚民どものお遊びにちょっとだけ付き合ってあげてもいいと思ったわけよ,感謝しなさい」
 分かりにくい説明だが,相変わらずの自画自賛の中で「パパ」を連呼する刈羽崎さんの台詞に何となく察しのついた僕は,京香に耳打ちした。
「要するに,刈羽崎さんの性格があまりにも傲慢でアレだから,父親に少しは社会勉強してきなさいって感じで追い出されちゃったんじゃない? それで途方に暮れた挙げ句ここに迷い込んできたと」
「なるほど,そういうことか」
「べ,別に途方に暮れてなんかいないんだからっ!」
 慌てた調子で,テンプレートなツンデレ台詞を吐く刈羽崎さん。どうやら図星だったらしい。
「まあ,さすがあの京香の作ったポスターの真意を読み取っただけのことはあるね」
「その台詞からは,何となく私を侮辱するような意図が感じられるのだが」
「気のせいだよ」
 釈然としない感じの京香をスルーして,
「とりあえずよかったじゃない。二人とも,とりあえず普段一緒に過ごせる友達ができて」
「はあ?」
「何を言っているのだ?」
 何故か,京香と刈羽崎さんは二人して怪訝な顔をした。
「どうして私がこんなのと友達にならなけとればならないのだ?」
「あたしこんなのと友達になりたくないんだけど」
「・・・・・・どういう意味だ乳女」
「・・・・・・そっちこそどういう意味よ吊り目」
「貴様も吊り目だろう」
「あたしの吊り目は可愛いけどあんたの吊り目はキツネみたいなのよ」
「あーイタイイタイ,自分で自分のこと可愛いとか」
「真実を言うことをためらう理由がどこにあるの?」
「え,死ねば?」
「ハァ? 人として明らかに価値の劣るあんたの方が死ぬべきじゃない?」
 ・・・・・・。
 たしか,京香の話ではお互い喋ったことはないはずだけど・・・・・・。
「二人とも,初対面でなんでそんなに仲悪いの・・・・・・?」
 刈羽崎さんが,うんざりした顔で髪をかき上げる。
「こいつの性格が悪いのよ。凡人はすべからくパーフェクトなあたしに跪くべきなのに」
「頭が悪いお前よりはマシだ」
「何を言うの! あたしは名だたる京王法科大学院の主席,司法試験も二回試験もトップ,ついでに適性試験も全国一位だったわ」
「京王といえば,法科大学院の中でも学費が一番高いことで有名だよね」
「ああ,司法試験の合格率にこだわるあまり,司法試験の考査委員をやっている教授に司法試験の受験指導をさせて問題になり,考査委員から排除される処分を受けたことでも有名だな」
「なによ,京王のことを悪く言うのは許さないわよ! それに凡人が何を言ったところで,あたしの適性試験一位,司法試験一位,二回試験一位の『三冠王』の地位は揺るぎないわ」
「・・・・・・司法試験はともかく,いまさら適性試験の成績を自慢するのもどうかという気はするけどね」
「はーいはい,適性猛者の牛女ちゃんは,お勉強がよくできてご立派でチュねー」
 京香が,ものすごくムカつく顔で,ペチペチとなげやりな拍手をした。ちなみに「適性猛者」とは,適性試験の成績が良いことで威張っている人の蔑称であり,大学入試の「センター試験猛者」と似たようなものである。どちらも,点数が良くても入学後の成績が良いとは限らない。
 入学後の成績も良かったらしい刈羽崎さんにこのような非難は当てはまらないのだが,それでも刈羽崎さんのプライドを傷つけるには十分だったらしく,刈羽崎さんは顔を真っ赤にして悔しげに呻いた。
「・・・・・・てめえ,パパに頼んで除名処分にするわよ」
 できるのかそんなこと。
「パパァ? いい年してパパだのママだの言ってて恥ずかしくないのか? いつまでも乳離れできない甘えんぼちゃんには困ったものだな。生きてて恥ずかしくないのか?」
「べ,別にママとは言ってないわよ!」
 突っ込むところそこしかないのか。
「しかも弁護士会会長の娘だあ? 今どきの弁護士会なんて,収入もない若手から年何十万円もの会費を搾り取って,それでようやく存続しているような,今どき誰にも尊敬されない弁護士会の会長の娘なんてよく言えたものだ。さしずめ裸の王様の娘といったところだな」
