黒猫のつぶやき

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政治におけるメッセージの伝え方

2007-11-05 01:57:08 | 時事
小沢民主代表が辞意 連立「協議に値した」(朝日新聞) - goo ニュース

 11月2日に、党首会談で福田総理から小沢氏に連立協議の話が持ちかけられ、即日拒否でこの件は終わりかと思いきや、小沢氏の代表辞任といった思いもよらぬ話に発展してしまっています。
 朝日新聞のニュースで、小沢代表の会見における発言全文が公表されているので、引用の上コメントします。

> 民主党代表としてけじめをつけるに当たって私の考えを述べたい。福田総理の求めによる2度にわたる党首会談で、総理から要請のあった連立政権樹立を巡り、政治的混乱が生じた。民主党内外に対するけじめとして、民主党代表の職を辞することを決意し、本日、辞職願を提出し、私の進退を委ねた。

> 代表の辞職願を出した第1の理由。11月2日の党首会談において、福田総理は、衆参ねじれ国会で、自民、民主両党がそれぞれの重要政策を実現するために連立政権をつくりたいと要請された。また、政策協議の最大の問題である我が国の安全保障政策について、きわめて重大な政策転換を決断された。

> 首相が決断した1点目は、国際平和協力に関する自衛隊の海外派遣は国連安保理、もしくは国連総会の決議によって設立、あるいは認められた国連の活動に参加することに限る、したがって特定の国の軍事作戦については、我が国は支援活動をしない。2点目は、新テロ特措法案はできれば通してほしいが、両党が連立し、新しい協力体制を確立することを最優先と考えているので、あえてこの法案の成立にこだわることはしない。

> 福田総理は以上の2点を確約された。これまでの我が国の無原則な安保政策を根本から転換し、国際平和協力の原則を確立するものであるから、それだけでも政策協議を開始するに値すると判断した。
 
 ここまで読むと、要するに福田総理は自衛隊の海外派遣について、国連安保理または国連総会の決議によって設立され、または認められた国連の活動に限るものとすることを決断したということのようですが、そうなると国連決議のあるアフガニスタンの活動には参加できるが、国連決議によらないイラクでの軍事活動には参加できないことになります。
 ここまで来ると、従前の民主党の主張を全面的に受け容れたといってもよいくらいですから、民主党としても正面から反対する理由はないですね。

> 代表の辞職願を出した第2の理由。民主党は、先の参議院選挙で与えていただいた参議院第一党の力を活用して、マニフェストで約束した年金改革、子育て支援、農業再生を始め、国民の生活が第一の政策を次々に法案化して、参議院に提出している。しかし、衆議院では自民党が依然、圧倒的多数占めている。

> このような状況では、これらの法案をすぐ成立させることはできない。ここで政策協議をすれば、その中で、国民との約束を実行することが可能になると判断した。
 民主党は、先の参議院選挙でいろんな公約を掲げていましたから、それを速やかに実行できるようにするというのは、たしかに理屈としては間違っていないと思いますが・・・。

> 代表辞任を決意した3番目の理由。もちろん民主党にとって、次の衆議院選挙に勝利し、政権交代を実現して国民の生活が第一の政策を実行することが最終目標だ。私も民主党代表として、全力を挙げてきた。しかしながら、民主党はいまだ様々な面で力量が不足しており、国民の皆様からも、自民党はだめだが、民主党も本当に政権担当能力があるのか、という疑問が提起され続けている。次期総選挙の勝利はたいへん厳しい。

> 国民のみなさんの疑念を一掃させるためにも、政策協議をし、そこで我々の生活第一の政策が採り入れられるなら、あえて民主党が政権の一翼を担い、参議院選挙を通じて国民に約束した政策を実行し、同時に政権運営の実績も示すことが、国民の理解を得て、民主党政権を実現させる近道であると判断した。

> 政権への参加は、私の悲願である二大政党制に矛盾するどころか、民主党政権実現を早めることによって、その定着を実現することができると考える。
 小沢代表は、先の参議院選挙大勝利の立役者ですが、それだけに今の民主党の実力が身にしみて分かっていて、要するに単独で政権を取れる実力はまだないと。なので連立により政権運営の実力を示そうとしたということですか。

> 以上のような考えに基づき、2日夜の民主党役員会で福田総理の方針を説明し、政策協議を始めるべきではないかと提案したが、残念ながら認められなかった。

> それは、私が民主党代表として選任した役員から不信任を受けたに等しい。よって、多くの民主党議員、党員を指導する民主党代表として、党首会談で誠実に対応してもらった福田総理に対しても、けじめをつける必要があると判断した。

> もう一つ。中傷報道に厳重に抗議する意味において、考えを申し上げる。福田総理との党首会談に関する報道について、報道機関としての報道、論評、批判の域を大きく逸脱しており、強い憤りをもって厳重に抗議したい。特に11月3、4両日の報道は、まったく事実に反するものが目立つ。

> 私の方から党首会談を呼びかけたとか、私が自民、民主両党の連立を持ちかけたとか、今回の連立構想について、小沢首謀説なるものが社会の公器を自称する新聞、テレビで公然と報道されている。いずれもまったくの事実無根。党首会談、および会談に至るまでの経緯、内容について、私自身も、そして私の秘書も、どの報道機関からも取材を受けたことはなく、取材の申し入れもない。

> それにもかかわらず事実無根の報道がはんらんしていることは、朝日新聞、日経新聞を除き、ほとんどの報道機関が、自民党の情報を垂れ流し、自らその世論操作の一翼を担っているとしか考えられない。それによって、私を政治的に抹殺し、民主党のイメージを決定的にダウンさせることを意図した明白な中傷であり、強い憤りを感じる。

