黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

法科大学院の「競争倍率2倍規制」は相当に形骸化している

2013-08-14 23:35:25 | 法科大学院関係
 8月14日,ブログの設定を色々と見直しました。
 今回の記事からは,記事の概要が表示されるようになり,フェイスブックとも連動するようになったほか,細かいところがいくつか変わっています。

 本題ですが,甲南ローの院長がまた吠えているようです。
http://lawschool-konan.jp/because/column.php?id=196&p=1&PHPSESSID=e44f1ea9dac2b9a948f2367c615f4d2e

 上記,8月8日付けのBecause KONANによれば,甲南大学法科大学院の前期では18名を目途に募集しているところ,今般,一般入試と未修者特別入試,また併願を含めて,延べ102名からの出願があったそうですが,この数字には相当のインチキが含まれています。
 この点は,既にSchulze先生も指摘されていますが,今年の甲南ローは,入学試験制度が大きく変わっており,昨年の出願者数(前期と未修者特別選抜を合わせて62名?)と単純比較することはできません。入学試験要項はこちらから入手できますが,まず試験日程が以下のようになっています。

(1) 前期募集・本学入試(未修者) 8月17日
(2) 前期募集・本学入試(既修者) 8月18日
(3) 前期募集・地方入試       8月25日(東京・名古屋・大阪で実施)
(4) 未修者特別選抜(受験の必要なし)
(5) 後期募集(未修者)        2月22日
(6) 後期募集(既修者)        2月23日

 そして,甲南ローの受験生は,入学検定料5,000円を支払えば,上記6日程のすべてを受験できるものとされています。このようなシステムであれば,大半の受験生が(1)~(4)のいずれか,またはすべてを受験することができますから,極端なことを言えば実際の出願者数が26人でも,「延べ102名からの出願」は達成できるのです。
 しかも,このように入学試験を多数回実施すれば,大幅な競争倍率の水増しが可能になります。極端なことを言えば,実際の出願者が26名で,すべての受験生が(1)~(4)を併願し,受験生全員をいずれかで合格させたとしても,文科省に報告する競争倍率を4倍にすることが可能なわけです。
 つまり,このような取り扱いにすることもできる,ということです。

             (1)の入試   (2)の入試   (3)の入試   (4)の入試
(1)の合格者(5人)     ○       ×      ×       ×
(2)の合格者(5人)     ×       ○      ×       ×
(3)の合格者(10人)    ×       ×      ○       ×
(4)の合格者(6人)     ×       ×      ×       ○

 ○を合格者,×を不合格者とした場合,26人の受験者は全員が合格しているにもかかわらず,受験者の延べ人数は104名,合格者の延べ人数は26名となります。実際には,ここまで極端なことはやらないでしょうが,文科省に報告する競争倍率を恣意的に操作できること自体は容易に理解できると思います。
 しかも,甲南ローでは,今年度から秋入学制度を実施しています。甲南ローを受験した人の多くは,おそらく他のローも併願しており,甲南は第一志望ではない可能性が高いですが,それでも成績優秀な合格者は学費全額免除で釣って,とりあえず秋入学させるという手法が可能になります。
 一旦入学させてしまえば,その後その学生が他のローに合格し自主退学したとしても,定員充足率規制との関係では入学者数にカウントできるというわけです。同様の制度を導入した駒澤ローも,おそらく似たようなことを目論んでいるでしょう。

 文科省は,法科大学院における質の高い入学者を確保すると称して,入学者選抜における競争倍率(受験者数/合格者数)2倍以上の確保を徹底するよう促すとともに,2年連続で競争倍率が2倍に満たないなどの要件を満たす法科大学院は補助金を削減する,さらに入学者数が定員の50%に満たない場合にも補助金を削減するといった政策を採ってきましたが,そのなれの果てが,このような複数回入試(と秋入学)によるインチキです。
 しかも,中教審大学分科会法科大学院特別委員会の第54回議事録では,競争倍率平均が2.20倍という報告に対し,次のようなやり取りがあります。

【長谷部委員】
 大変詳細な資料について御説明いただきましてありがとうございました。1点、確認でございますけれども、資料4-1および資料4-2の、平成25年度の志願者数については、複数受験などをしているということで、延べ人数という理解でよろしいでしょうか。

【今井専門職大学院室長】
 御指摘のとおりでございます。

【長谷部委員】
 そうだとしますと、近年、複数回入試をする、あるいは未修と既修の併願を認めるというような入試の形態をとるところも大分増えておりますので、実際の競争倍率はもっともっと厳しい状況なのではないかと思います。実際に受ける可能性がある人の実数ということでいえば、適性試験の受験者数の中の、大学の卒業予定者の人数が本来は正確な人数だと思いますので、そちらもこの資料として出していただけるとありがたいかなと思います。以上です。


 つまり,文科省関係者も実際の競争倍率は大きく2倍を下回っており,各法科大学院から報告される数字の多くは延べ人数によるインチキだということを認識していながら,役に立たない法科大学院を存続させるために敢えて放置しているのです。日本国民及び納税者として,このようにあからさまな税金の無駄遣いを放置すべきではなく,文科省の職務怠慢を厳しく糾弾しなければなりません。
 もっとも,批判の槍玉として甲南ローだけを挙げるのは公平性を欠くので,他のローもいくつか取り上げてみます(必ずしも網羅的ではありませんが,同一年度に4~5回以上受験できるかどうか,その他特徴ある入試制度を設けているかどうかを取り上げる基準にしています)。

