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「スミス・マルクス・ ケインズ よみがえる危機の処方箋」ウルリケ・ヘルマン著 

2023-11-29 18:24:19 | 日記

「スミス・マルクス・ ケインズ よみがえる危機の処方箋」ウルリケ・ヘルマン著 みすず書房

   第8章 確実なのは不確実性だけ ― 『一般理論』(1936)

 この章では、ケインズが1936年に発行した「一般理論」について、その価値を批評している。「一般理論」の、フルタイトルは「雇用、利子、及び貨幣の一般理論」である。「雇用」「利子」「貨幣」を並べることで、貨幣は中立ではなく資本主義で巨大な意味を持つことの解説から始まる。

  一般理論のポイントを確認し、ケインズの提唱した国際清算同盟までを確認する。

  • 貯蓄は美徳ではなく危険行為である。貯蓄口座に移動した途端、生産財への需要が失われる。十分な貨幣量の存在に対し、利子が上がると経済活動の締め付けになる。利子は、社会がどれくらい将来不安を持っているかを測る指標である。利子を心理的指標として視察している。生産ではなく需要への注目である。
  • 貨幣が生み出す経済効果が、貨幣の裏付けである。重要なのは、利子ではなく投機である。投資こそがどれだけ貯蓄がなされるかを決める。投資がなされなければ、貯蓄された資産はその価値を失う。貨幣は交換手段ではなく資産貯蔵庫である。利子を、金融市場で形成される資本利率として定義した。
  • 市場が機能不全に陥れば、国家が介入しなければならないと考えた。不況下に於いては、公的企業の強化を提唱した。富の一極集中は有害であり資本主義の全面的発展を阻止すると捉えた。
  • ケインズは、貨幣の「レッセ・フェール」(自由放任主義)を信頼していない。1941年「ケインズ・プラン」として歴史に刻まれた世界通貨体制を構想した。通貨投機を排除し金本位制に異論を唱えた。国際清算同盟という国際的な中央銀行を構想した。各国はこの銀行に口座を開設して、この口座を介して対外決済をする。清算銀行に債権を持つことで、輸出入の債務・債権が明確になる。決済は、金と交換することを禁じた「パンコール」(人工通貨)で行う。イギリスが中心となりこの体制案を主張したが、アメリカはこの構想に対して、ドルを世界の基軸通貨として固定する案を提示した。1944年、アメリカのブレトン・ウッズで新たな国際通貨への調印が行われた。全ての通貨はドルと結び付けられた。(ブレトン・ウッズ通貨体制)しかし、何度かの金価格の暴騰危機を経て、1971年ニクソン大統領により金とドルとの兌換破棄により、ブレトン・ウッズ通貨体制は過去のものになった。以降、外国為替市場はカオス化し、今日では日々4兆ドルの資金が通貨投機のため地球を回っている。資本主義は金融市場に支配された。グローバルカジノと変身した。 

ヘルマン氏の言う、グローバルカジノ下の金融市場となり半世紀を経ている。日々利益を上げるグルー プもあれば、日々損失を出しているグループもいる。しかし、ケインズの一般理論のポイントは金融市場に大きな足跡を残す。インターネット社会になり、誰でも金融市場への投機が出来る。この市場に対するスタンダードな投資方法のマニュアルもある。歴史に「If」はない。国際清算同盟の是非を議論しても歴史を変えられないが、中国・インドの台頭を含め、金融市場の将来の不確実性は継続する。

 



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