> このようなマスメディアのあり方は、明らかに報道機関の役割を逸脱しており、民主主義の危機であると思う。報道機関が政府与党の宣伝機関と化したときの恐ろしさは、亡国の戦争に突き進んだ昭和前半の歴史を見れば明らかだ。

> また、自己の権力維持のため、報道機関に対し、私や民主党に対する中傷の情報を流し続けている人たちは、良心に恥じるところがないか、自分自身に問うてもらいたい。

> 報道機関には、冷静で公正な報道に戻られるよう切望する。

 思い起こせば、小沢さんは新進党、自由党と、二度にわたって自分が代表になった党を分裂させた「前科」の持ち主ですが、いずれも考えていたことは必ずしも間違いとはいえないものの、自分一人の思考で行き着いた結論を優先させて、周りがそれに付いていけなかったというような失敗の仕方をしています。今回もそれの延長上にあるような失敗ではないでしょうか。
 小沢代表が、単に自民党との連立を形式上役員会に持ち帰っただけでなく、本気で実現させようとしたのは、おそらく第3点が一番大きな理由だと思います。
 たしかに、民主党の政権担当能力を疑問視する人は少なくありませんし、黒猫も疑問視していないわけではありませんが、それでも先の衆院選で民主党にあれだけの票が集まったのは、今の与党政権で、政治と金の問題のほか、過去の負の遺産のような問題が次々と出てきて、このまま政治を自民党に任せていたら日本はめちゃくちゃになってしまう、不安はあっても政権交代で政治をクリーンにしたほうがまだよい、と判断した有権者が相当数いたからでしょう。
 それが、自民党と連立政権を組んで、民主党が自民党政治に飲み込まれるようになってしまったら、個々の公約を果たすかどうかという問題以前に、多くの国民の期待を思いっきり裏切ることになりますよ。
 たしかに、今の民主党がいきなり政権を執れば、実績不足でしばらく混乱が生じるかもしれないけど、本気で二大政党制を実現したいのであれば、おそらく最初の混乱は覚悟の上でやるしかないでしょう。

 小沢氏の失敗は、これから政権奪取という機運の中で変に弱気になってしまったというところにもあると思いますが、世論の動向を読んで、適切なメッセージによってその流れを誘導するという発想が全くなかったことにも問題があると思います。
 福田総理の対応に誠意が認められるし、ねじれ国会の閉塞状況を何とか打開しなければならないから連立を検討するというのであれば、密室の中で2人で決めるのではなく、根回しは一応事前にやっておくとしても、公開の党首会談を別途行い、誰にでも分かるように連立協議を検討するに至った過程を明らかにすればよいでしょう。
 小沢総理は、今回のマスコミの報道についてかなりご不満があるようですが、一切を密室の中で考えて、いきなり連立の話に前向きになったりすれば、憶測のような報道が乱れ飛ぶのも無理はないという一面もあると思います(もっとも、今の日本のマスメディアの質が必ずしも良いとは思いませんが)。
 いまどきの政治家は、自分の言動が逐一マスメディアで報道されることを前提に、世論をどうやって動かすかを考えて行動しなければならない仕事であることはもはや明らかですが、小沢代表は、そういう駆け引きが上手なタイプではないのでしょうね。先の参議院選挙でも、裏で地盤固めは熱心にやってたけど、自分からテレビでしゃべることはあまりなかったし。
 というより、小沢氏に限らず、日本の政治家でメディア戦略を有効に活用してきた政治家は、これまで小泉元総理くらいしかいません。例の郵政解散・総選挙から2年以上経っても、小泉元総理のやり方や、おそらくそのもとになったアメリカの政治家のやり方を与野党とも十分研究していない。
 要するに、日本の政治家は進化が遅れているわけです。

 メッセージの伝え方に問題があるのは、小沢代表だけでなく、鳩山法務大臣についてもいえることです。
 鳩山法務大臣は、就任以来、①司法試験の合格者数見直し、②死刑執行制度の見直し(死刑執行にあたり法務大臣のサインをやめる)などといった重要な問題提起をしており、言いたいことはそれなりに理に適っているところもあると思うのですが、いかんせん伝え方が悪すぎる。
 死刑執行制度については、単に個別の執行について法務大臣のサインを必要とする現在のやり方は、時の法務大臣の個人的思想・信条などに左右されて必ずしも適切とはいえない、法務大臣のような政治家ポストの人間ではなく、中立的かつ公正な立場で判断できる人に行わせるようにすべきだなどと問題提起すればよかったのではないかと思うのですが(法務省の官僚に相談すれば、適当な文面はいくらでも作ってくれるでしょう)、それを「自動的に」執行されるようにすべきだとか、今までの死刑執行のやり方が「乱数表」だとか変な表現を使うから、人命軽視などと批判されることになるんです。
 出入国管理及び難民認定法の改正については、要するに実際にテロ事件も起こっているので、治安維持のためには指紋などの提供を義務づけることも仕方がないということを言いたかっただけなのに、私の友人の友人がアルカイダにいたなどと変なことを言うから物議を醸すんです。
 司法試験合格者数の問題については、これこそは鳩山法務大臣に本格的に取り組んでもらいたい問題だと思うのですが、その発言内容を読んでいると、状況をよく理解した上で発言しているわけではないようで、結局これも批判の対象になってしまっています。
 アメリカの政治家や企業関係者などが記者会見をするときは、事前に弁護士に相談した上で慎重に言葉を選んで発言しているようですが、日本の政治家もそうした方法を見習っていく必要があるでしょう。