黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

総務省は,「リピーター商売」を容認するらしいです。

2012-04-22 17:02:17 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 4月20日に公表された,総務省の『法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価書』は,政府の機関として初めて「司法試験の年間合格者数3000人」という目標設定が誤りであると認めた画期的なものです。黒猫もその意味では評価書を高く評価しています。
 評価書では「弁護士に対する社会的需要は,司法制度改革審議会が想定したほどには増大しておらず,年間3000人という目標値が達成されないことによる国民への大きな支障は認められない」一方,「現状の約2000人の合格者数でも弁護士の供給過多となり就職難が発生,OJT不足による質の低下が懸念される」ことを,豊富な資料を用いて論証しています。この評価書が,今後の法曹人口に関する議論に大きな影響を与えることは間違いなく,なおも法曹人口の拡大を唱え続ける論者にとっては,この評価書は重大な壁となって立ちふさがることでしょう。
 それは良いのですが,この評価書では,法科大学院制度に関する問題点も検討されており,法科大学院の教育内容等についていくつかの改善勧告が行われているものの,いまいち抜本的な問題解決の方向性は示されていないという感じです(もっとも,抜本的な解決方法は,もはや法科大学院修了を司法試験の受験要件から外すか,それとも法科大学院制度自体を廃止するかの二択しかないと思いますが)。その中でも,司法試験の受験回数制限と,それに伴う法科大学院への再入学者(いわゆるリピーター)の問題については,ほとんど「現状を知りながら放置」する姿勢すら見て取れます。

