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歌劇「ポントの王ミトリダーテ」を観る

2023年06月17日 | オペラ・バレエ

テレビで放映していた歌劇「ポントの王ミトリダーテ」(全3幕) を録画して観た。

これはモーツアルト作曲のオペラ・セリアである。オペラ・セリアとは神話や伝説を題材にしたオペラのこと。 

テレビの説明では「かつて黒海沿岸に実在したポントス王国に紀元前1-2世紀に在位した国王ミトリダデス6世は共和制ローマとたびたび交戦した。この国王を題材にして17世紀のフランスの劇作家ラシーヌが、王と2人の息子が1人の女性を同時に愛する、という虚構の設定に基づく悲劇「ミトリダート」を書いた。これがオペラの原作となった」とのこと。

この原作をベースに作曲したのは当時14才のモーツアルトである。14才でこの題材が理解できるか疑問だが、周りからの数々の妨害に関わらず完成させて上演に成功したという。そしてこの作品はモーツアルト親子の第1回目のイタリア遠征時に完成させたもの。当時のオペラの本場イタリアで成功した。イタリア語も堪能であったらしい、そうでないと歌詞に合った音楽などできず、当時作曲家よりも力の強かった歌手たちからダメだしを受けただろう。

初めて観るオペラだったが、感想を述べてみよう

  • 予習はしたが、初めてのオペラをいきなり理解することは無理だった、ただ、良いとも悪いとも思わなかった。シーファレ(王の次男)は女性のアンジェラ・ブラウアーという歌手が務めていたが、なぜ女性でないといけないのかわからなかった(これは作品に体する私の不勉強のためであろう)。あまり上演されることがないオペラだと思うが、今後も機会があれば観ていきたい。
  • 演奏時間は2時間半くらいで長い方ではないが、ところどころ同じせりふが繰り返され、冗長と感じるところがあった。

演出が日本人の宮城聰さん(1959年、東京生まれ)というのが驚いた、日本人がオペラの本場で重要な役割を担っているというのは誇らしいものだ。宮城さんのインタビューで、彼の考えが伝わってよかった。宮城さんの演出に関することでいくつか述べよう。

  • 宮城さんは、当初台本を見たとき、結末が絶望的なものに思えてどうしようかと考えたが、「戦いの後、復讐の連鎖にならなかった例もあるのではと思い、それは先の大戦後の日本だ、それは鎮魂という考え方があったからで、このオペラの結末に鎮魂を付け加えれば、お客さんに復讐の連鎖に入らないという希望を与えられる」と述べている。
  • そこでフィナーレを注目して観たが、王が戦いの後、死に追いやられ、残されたものたちが王の死を悼み、復讐を誓い突然幕が下りている。せりふを観ても、横暴なローマから自由を勝ち取るために戦うのだ、となっており、今のウクライナと同じように思える。宮城氏の鎮魂はどこに現れていたのだろうか、私には理解できなかった(多分理解不足だと思うが)。元々、このオペラは絶望的な終わり方ではないと思うが。戦いに敗れた王が最後に息子たちを許し、ローマへの復讐を誓うというもので希望がある。
  • このオペラの演出は、日本の歌舞伎(時代物)を意識したものとなっている、これはオペラセリアと歌舞伎に共通点があると考えてのことだ。王や息子たちが着ている鎧兜、持っている刀、背景の富士山や竹林、着物らしい服を着ている他の出演者、舞台上のテクニックなど、歌舞伎を十分意識した演出になっていた。日本人としては大変楽しめたが、現地の観客はどう感じただろうか。
  • さて、インタビューの最後で宮城さんは、「世界は力によって相手を黙らせるようになってきた、日本もその影響を受けて鎮魂によって復讐の連鎖を終わらせようという方向よりも、むしろ、面倒くさいからもっと力を付けようみたいなそういう方向になっていると思う。ワーってなっている時に「でもさあ」という人がちょっといる、それによって随分多くの人が立ち止まってくれるのでは、と思っている」と述べているのは感心しない。日本もその影響を受け・・・と思う、の部分は日本ではなく日本周辺の全体主義国家の言い間違えでしょうし、この部分は言わないでも良いことでしょう。

<出演>    

ミトリダーテ(ポント王):ペネ・パティ(27、サモア)
アスパージア(王の婚約者):アナ・マリア・ラービン(42)
シーファレ(王の次男):アンジェラ・ブラウアー(39、米、メゾ・ソプラノ)
ファルナーチェ(王の長男):ポール・アントワーヌ・ベノ・ジャン
イズメーネ(ファルナーチェの婚約者):サラ・アリスティドウ(キプロス、ソプラノ)
マルツイオ(ローマ護民官):サイ・ラティア
アルバーテ(ニンファイオンの領主):アドリアーナ・ビニャーニ・レスカ

音楽:モーツァルト    
演出:宮城 聰
管弦楽:レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル    
指揮:マルク・ミンコフスキ
収録:2022年12月9・11日 ベルリン国立歌劇場(ドイツ)

 



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