黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

「多様性詐欺」をやめさせるには

2013-06-27 00:35:04 | 法科大学院関係
 法曹界の就職事情に関する最近の議論を聞いていると,司法試験に合格する前の法科大学院生や卒業生と,合格した後の司法修習生や現役弁護士との間に,とてつもない現状認識の差を感じることがあります。
 特に,30歳を過ぎてこれまで法律関係の仕事をしたことのないような人が,突如「法曹を目指す」などと言って法科大学院に入ってきたりします。現役の弁護士は,「そんな年齢で法科大学院に入ったところで,司法試験に合格しても絶対仕事無いよ」と何度も口を酸っぱくして警告するのですが,法科大学院に入学する人は聞き入れようとしません。それどころか,自分たちは社会人出身者なのだから優先的に法曹になれて当然だとか,今の司法試験は社会人出身者(未修者)に不利だから司法試験に社会人枠・未修者枠を作れとか,現役の弁護士から見れば発狂しているとしか思えないことを平気で口にする人もいます。

 その原因が何かということは,ちょっと考えてみればすぐに分かります。「法曹の多様性」という,法科大学院制度の理念です。
 司法審の意見書には,「21世紀の法曹には、経済学や理数系、医学系など他の分野を学んだ者を幅広く受け入れていくことが必要である。社会人等としての経験を積んだ者を含め、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要がある」といったことが書かれており,各法科大学院では,入学者の3割以上を法学部以外の出身者または社会人経験者とすることが努力目標とされています。
 ただし,肝心な「社会人」の定義については各法科大学院にほとんど丸投げされており,大学卒業後2年以上(あるいは3年以上)経過していれば,その間の経歴はフリーターでも家事手伝いでも社会人とみなすという法科大学院も多く,また2年以上の職務経験があれば社会人とみなす(2年以上アルバイト歴のある大学生でも良い)という法科大学院もあります。
 このように,非常に問題のある「社会人」の定義は放置した上で,各法科大学院は上記の努力目標を達成するために,自校の定義によれば「社会人」となる人を勧誘して法科大学院に入学させようとします。その際には,おそらく司法審意見書に書かれた法科大学院制度の理念を持ち出し,「法曹界は君たちのような社会人経験のある人を求めている」などと調子の良いことを言っていることでしょう。
 そして,疑うことを知らない「社会人」たちがこのようなお偉い大学教授のお言葉を聞けば,法曹界は多様なバックグラウンドを有する人材を多数受け入れるため,法科大学院のみならず司法試験でも就職でも「社会人」経験者を優遇しているだろう,と確信するに至ることでしょう。今の日本では,「大学教授の言うことは正しい」と無批判に信じ込んでしまう人が未だに多いため,このように考えてしまう人が現れるのも無理からぬところではあります。
 しかし,現実はこれと正反対です。「法曹の多様性」という理念は,要するに法科大学院側が勝手に言っているだけのものであり,司法試験では他学部出身者や社会人経験者が有利になるような措置は一切取られておらず,就職段階では「社会人」経験者はむしろあからさまに冷遇されています。
 理由は簡単です。弁護士という職業は,資格を取ってからも学ぶべきことはたくさんありますから,新人を採用するのであれば若く伸び代のある人材の方が有用であり,また採用後何年かは下働きのような仕事をさせるのが一般的であり,新人段階から年齢の高い人は使いにくいのです。また,それ以前の問題として,大学卒業後フリーターや無職として何年かを過ごしたからといって,そのような「経験」が専門性の高い弁護士の業務に役立つという理屈には,どう考えても無理があります。
 それでも,法曹界は司法試験の合格に何年もかける人が伝統的に多かったので,年齢面では比較的寛容であり,司法試験合格時28歳くらいまでならまだ就職先はあるようです(ちなみに,公認会計士は24歳くらいが上限のようです)が,他学部出身の未修者として入学したとか,大学卒業後何年か「社会人」経験を積んできたというのは,要するに年齢的なハンデにしかなりません。法科大学院入学時に30歳を超えているような人は,たとえ司法試験に上位合格したとしても就職はほぼ絶望的であり,自らの「社会人」経験を活かして即独してもらう以外に途はありません。
 他学部出身者や「社会人」として法科大学院に入学した人は,入学後しばらくすると,司法試験以降の段階では自分たちが全く優遇されていないことに気付き,ほぼ不可避的に失望します。そして司法試験に合格すると,自分たちを受け入れてくれる法律事務所がほとんどないことに気付き,ほぼ不可避的に絶望します。司法試験に三振しても絶望が待っていますから,他学部出身者や「社会人」として法科大学院に入学した人は,ほぼ不可避的に絶望することになるのです。
 法科大学院は,司法審の掲げた「法曹の多様性」という,それ自体にはなかなか反対しにくい理念を濫用して,法曹界ではとても使い物にならないような学生を「多様性」という魔法の言葉で操り,多額の授業料(罰金)を任意に支払わせて法科大学院という名の牢獄に入所させ,やりたい放題に痛めつけています。黒猫はこのような法科大学院の行為を「多様性詐欺」と呼んでいます。
 また,法科大学院のこのような行為は,実務家サイドから見ればあたかも飼い猫がネズミの死骸や意味のないがらくたを次々と飼い主の前に運んでくるようなものであり,しかも猫と違って可愛くも何ともありません。法科大学院の存在によって真に優秀な人材が法曹界から離れていることを考えれば,黒猫のような現役の弁護士がこの馬鹿うざいとっとと消えろと法科大学院に石を投げつけるのはあまりに当然の行為であり,何も不思議がられる謂れはないのです。

