愚公、山を移す

Wilsonです。
人間万事塞翁が馬 人間到る処青山あり

これから「正義」の話しをしよう マイケル・サンデル著                                        第6章 平等をめぐる議論 ジョン・ロールズ

2022-05-30 14:02:06 | 日記

 政治理論は、実践哲学の一形態であり、現在の政治理論の主流的潮流として分析的政治理論がある。
その潮流を振り返り論点を振り返る。ベンサムは、個人主義を前提とする自由市場を擁護して政治理
論である功利主義を提唱した。功利主義の実践性という観点から、J.S.ミルは、現実の規範的判断に
おいて、合理的な正当性を提示できる点を確認し、功利主義を実践的な政治理論とする位置付けをし
た。一方、カントは道徳形而上学原論で、功利主義を批判し人の欲望から道徳原理は導けず、過半数
を取ろうと法律が正しいとは言えないとし、功利主義を認めない立場を取った。しかし、カントの政
治理論は集合的同意という仮想上の契約を語っていなかった。
やがて、その後200年を経過したが、現代の政治理論の主流的潮流を築いたロールズが登場することに
なる。この時代の米国では、リバタリアニズム(自由至上主義)が制約のない市場を支持し、所得や富
の再分配に反対し政府規制に反対する立場を追求した。ロールズは、「正義論」(1971年)で正義の
二原理と呼ばれる政治理論で政治規範を唱えた。①平等な自由原理 ②公正な機会均等原理 ③格差原理
①~③の順を優先とした実践的判断基準を置く規範倫理を定め、あるべき姿を描く政治理論の妥当性の
論証を目指した。
 ロールズの正義論と資本主義の関係をめぐり、福祉資本主義の規範を議論するにあたり福祉国家と福祉
資本主義とは何かを確認すると、福祉国家とは政府が一定の平等主義的な原理に基づき、福祉を市民の
権利として保証する体制であると言える。福祉国家は、資本主義がもたらすリスクへの対策として整備
された。民主主義の進展は、福祉国家の発展に欠くことができない。また、民主主義の拡張は、一定の
福祉を人々の平等として保証するための条件でもある。福祉国家に対する評価は、自由放任主義的な市
場経済を否定し、民主主義的制を介して政治意思による政治的成果とし評価する立場があるが、再分配
的福祉国家は自由市場を歪め、非生産的である批判もある。伝統的な福祉国家は、所得補償制度を整備
したが、社会構造が製造業から知的型経済・サービス産業への移行し、経済格差拡大と社会的排除、リ
スクの個人化をもたらす事になり、社会サービスに重点を置く社会的投資が台頭する事になった。就学
前教育、生涯教育、育児介護サービス等である。ロールズの正義論と福祉資本主義の考察にあたり、生
産財を民主主義⇔非民主主義の軸、私的所有⇔公的所有の軸に分けて考察する事で、財産所有制民主主
義とリベラルな社会主義が正義である事が、ロールズの正義の二原理より導かれる。
 ロールズの正義論の登場以降、実践的な規範原理の内容や正当性をめぐり反論が続いている。しかし、
政治理論に関して、ロールズが果たした役割は大きい。サンデル教授は、この章の最後で、「ロールズの
正義論はアメリカの政治哲学がまだ生み出していない、より平等な社会を実現するための説得ある主張を
提示している。」と評価している。
 実践的な課題を考慮する時、問題を意識しそれを解決していく思考規範の是非を問う議論は続く。

                                                                 *参考文献 現実と向き合う政治理論 山岡龍一・大澤津 著