これからの「正義」の話しをしよう マイケル・サンデル著
第9章 たがいに負うものは何か?―忠誠のジレンマ
『ドイツに180兆円賠償請求へ=ポーランド、大戦中の被害で』(2022年9月1日EPA時事) この記事が目に留まった。内容は以下の通りです。
ポーランドの右派与党「法と正義」のカチンスキ党首は、第2次大戦中に同国がナチス・ドイツから受けた損害が6兆2000億ズロチ(約180兆円)に上るとする算定結果を公表し、ドイツに対し正式に賠償を請求する方針を表明した。カチンスキ党首は「ドイツが1939年から1945年にポーランドで行ったすべて」について、賠償を求めると強調した。ドイツは賠償問題が「政治的、法的に解決済み」との姿勢で交渉は難航が予想される。ドイツの戦後処理は東西に分断していたこともあり、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)被害者など個人への補償が中心で、対国家の賠償は不十分とも指摘されてきた。最大被害国の一つポーランドでも不満が根強く、反ドイツ的な「法と正義」の政権は賠償請求を検討してきた。ポーランドは大戦中、総人口の約2割に当たる600万人が犠牲となり、首都ワルシャワも徹底的に破壊された。しかし、社会主義体制下の1953年に旧東ドイツへの賠償を放棄している。
「第9章 たがいに負うものは何か?―忠誠のジレンマ」では、サンデル教授によると、「謝罪と補償」の項目で、「ドイツは、(第2次世界大戦後)、ホロコーストの賠償金何十億ドルを生存者とイスラエルに支払い謝罪している。日本は、慰安婦への公式謝罪を1990年代に民間の基金よって被害者に支払い、日本の指導者もある程度の謝罪を行ったが、2007年安倍総理による慰安婦の強制連行の責任は日本軍にはないとの発言に対し、アメリカの連邦議会は、日本政府は慰安婦の奴隷化への日本軍関与を日本が認め謝罪することを求める決議をした。」と記載している。同様に、オーストラリア政府のアボロジニーズに対する謝罪の問題、アメリカでの第2次世界大戦時、日系アメリカ人に対する強制収容に対する謝罪と賠償金(生存者に2万ドル支払い)について、また、ハワイ王国を滅ぼしたことに対する謝罪も記載している。更に、南北戦争まで遡り議論を続けている。いずれも、結論が先送りされ世代を超え議論が続く問題である。
サンデル教授は、正義について、この章で二つの考え方のおさらいをしている。
- カントとロールズは、正しさは善に優先するしているとの事。善とは、社会が割り当てる地位、名誉、権利、機会であり、善良な生活をめぐって対立する構想の全てに中立でなくてはいけないとしている。
- アリストテレスは、正しい国政の目的の一つは、善い国民を育成し良い人格を培うことにあると主張している。
正義を判断する時、善について論じることの可能性が議論されている。まさに、この章のタイトル「たがいに負うものは何か?―忠誠のジレンマ」である。
サンデル教授が記載した、戦中の慰安婦の強制連行に対する日本政府への対応については、アメリカ人が考える歴史認識、日本政府が主張する見解と異なる。日本・韓国・米国は違った認識をしている。善について論じていても収拾がつかない問題である。日韓問題は結論がないまま、韓国は反日・日本批判を繰り返えし、日本はその主張を受け入れないのであろう。ポーランドがドイツに対し正式に賠償を請求する方針は、中国、韓国、その他、日本が侵略した国も、日本の国力が低下して来ると、日本に同様の主張をして来ることも想定される。余談になるが、日本人であることで尊敬されることは、国外に出ると、例外もあるが、少ない。アリストテレスの言う、正しい国政の目的の一つは、善い国民を育成し良い人格を培うことにあることには、共感する。