 ちなみに,法科大学院の制度設計時には,アメリカの大学には法学部がない,ロースクールには多様なバックグランドを持った人材が多数入学してくるなどとして,アメリカのロースクール制度が非常に美化されましたが,以前にも指摘したとおり,これはほとんどウソです。アメリカでロースクールを目指すエリート学生は,政治科学,歴史学,社会学,法学準備などロースクールに関連する学部を選び,高いGPAを取って少しでもランクの高いロースクールに入学しようとします。
 むろんそうでない入学者もたくさんいますが,ハーバード校,イェール校,スタンフォード校,コロンビア校といった超有名校を高い成績で卒業した者は高給エリート職に就くことができるが,出身ロースクールのランクが下がるほど就職は難しくなり,下位校の卒業者で法務職に就ける者は半分もおらず平均給与も著しく低いという超エリート主義の下では,最初から十分な準備をしてロースクールに入学した者が有利であるのは言うまでもありません。大学の医学部を卒業してロースクールに入るのは,経済的には明らかな自殺行為であり,そのような選択をする人はおそらくほとんどいないでしょう。
 日本は,アメリカのロースクール制度が,何となく上記とは異なる制度であるかのように誤解した上で,これを真似て法科大学院制度を導入しましたが,結果的にエリート主義という体質はアメリカのロースクールと似たようなものになっています。これは,考えて見ればある意味当然の結果なのかも知れません。
 ただし,日本の法曹界における最高級のエリートは法科大学院卒業者ではなく予備試験合格者であり,アメリカではハーバード大学ロースクールなどを卒業すれば就職はほぼ100%保障されているのに,日本では東大ローや一橋ローなどを卒業しても就職が全く保障されないというのは,日本とアメリカの顕著な違いです。
 また,アメリカではロースクールのランクと学業成績がほぼ唯一の評価基準であるのに対し,日本では司法試験の順位が最大の評価基準として機能しています。アメリカでは,下位校や定時制のロースクールを卒業したら法曹界ではクズ扱いされる運命しか待っていませんが,日本では下位校や定時制の出身者でも司法試験で高い順位を取ればそれなりに評価されます。そのような意味において,日本の司法試験は学歴エリート主義の弊害を若干ながら緩和する機能を果たしていると言って良いでしょう。