 政策評価書295頁によると,司法試験法に規定されている「5年間に3回まで」という受験回数制限により,これまでに法科大学院修了者のうち4,252人が受験資格を喪失したそうです。総務省はさすがに「三振博士」という言葉は使っていませんが,これに代わる適切な用語も特にないので,以下この制度による司法試験の受験資格喪失者を「三振博士」と呼ぶことにします。法科大学院制度が発足し最初の修了者を出したのが平成17年なので,少なくとも今後数年間は,年間数千人単位で新たな「三振博士」の発生が見込まれることになります。
 そして,法科大学院修了者の進路については,評価書では要するに「実態を把握できていない」という調査内容が続いた後,「再入学者」についての調査結果についても触れられています。すなわち,総務省が実地調査を行った38校の法科大学院では,昨年(平成23年)4月1日の段階で,累計14校で25人の「再入学者」,すなわち法科大学院の修了者であるにもかかわらず,司法試験の受験資格を再度取得するため再度法科大学院に入学した者が確認されたそうです。ただし,これは昨年の数字であり,しかも再入学者であるか否かは法科大学院側でも確実に把握する手段がないため,実際にはさらに多くの再入学者(リピーター)がいるものと推測されます。
 もっとも,再入学者の中には,司法試験に合格しない場合に備え,3回目の受験の年に再度法科大学院の入学試験を受験している人もいるようですが,どちらにせよ司法試験の受験回数制限があるせいで,専ら受験資格を再度取得するために法科大学院への再入学を強いられている人であることに変わりはないので,そのような人も制度批判の観点から数として挙げるべき「リピーター」に含めるべきことは異論の余地がないでしょう。
 評価書の見解では,リピーターの入学を認めるかどうかは各大学のアドミッション・ポリシーの問題であり,認めても認めなくても特に問題はないということのようですが,学生不足に悩む下位の法科大学院にとっては,リピーターの受け入れは大変においしい「商売」です。
 リピーターは一度法科大学院を修了しているので,法科大学院の授業に付いて行けない心配も,進級の際に単位を落としたりして落第する心配もまずありません。少なくとも見かけ上は,普通の入学者より高い成績をたたき出してくれるでしょう。司法試験に3回落ちているからと言って,法科大学院側が親身になって司法試験の受験指導をする必要もありません(そもそも受験指導自体が文部科学省の規制によりできないため)。
 法科大学院の授業料が払えないリピーターであっても,無事に修了できる見込みさえあれば奨学金の支給対象にはなるようなので,実質国が授業料を払ってくれます。法科大学院を2回も修了した場合,返済すべき奨学金の金額は軽く1000万円を超える可能性もありますが,奨学金を返せるかどうかは個人の問題であり,法科大学院側の知ったことではありません。しかも,5年間も受験浪人を続けていれば,その間に何らかのアルバイト等をやっている可能性が高いので,そのような人は文句なく「社会人枠」に含めることができ,「他学部及び社会人出身者3割以上」という目標の達成にも一役買ってくれます。
 近年の法科大学院(特に下位校)は,学生の確保に大変頭を痛めています。設立当初は,司法制度改革審議会意見書にある「目標値」を根拠に,「法科大学院は修了すれば7,8割が弁護士になれるものだ」などというあからさまな嘘をついて学生を集めていたところもあるようですが,新司法試験の実態が広く知れ渡り嘘が通用しなくなると,奨学金を餌に,法学部の卒業生に対してなりふり構わず法科大学院の宣伝パンフレットを配り歩いているような大学もあるようです。
 文部科学省による公的支援の見直し政策に伴い,とにかく学生の数と質を揃えなければ存続の危機に直面する各法科大学院が,「リピーター」というおいしい餌に注目しないはずがありません。現状を放置しておけば,むしろ法科大学院の側が積極的に,三振博士に対し積極的に再入学の勧誘を行う事態すらあり得るのです。
 もっとも,このような「リピーター」の大量発生現象は,一般国民の目から見ればあまりにも壮大な税金の無駄遣いに他なりません。政策評価を行うのであれば,このような現象が発生する可能性を徹底的に排除しなければならないはずです。
 しかし,総務省は,受験回数制限制度について「受験生の長期滞留防止には一定の役割を果たしている」と積極的に評価し,受験生への負担等から緩和ないし撤廃を求める声があることには言及しつつも,①法科大学院の教育の質の確保に係る取り組み,②法曹以外の道を目指す修了者への就職支援,在学者への就職支援が講じられることにより,司法試験合格率の向上や法学専門教育を受けた者の法曹以外の職業での活用が図られる可能性があること,③平成23年から予備試験が実施されていること,④受験回数や受験期間の年数を追うごとに合格率が低下していることを考慮すれば,「現時点において受験回数制限の見直しを行うまでに至っていないとみられる」と結論づけ,この問題については当面放置する姿勢を明らかにしました。
 本来「法科大学院修了者と同等の」学識等があるかどうか判定することを目的とした予備試験に,法科大学院修了者のわずか4%程度(受験者192名中8名)しか合格できていない,それなのに昨年の予備試験合格者116名のうち40名が大学生であるという,既に国会議員も問題にしている異常現象について全く触れない総務省の態度には頭が下がりますが,これ以上延々と文句を書き続けても仕方ないので,
総務省が放置の理由として挙げたもののうち,②について最後に若干言及しましょう。
 総務省の調査結果によっても,法科大学院修了者のうち法曹以外の職業に就職できた者は,全体の約4.5%に過ぎません。調査対象者の中には,進路が把握できない者が相当数いるということですが,進路不明者が揃いも揃って恵まれた定職に就いているということはまずないでしょうから,法曹以外の職業への就職が,修了者の進路としてはあくまで例外的なものでしかないことは上記の数字からも明らかです。
 それでも,総務省が法科大学院修了者の就職についてひどく楽観的な見解を採っている理由としては,どうやら経営法友会からの意見聴取で,以下のようなことを言われたからのようです。
「同会が平成22年秋に実施した意識調査の結果では,回答した会社の8.8%が法科大学院修了者の採用をすると回答しているから,企業法務への採用のニーズはある。また,採用はあくまでも人物本位で行うため,司法試験の合否について特に聞くことはなく,司法試験に合格しなかったことが決して不利に働くことはない。修了後に司法試験を数回受けており,高齢になっていたとしても,30歳前後くらいであれば,特段採用に問題はない。」(一部抜粋)
 安念教授は,たしか総務省のヒアリングで上記とは真逆のことを発言していましたし,「法務博士という資格は就職においてほとんど意味をなさないため就職希望者の大半は退学を希望している」という意見を述べている法科大学院もあるのですが,総務省はこのような意見を黙殺する気のようです。
 それに,建前としては法科大学院修了者も採用の対象とすると言ってみても,最近は弁護士業界も史上空前の就職難で,少なくとも一般企業が院卒並みの待遇を提示すれば,それに飛びついてくる司法試験合格者や新人弁護士は沢山います。
 新人弁護士があまりに供給過剰なので,既存の弁護士も裁判所に行かせるための小間使い役なら新人弁護士を雇ってもよいと考えて,中には月給10万円,時給750円といった恐ろしい低賃金で新人弁護士を雇っている事務所もあるとさえ聞いています(もっとも,このような待遇でも固定給ゼロのノキ弁やタク弁,即独よりはかなりましなので,最低賃金法違反でない限り弁護士会としては文句も言えません)。
 司法試験合格者でさえそのくらいの待遇で雇えるのに,法科大学院修了者のうち司法試験にも合格できない「出来損ない」をわざわざ採用する企業は,いてもごく少数でしょう。実際に就職している人の中には,司法試験に落ちると採用時においてマイナスの評価になってしまうため,敢えて司法試験は受験しないという選択をしている人もいると聞いています。
 それに,「30歳前後くらいであれば特段採用に問題はない」という意見の中にもトラップが含まれています。司法試験合格者の平均年齢は例年29歳前後で,しかも合格者の半分以上は1回目の受験で合格しているので,司法試験に失敗した法科大学院修了者の大半は,もはや一般企業に就職できる「30歳前後」という年齢を超えてしまっているということになります。
 最も楽観的な経営法友会の意見を基に検討しても,法科大学院修了者を法曹以外の職業で活用するという構想は,所詮夢物語に過ぎないのです。

