日本では 鎌倉時代。 北九州の博多の反物商人を父に持つ太郎は七歳。 二歳の頃に母を亡
くしたが、乳母や番頭たちに大切に育てられてきた。 ある時、日本の政(まつりごと)には、中国
の進んだ焼き物が必要だと考えた父の意思により、商いを閉じて、太郎と父は中国へ渡る。
「反物より、器だ。」
中国は、宋の時代。 太郎は八つになっていた。訪ねたのは、素晴しい焼き物で有名な「龍泉」。
圧倒的な大きさで厳粛な空気を放つ登り窯は、あたかも龍のようだった。
中国でつけられた息子の名前は「希龍」。
「おまえの名前はきょうから希龍だ。おれの希(ねが)いが龍になった」
そこから始まる希龍の人生は、歴史とともに歩み、たいへん過酷なものです。 宋から元に移行す
る戦いもあります。 人の裏切りを感じることも、意のままにならない人生を送る友を受入もします。
しかしながら、出逢う人々の温かさ・強さに負けないくらいに、希龍の力強く焼き物に懸ける気持ち
が清清しく潔く、気持ちのいいものでした。
父親の消息や、我が子のようにかわいがった由育(ゆいく)の最期など、もう少し知りたくなる程度の
語り(若干の物足りなさ)ゆえに、希龍自身がひとりで切り開く人生を中心で感じることが出来、そこ
ここに散りばめられた力強い考え方や格言のように美しく素晴しい言葉に、心の底から突き動かされ
る思いでした。 スケールが大きく、たいへん読み応えがありました。