 それにしても,このような「多様性詐欺」によって,善良な「社会人」や他学部生を騙して多額の金品を巻き上げ,何年間も有害無益な課題処理に従事させた挙げ句,誰もいない大海原へ鎖付きで放り出すような法科大学院制度がなぜ今日でも国家の制度として存続し得ているのか,なぜ少なくない数の日本国民が「あれだけ鳴り物入りで作っちゃったんだからそう簡単には廃止できないでしょ」などと,信じ難いような国営詐欺を未だに容認ないし黙認しているのかについては,まさしく現代日本のミステリーであると評するしかありません。
 市場にお金をばらまけば日本の景気が回復するなどという一部経済学者の世迷い言を未だに国民の大半が信じているような国ですから,法科大学院制度について正常な判断ができないのはある意味当然なのかも知れませんが,アベノミクスと違ってこれだけ弊害が明らかになっている分野でも正しい判断ができないというのは,相当に病んでいます。
 日本の大学は,理系分野ではまだ国際的に通用すると考えられているものの,逆に言えば,文系分野では全く国際的に通用しないと考えられています。法科大学院のみならず,会計大学院や経営大学院なども教育機関としての評判は一向に上がらず,「卒業しても履歴書の記載事項が一行増えるだけ」などという評価が定説になっています。
 日本の文系学部には,なぜか他人様の役に立つ教育・研究をやろうという意思が全くと言って良いほど感じられず,外国語の論文を訳すことと政治家に尻尾を振ることが(日本の)大学教授に必要な資質だと思われているので,そのような大学教授に教えを乞うたところで,実社会で役に立つような知識が身に付くはずもないのです。法科大学院はその最たる例であり,会計大学院や経営大学院などもこれに準ずるものと考えてよいでしょう。
 30歳を過ぎて転身しても活躍できる見込みがほとんどないのは医者も弁護士も同じですが,大学の医学部はその現実をよく分かっていますから,30歳を過ぎた入学希望者がいてもほとんど入学させません。これに対し,法科大学院は30歳を過ぎた人を「多様性詐欺」で積極的に入学させようとします。教育機関としての質やモラル,その他設備以外のあらゆるものが法科大学院には欠けており,その根源は文系学部の役立たずぶりに起因しています(法科大学院自体,法学部があまりにも役立たずで司法試験を目指す学生に見離されかけたことから,失業と権威失墜を恐れた法学部の教授達が国に泣き付いて作らせたものです)。
 法科大学院制度がもたらす社会的弊害を除去するには,可及的速やかに法科大学院を全廃するか,法科大学院の修了を司法試験の受験資格から外す必要がありますが,それでも司法試験の受験資格とは無関係なものとして法科大学院またはそれに準ずる教育機関が残る可能性はあり,それに騙されて入学してしまう人を根絶することまではできません。
 この問題を解決するには,日本国民がもっと賢くならなければなりません。日本の文系学部は全くの役立たずであり,法科大学院を含む文系の大学院は卒業しても何の意味もない,日本の文系大学教授は救いようの無い馬鹿だらけであるということを,多くの日本国民が正しく認識しなければなりません。「いや,そんなことはない」などと,何の根拠もなく大学教授を擁護し続ける頭の悪い日本国民が存在し続ける限り,日本経済の「失われた20年」がスペインやポルトガルのように「失われた200年」「失われた400年」になることは避けられず,また法科大学院制度の被害を無くすこともできないのです。

補足(6月27日):
・最初のコメントは,あまりにも下品であり記事内容との関連性も認められないので,削除しました。
・コメント欄で,年齢など他の条件が同じなら他学部生は法学部生より優遇されるのかという趣旨のご質問がありましたが,黒猫の知る限り,特に優遇も冷遇もされないのではないかと思います。ただ,理系学部出身者は法曹界では珍しいので,採用選考の際ちょっと会ってみようかという気になる弁護士もいるかも知れません。逆に言えばその程度の違いです。

143 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (社会人)
2013-06-27 02:25:53
私は昨年、予備試験に合格し、今年の司法試験を受験しました。企業に在籍している30代半ばの者です。

やはり、私の年代では法曹界への転身は極めて困難だということがわかりました。司法試験に運よく合格できれば、企業に在籍しつつ就職活動しようと思っていますが、全滅して当然という覚悟を持てました。