5 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-04-23 02:57:30
>本来「法科大学院修了者と同等の」学識等があるかどうか判定することを目的とした予備試験に,法科大学院修了者のわずか4%程度(受験者192名中8名)しか合格できていない,それなのに昨年の予備試験合格者116名のうち40名が大学生であるという,既に国会議員も問題にしている異常現象

・・についてですが、非常に単純化して考えると、要するに、大学生で合格したのは非常に優秀な人達であり、他方、法科大学院修了者で予備試験を受けるような人達は、本来の新司法試験では受かる見込みが低いので次善の策として予備試験も予備的に受けてみたものの、予備試験合格レベルにも達していない人が多かった、ということではないでしょうか。
もちろん、予備試験が法科大学院修了レベルを合格基準として標榜しているからには、法科大学院修了者は100%に近い率で予備試験に合格させねばならず、そうなると学部在学生の合格者数は更に増えてしまうという事態になりますが、さりとて法科大学院において修了レベルを厳しく認定して法科大学院の修了率が数%などということになれば(本来はそうすべきなのでしょうが)それはまた別に大問題となるので、現実には不可能であると。

予備試験の実施趣旨からすると、そもそも法科大学院修了者は受験資格を与えなければよかったのに、なぜか受験を認めてしまったが故に法科大学院の矛盾点が露見してしまいました。
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Unknown (Unknown)
2012-04-23 04:54:49
みんなで"ill sue ya"を唱って訴訟市場を開拓しましょう!

ttp://www.youtube.com/watch?v=MeXQBHLIPcw&ob=av3e
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Unknown (Unknown)
2012-04-23 13:57:27
元々矛盾していたのだから、露見して大いに結構。
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Unknown (Unknown)
2012-04-24 23:50:31
ここで聞くことではないかもしれないですが
司法試験で浪人した人とかは
何年に一度ぐらい基本書であったり過去問を
新しく購入してるものなんでしょうかね?
毎年毎年買っていたらそれだけでも
相当な支出ですよね
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Unknown (芳賀)
2012-06-20 12:47:13
受験指導してはダメな要件って、本当は教員がそれができるとした場合に
自らの無能をばれないための要件ではないのでしょうか?
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