愚公、山を移す

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「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか ナンシー・フレイザー著 -ちくま新書-

2024-10-06 12:43:59 | 日記

「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか」

       ナンシー・フレイザー著 -ちくま新書-

 ・第6章 思考の糧  ―  二十一世紀社会主義はどんな意味を持つか 

 ・終章 マクロファージ   ―  共食い資本主義の乱痴気騒ぎ

 

6章 思考の糧 社会主義の復活

 資本主義を制度化された社会秩序と捉え直し、資本主義経済の成立を可能にする4つの非経済的条件を本書で明らかにした。

  • 被征服民や人種差別される人々から搾取した巨大な富。
  • 社会的再生産に費やされる無償もしくは、低賃金の膨大な量の労働。の労働の担い手は殆どが女性である。
  • 自然から収奪する無料ないし安価な投入物。資本主義の土台となる不可欠な物質である。
  • 国家や公的権力が提供するさまざまの公共財。法秩序、反乱鎮圧力、インフラ、マネーサプライ、システムの危機に対応するメカニズム等である。

 資本主義とは経済ではなく社会のタイプであるとフレイザー氏は言う。その資本主義に対し3つの批判を挙げる。第一に資本主義に組み込まれた 資産を持たない自由な労働者階級を資本が搾取する不正義、第二に経済危機の傾向があるという不条理、第三に資本主義に深く根付いた本質的に非民主的な社会的不平等・不自由である。更に、この批判は本質的に非経済的な不正義、不条理、不自由を見落としていることを主張する。

 経済的生産と社会的再生産の分離の問題、即ち経済的生産は男性の労働、社会的再生産は女性の労働として扱われる。更に、資本主義社会は自由な労働者と従属する他者を構造的に分離する。自由な労働者は労働力を引き換えに再生産費用を受け取るが、従属する他者は肉体・土地を強引に奪われる。構造的不正義が固定されている。そして、生態学的危機と社会的再生産の危機を引き起こす。巨大企業は地元の公的権力をものともせず、グローバル金融は国家の規律を支配する。

 資本主義は生産を再生産から、搾取を収奪から、経済を政治から、人間社会を自然から切り離した。社会主義者は、資本主義のゼロサム・ゲームの傾向を克服すべきである。そして、現在の資本主義の優先順位を入れ替えなければならない。資本主義社会の優先順位は、貯蓄を目的とする商品生産が市場命令であり、社会的、政治的、生態学的再生産は至上命令ではない。社会主義者はこれを正しく入れ替えるべきである。教育、自然保護、民主的自治を社会の優先順位とすべきである。21世紀の社会主義は制度設計のプロセスを民主主義化すべきである。

 余剰をめぐる決定に関しても、資本主義システムは所有者(企業)に再投資を強制する。社会主義では余剰は民主的に再分配しなければならない。資本主義に組み込まれた成長という至上命令を非制度化する必要があるのである。

 克服すべき課題として、社会主義の長所の一つは経済であること。二つ目の長所は社会主義は現在の様々な問題、社会的再生産、構造的人種差別、帝国主義、脱民主化、地球温暖化と深い関係にあること。三つ目の長所は、制度の境界、社会的余剰、市場の役割等に新たな光を投げかけられることである。資本主義システムに変わる選択肢として、社会主義プロジェクトはその代替を行わなければならない。

 

終章 マクロファージ

 新型コロナウィルス感染症によるパンデミックが発生した。社会的再生産労働は女性に押し付けられ、資本主義社会に組み込まれた人種的・帝国主義的略奪は現代の危機のあらゆる面に及ぶ。多くの国家では、人種差別を受ける人々は貧困と粗末な医療で命を落とす割合が圧倒的に高い。米国でも肌の色による人種差別は、コロナ禍のエッセンシャルワーカー、ギガワークで働く人々等、低賃金で組合もなく給付金や労働保護もなない。新型コロナウイルス感染症は、資本主義における不正義と不条理が爆発的に吹き出した。

 資本主義という野獣をどうやって飢えさせるのか。共食い資本主義をどうやって葬り去るのか。方法を考え直す時期が来たと結ぶ。

 

*この著作の主文はコロナ禍以前に記述されている。その後、加速するAI革命、中国・インド等を始めとした新興勢力の台頭、度重なる中東危機、ロシアの動向、米国を中心とした巨大企業のグローバル化等々、目まぐるしく世界情勢は動く。

 

 

 



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