スミス・マルクス・ケインズ よみがえる危機の処方箋
ウルリケ・ヘルマン著
第2章 経済学を発見した哲学者-アダム・スミス
アダム・スミスは、偉大な経済理論化といわれるが、経済学が自立した学問分野でなかった時代、自らを哲学者と考えていた。イギリスの産業革命は、1760年代から1830年代までという比較的長い期間にわたって漸進的に進行したといわれる。この新たな時代は、新たな理論を必要としていた。その最初の偉大な構想を提示したのがアダム・スミスであった。その生涯で、1759年道徳感情論、1776年国富論を完成させた。
アダム・スミスは、1723年スコットランドのカーコーディで生まれた。父親の遺産により裕福な少年時代を過ごす。14歳の時、グラスゴー大学に入学。17歳の時、オックスフォード大学ベイリオル・カレッジで哲学を学ぶ。この時はスネル奨学金が支給されている。23歳の時、スコットランドのカーコーディに戻る。オックスフォードでの滞在がスコットランド訛りを消し去ることもあり、講演活動で収入を得ることになる。1751年28歳の時、グラスゴー大学の論理学と形而上学の教授に招聘される。
1759年36歳の時、道徳感情論を発表。1766年45歳の時、年金生活者となり著作活動に専念し、1776年55歳の時、国富論を発表する。1778年スコットランド関税官に任命され、その後、著作活動に専念していない。1790年67歳で去る。
イギリスの産業革命は、1760年代~1830年代まで長期にわたり進行した。産業革命の直前に、道徳感情論が出版され、産業革命の初期に国富論が出版されている。スミスは、カーコーディでの地域社会観察から、グラスゴーの経済環境の研究・有力商人との交流等や、その実務的才能からグラスゴー大学では大学理事会の簿記改善・建造物の改修・先端的書物の購入等、ジェームズ・ワットのための工房を大学内に新設する等、蒸気機関研究にも貢献している。経歴を改めて知ることで、分業論、労働者と資本家の関係等、時代を生きた学者の姿が見えて来る。