法曹界の現実を教えていただき感謝しています。
返信する
Unknown (Unknown)
2013-06-27 02:31:08
法科大学院を早く潰してください。
返信する
Unknown (Unknown)
2013-06-27 02:42:51
浜辺陽一郎の自宅に電凸した伊藤真塾長は男の中の男だわ!
マジでガチでしびれたぜ!
伊藤真ばんざい!!
伊藤塾ばんざい!!!
http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/0b5046c5dd5073f3c22ae53ae53bac3f?guid=ON
返信する
Unknown (Unknown)
2013-06-27 02:48:17
黒猫先生がおっしゃっていることにほぼ異論はないのですが、例外は存在します。

菊間氏のようにコネクションがあるような場合です。
私の周りにもお父さんが弁護士で、40才でサラリーマンから弁護士に転身し、お父さんの事務所で勤務している人もいれば、友人のお父さんの事務所に48才で勤務し始めた人もいます。
ですから、あらかじめ就職先を確保できていて、なおかつ人脈がある人は何とかなっているようです。

でも、大多数は、絶望的な状況だろうと思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2013-06-27 04:53:04
大学教授のいうことだから信用するという人は、一般人、ロー生ともに多いです。

 「まともな講義もできないくせに、えらそうにすんな」
と思いますが、いえないです。
大学教授もぴんきりですよ。受験生もそうですけどね。
でも、受験生はお金払っている側じゃないですか。
プロならプロらしくしてほしいですね。
ローなんか早く潰して、優秀な人が普通に法曹界に入るようにするべきだと思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2013-06-27 09:24:55
コメント欄、もういらんのでは?

荒んできたよ。

浜辺マンセーの逆ステマ「伊藤塾うんちゃら」はそろそろ発信者特定照会した方が良いんじゃないですか?
返信する
Unknown (合点)
2013-06-27 09:36:30
なんか理解できました
ネット上に見られる一部ロー生が、よくわからん知ったかぶりで弁護士業界や旧司法試験を語ってるのを見てなんじゃこりゃと思ってました。
この記事で理解できました。教授らが大学利権強化政策を正当化するために言ってる妄言を、そのまま妄信して、
さらに自分の都合のいい解釈を重ねてしまってたわけですね。
返信する
Unknown (さすがに)
2013-06-27 09:44:30
>信じ難いような国営詐欺を未だに容認ないし黙認しているのかについては,まさしく現代日本のミステリーであると評するしかありません

これについては、国とマスコミが揃ってマンセーし続けていれば、特にその分野に興味がない人達が、あえてマスコミが報じない事実を調べて批判の声を挙げるまでしないのは仕方ないのでは。
私もこの業界の末端に携わらせてもらってますから、いかに役人学者マスコミ日弁連執行部が腐っているかを知らされましたが、
他にも私が知らずマスコミが論点をそらしてる分野で、司法改革以上に、不当に一部の利権を強化し血税を無駄にばらまく政策が、あちこちにあるんだろうなと思ってますよ
返信する
Unknown (鴨長明)
2013-06-27 10:15:52
私は、30過ぎの社会人です。
・3人の子持ち。
・年収は1500万円。
・難関資格を複数。

3年前から、東大ローに学歴ロンダリングしに行こうか真剣に悩んでます。

東大ローと弁護士資格の魅力は、やはり世間からの過大評価だと思います。

東大文一>>>東大ロー
って認識している人の割合は、1-2割くらいじゃないですか?
司法試験が圧倒的に簡単になっているにもかかわらず、弁護士の社会的地位も高いし、今から東大ロー出て、司法試験に合格したらお得感があります。
返信する
Unknown (Unknown)
2013-06-27 10:21:28
一つだけ疑問というか質問があります。
黒猫先生は、他学部出身者や社会人が年齢的な面で不利だ、としています。
では、彼らが28歳で合格したとして、同じ年齢の法学部出身者と比べるとどうなのですか?何か法学部出身者よりも就職面で優遇されるのでしょうか?
返信する