美意識を磨く 文田聖二の『アート思考』

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「アートは仕事と無関係」ですか?

2020年01月13日 13時15分45秒 | 日記
「アートは仕事と無関係」ですか?


アートは「非日常的なもので、何だか分からないもの」と思い込んでいませんか。美術館や画集で世界的なアートを鑑賞してもよく分からないのは、絵心や感性、才能の有無の問題ではありません。言葉や歴史・文化が違う異国の書籍や映画を翻訳や字幕なしに眺めているようなものなのです。中国春秋時代の軍事思想家 孫武の兵法書『孫子』に記されている「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず。」を読み解けば良く理解できます。アートには、それぞれ制作された成り立ちや題材の意図、技法の発展、画材の発明、作家の師弟関係やライバル、パトロンなど作者に影響を与えた人々など環境や社会背景の違いがあります。その時代のサイエンスとも共鳴し合ってきたアートは、文化的な生活習慣のあるすべての人に関係しているのです。アート作品や作家のエピソードは、その国の歴史や文化を理解すれば異なる文化圏の人々の心にも響くはずです。



 ヒトの祖先が絵を描きはじめてから現代まで4万年ほどのアート ヒストリーがあります。アートの歴史はヒトの進化の歴史ともいえます。美術館や学校など限られた空間だけでアートを意識して鑑賞したり学んだりしている数百年間は、4万年のアート ヒストリーの中では、ほんの一瞬の出来事です。古代では木の実などの樹液や土、血液などを混ぜて作った絵具と木の枝や動物の毛を画材として使い、中世ではモザイク画やフレスコ画などの技法が開発され、ルネサンス期以降、絵画技法の発展や油絵が発明されてから現代まで、社会の変化に伴って絵画様式もその役割も変わっていきました。このようなアートとサイエンスの発展によって、ヒトや社会の進化が促進されたともいえるのです。



「脳内革命」によりホモ・サピエンスが生き残り、さらに「科学革命」によって地球上にヒトだけではなく、ヒトが必要とする動物(家畜やペット)や植物(農産物)が爆発的に増えていきました。世界的大ベストセラー『サピエンス全史』では「脳内革命」によってヒトが劇的に進化したことが記されていますが、これは火を発見したことや道具を発明し使うことで、食事などの習慣が変わり、他の動物とは違った生活をしているから脳が発達したということだけではありません。他にも存在していたヒトの種族の中で、私たちの祖先である「ホモ・サピエンス」が唯一生き残ったのは”虚構“する能力が生まれ、それこそが一気に脳内革命を引き起こしたということです。ヒトという種族が氷河期など激変する環境を乗り越えて生き残るためには、家族単位ではなく”群れ、集団“として大勢で助け合いながら生活していく必要があったのです。組織として良くまとまって生きていくためには、共通した目標や考え方(ルール)が必要となりますが、そのためには大勢が共感するストーリー(虚構)が不可欠だったのです。私たちの祖先は、過酷な自然環境や天敵などから身を守ってきた経験によって知識が蓄積され知恵が生まれ、先人や賢者が危険を事前に回避して生き残る方法(物語、神話や宗教)を仲間や子孫に伝えるようになったのです。そんな「虚構」こそが、他のヒトの種族や動物たちとは全く違った脳内革命を起こし劇的に脳を覚醒させていったのです。情報の発信機能はどんな生き物にもありますが、その情報を伝える相手がいることで「表現」となります。伝えたい”虚構(フィクション)“をものとして作り、絵に描き残した表現が「アート」のはじまりとも考えられます。





何か才能や技術がないと創作、表現をすることが出来ないと勘違いをしている方がたくさんいます。絵にしても小説にしても勉強、仕事や遊びにしても大切なのは才能や能力の有無ではなく突き動かす衝動(虚構、仮説)であり、その衝動を誰かに伝えたいという欲求があるということです。だから時代を超えて多くの人に支持され残っているアート作品からは、作者の生き様や”強い想い”が浮き彫りになってみえてきます。そんな独特な衝動と欲求(表現)を読み解いていくと作品制作の意図や魅力に気づき、閉塞感から解放され、自身のモヤモヤしていた気持ちが晴れてバージョンアップすることができるのです。だからアートを理解できると気持ちが良く、リフレッシュして失くしてしまった自信や元気が出てくるのです。



 作家自身と創造したアート作品は「気質、習慣、思いの強さ、誰かの支え、出会い、環境、…」とさまざまな境遇(組み合わされた条件)の違いによって異なる魅力や特徴、それぞれが唯一無二のものとして構築されたといえます。アーティストは十人十色で、それぞれが違った生き方をしています。それだけ生き方にはたくさんの選択肢があるということです。



 幕末志士の坂本龍馬が『人の世に道は一つということはない。道は百も千も万もある。』と語っていたように誰でもそれぞれ自分が選んだ表現(仕事)を磨いていけばいいのです。

ドイツ出身のユダヤ人哲学者、思想家であるハンナ・アーレント(マルティン・ハイデッガーの元恋人)は、食べていくためにやることが「労働」、クリエイティブな自己表現が「仕事」、公共のためにやることが「活動」だと考えました。
その人の余暇の過ごし方が、余生の過ごし方になり、自分で考えて選んだ生き方が「人生」になっていくのです。あなたにとって「アートは仕事と無関係」だと言えますか。


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