● 國學院大学法科大学院
 一般入試については,試験が1期から4期まであり,すべての入試で標準コース(未修者コース)と短縮コース(既修者コース)を併願できるものとされています。つまり,未修と既修を合わせて最大8回も受験できるのです。

● 専修大学法科大学院
 入学者選抜試験概要によると,スカラシップ入試と,第一期,第二期の一般入試があります。スカラシップ入試では既修と未修の併願は認められていませんが,第一期と第二期では併願が認められており,最大で5回受験できます。同一年度内における2回目以降の受験時には,入学検定料が35,000円から10,000円に割引されるそうです。

● 日本大学法科大学院
 平成26年度入学試験概要によると,一般入試が第1期,第2期,第3期の3回あり,同一日程における既修と未修の併願も可能なので,最大6回受験できることになります。

● 白鴎大学法科大学院
 募集概要によると,面接試験のみの地域貢献者AO入試(未修者のみ)1回と一般入試4回があり,最大5回受験できます。同一日程における既修と未修の併願はできませんが,既修者コース受験者につき,既修者として不合格であっても未修者として入学を希望する方に対しては,未修者コースの合否判定を行うそうです。

● 獨協大学法科大学院
 学生募集要項によると,入試が第Ⅰ期から第Ⅴ期までの5回あり,未修者のみの第Ⅰ期以外は既修と未修の併願が可能なので,最大9回受験できることになります。

● 神奈川大学法科大学院
 入学試験概要によると,試験は夏季・秋期・冬期・春期の4回あるそうです。合否判定と既修者認定が別の制度になっているので併願という概念はありませんが,法務博士の学位を有する(いわゆるリピーターの)入学希望者に対しては,試験によらず書類審査で既修者認定をする制度が設けられています。

● 静岡大学法科大学院
 入試情報によると,入試がA日程からF日程までの6回あり,しかも各回で既修と未修の併願が可能なので,最大12回受験できるようです。

● 京都産業大学
 だんだん面倒くさくなってきたのですが,広告があまりにうるさいので一応取り上げました。
 『法科大学院入試』によると,既修者・未修者の試験を行うA日程~D日程と,未修者のみの試験を行うS1・S2日程があり,A~D日程の同一日程併願も可能なので,最大10回受験できることになります。なお今年から,法務博士の学位を2回以上取得した者は受験資格を認めないことにするそうです。

● 立命館大学法科大学院
 入学試験要項によると,試験日程が前期・中期・後期の3回あり,各日程で未修と既修の併願が可能なので,最大6回受験できます。
 なお,立命館ローは従来,法務博士の学位を有する者の出願を一切認めない姿勢を採ってきましたが,今年から立命館ロー修了者の出願及び入学は認めない,つまり他法科大学院修了者の受け入れは認める方針に転じました。立命館ローも,いまや異論の余地がない下位ローの仲間入りです。


 なんか,あまりにもデタラメ過ぎて,もう頭が痛くなってきました・・・。興味のある人は,他の下位ローについても調べてコメント欄にでも書き込んで頂けると有り難いです。その他,下位ローの惨状など,法科大学院関係等で興味深い情報をお持ちの方は,9605-sak@mail.goo.ne.jpのアドレスへメールを送って頂けると助かります。
 もちろん,これらのローに入学できたからと言って,法曹になれるなどと思ってはいけません。大抵の人は卒業できないか,司法試験に合格できないで終わるでしょうし,運良く司法試験に合格しても貧困生活が待っています。
 このブログでは,法科大学院の被害者を少しでも減らすため,法科大学院の「三ない運動」を呼び掛けております。すなわち,法科大学院に入学し「ない」,子供を法科大学院に入学させ「ない」,奨学金や教育ローンの保証人になら「ない」の三「ない」です。
 法科大学院は,法曹養成の中核的機関などではなく,単なる人生の墓場に過ぎません。子供を法科大学院に入学させるのは,子供を麻薬漬けにするのと大して変わりません。そして,教授の甘い誘惑に乗って法科大学院に入ってしまう人がいる限り,税金の無駄遣いも止まらないのです。



2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
入試の体をなしていない (Unknown)
2013-08-15 10:35:00
これを入試と呼んでいいんでしょうか?

法科大学院を評価する物差しの一つに入試の競争倍率があるようですが、それに一体何の意味があるのでしょう。
仮に何百人が受験しようと、現実の入学者が1ケタでは何の意味もないでしょう。
例に挙げられたローも立命館・日大・専修以外はすべて入学者1ケタです。
鉦や太鼓を叩いてかき集めた結果の数字がこれなのですから・・・。

ここに挙げておられるような下位ローに何回も受験してやっと入れるレベルの受験生が、そのロー入試に合格したとしてもとても司法試験に合格できるとも思えません。

入学者を絞るために実施するのが入試の目的はずなのに、受験者を無理やりかき集めるのが目的と化していますね。
学生の幸せためにローが存在するのではなく、ただローの存続のために学生が犠牲になっています。

まさに本末転倒。

マスコミはもっとこの馬鹿げた実態に注目してもらいたいものです。

返信する
Unknown (Unknown)
2013-08-16 00:14:03
これだけ法科大学院の馬鹿さ加減がわかってくると、志望者も限られる。だから志望者の取り合いなのか。
甲南ローの院長さん、
賢けりゃ誰も行かない大学院 補助金欲しさになりふり構わず
ですね。
入学者の将来をまったく考えていないところなんか、むしろ清々しいほどですなあ。
返信する