「『裸の王様の娘』って,何となくいやらしい雰囲気がするんだけど」
「ふっ。亡国の王女様は,兵士達に散々レイプされて死ぬのが定番だからな。貴様もレイプされて死んでみるか?」
「・・・・・・ぁぐ・・・・・・。あ,あんた・・・・・・,マジで性格悪いわねえ・・・・・・」
 京香に散々罵倒され,完全に涙目になった刈羽崎さんの拳はぷるぷると震えている。
 高飛車なくせに結構打たれ弱い性格のようだった。
「と,ところで!」
 これ以上続けるとリアルファイトに突入しそうだったので,僕は強引に話に割り込もうとしたのだが,
「「ああ?」」
 二人同時に,女性に対する幻想を一瞬で破壊するような,恐ろしい形相で僕を睨んできた。怖っ・・・・・・!
「か,刈羽崎さんは本当に入部するの?」
 震えながらも,何とか声を出した。僕としては,毎回ギスギスされるのは勘弁してほしいところなんだけど。
「入るわよ。入部資格としては問題ないでしょう?」
「ま,まあ,想定していたのとは若干違うけど,依頼者探しでお悩みということは同じだから,一応入部資格はあるんじゃないかな。・・・・・・ね,京香さん?」
「ち・・・・・・」
 僕が同意を求めると,京香は露骨に舌打ちをした。
「・・・・・・何か文句あるわけ?」
「ある。出てけ,この原発女。あ,違った,レイプされて死ね」
「誰が原発女よ! あたしさあ,一度言ったことを撤回するのって大嫌いなのよね。とはいえ,まさかこんな性悪女がいるとは思ってなかったし・・・・・・」
 そこで,刈羽崎さんはポンと手を叩き,
「そうだ,あんたが辞めればいいのよ! さすがあたし,ナイスアイデア!」
「この部は私のだ」
「いつから京香のになったんだ」
 ジト目で僕は突っ込んだが,考えてみると設立者は京香だし,当面の活動場所である世田谷クレセント法律事務所とやらは京香の自宅だし,100%間違いであるとまでは言えない。
「あとそこの底辺太郎くん」
「だから底辺太郎言うな!」
 刈羽崎さんは僕の抗議をスルーして,
「今後,あたしのことは聖菜(せいな)って呼びなさい。特別に許してあげるわ」
「・・・・・・なんでまた」
「このキツネ女が名前であたしが苗字だと,あんたの中であたしの方が優先順位下みたいじゃない」
「・・・・・・わかった。よろしく,聖菜」
 渋々ながら僕が頷いたところ,京香がものすごく恨みがましい顔で僕を睨み付けてきた。なんなんだ一体・・・・・・。

 とにかく,そういうわけで,本日の隣人部設立集会は終了し,仲間が一人増えました。
 ・・・・・・なんか,過程をすっ飛ばして結果だけを書くと,順調に見えてしまうのが困ったところである。

(第3話に続く)


3 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-04-19 13:28:07
会話劇でみせる手法ですね
西尾維新の「化物語」を思い出します。
今後、おとなしめだが一癖ある女性キャラの入部を期待します。
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予定 (黒猫)
2013-04-19 23:09:29
先のことになりますが,入る予定です。ただし普通に「女の子」と呼ぶには問題のある子ですが(この先はネタバレになるため省略)。
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Unknown (Unknown)
2013-04-20 21:43:10
パロディ元から考えて、○○室の人をどのようにだすのかが想像できませんが、今後に期待します。
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