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(怪文書集)「本篇編纂ニ就テ」 (1936.3)

2021年01月25日 | 二・二六事件 2 怪文書

 

絶対門外不出

 本篇編纂ニ就テ
 “ 肅軍ニ関スル意見書  ”    村中大尉、磯部主計
 第二 “ 肅軍ニ関スル意見書  ”    村中大尉
 “ 肅軍問題ノ經緯  ”         統制派ノ文書
 軍閥、重臣閥ノ大逆不逞

 本篇編纂ニ就テ

 一、昭和維新の春の空
     正義に結ぶ丈夫が
   胸裡百万兵足りて
     散るや万朶の櫻花
 二、功名何ぞ夢の跡
     消へざるものは唯誠
   また世の意気に感じては
     成否を誰かあげつらん

昭和十一年二月ニ十六日、暁の夢を破って聞かれた昭和維新断行の歌は “ 尊皇討奸隊 ” 一千五百の將兵によって高唱された国体顕現への蹶起の叫びであった、輦轂の下、遂に戒厳令が施行され、 “ 尊皇討奸隊 ” の蹶起もその雄図空しく、中途に於て抗勅の汚名を冠せられ、戒厳司令官の強硬處置によって事態は漸やく平静に帰するを得た、斯くて未曽有の不祥事変後に於ける重大時局収拾の大任を負って組閣した広田内閣は政治、経済、社会の全面的国策刷新の決意を示した政綱、政策を発表し、今やこれが実現に向って邁進しつ〃ある、即ち “ 尊皇討奸隊 ” の蹶起を楔機として、政治、経済機構、社会政策等には今後逐次改革刷新が行はるヽ、とは瞭であり、その推進力は、広田内閣成立の経緯に徴しても判然たる如く、軍部に原動力があることは云ふまでもない、從って皇軍内動向の眞諦を掴むことなくしては、現下の重大時局に対する認識及び今後に対する見透しも不可能であらう、のみならず未曽有の不祥事変たる “ 尊皇討奸隊 ” の蹶起を理解し、その眞相を把握することは勿論困難である、本篇の編纂は云ふまでもなく、そのための最も貴重な資料であることを信ずる。
肅軍に関する意見書  ”は非常時皇軍振 のさなかに発表されたもので、その大膽な筆調は挙世愕然たらしめ、然も軍部内を完膚なきまでに解剖せる最も貴重な文献である、頒布僅少にして入手困難なため一部五十円と評価され、事実それ以上の価格で売買されてゐたが、現在では数百金を投ずるも尚入手殆んど不可能な有様である。
“ 肅軍の経緯  ”は“ 肅軍に関する意見書  ”及び “ 第二肅軍に関する意見書  ”の対立的関係の側からの反駁的な文書で、軍部内の極一部にのみ頒布されたものである。
皇軍内の党同異閥に関する文書は、右三篇の外十数種も見受けられるが、それ等は極めて一方的で、然も軍に嬌激であると云ふに過ぎない。尤も昭和十年十月末刊行された山科敏著 “ 皇軍一体論  ”等があり、即時発禁となったが、本篇からは省畧することゝした、その代り、永田中將遭難当時陸軍省発表にかヽる相澤中佐の “ 巷説妄信に基く行為  ”云々の謂ゆる “ 巷説 ”とは、昭和十年七月ニ十五日頒布された、“ 軍閥、重臣閥の大逆不逞 ”の文書を意味するものだと云はれてゐるので、本篇中に輯採した。
尚ほ一言附け加へて置かねばならぬことは、 “ 肅軍に関する意見書  ” の執筆者村中孝次大尉及磯部浅一一等主計は、この故を以って昭和十年八月剥官されたのみならず、十一月位階返上を命ぜられたものである、然も今次の “ 尊皇討奸隊  ”蹶起事件に於ても重要な役割を演じて居る、更に同文書中附錄第五 “ 所謂十月事件に関する手記  ”の執筆者✕✕少佐とは、前陸軍省調査員現歩兵第三十九聯隊附田中少佐と云はれて居る、また “ 肅軍の経緯  ”は現中央部幕僚と取沙汰され、執筆者の氏名は詳かにするを得ない。
昨年十月上旬謂ゆる統制派より行動派(荒木、眞崎系)に対し、 “ 対外問題  ”に就ての協議が申込まれ、之は取も直さず統制派対行動派の妥協工作の前提として尠からず注目されたが、其後何等の変化ある事態の展開を見られず、遂に今次 “ 尊皇討奸隊  ”の蹶起事件となった、昨年七月十六日眞崎教育総監の後退を楔機に、総退場を予想された皇道派は、統制派総帥永田中將の遭難により林大將の陸相辞任、川島大將の登場によって情勢は急転し、皇道派は再進出を見つゝ今次の事変では、眞崎、荒木の予備役編入となって皇道派巨頭総退却の急転回を余儀なくされた、尤も統制派としても阿部、林も同様現役を退き巨頭たる南大將の予備役編入となった。陸相寺内大將を始め現役大將として残ってゐる西教育総監、植田関東軍司令官は統制派の系統ー本庄侍從武官長は皇道派系統ーを引くものであるが、 “ 尊皇討奸隊 ”蹶起事変、広田内閣の組閣経緯等によって著しく一体化しつゝあることが観取される、然も国策刷新の上に現はれつゝある一体化はまた既に発表された政綱政策の具体的内容にも及ぼすものであるが、今後の動向はそれだけに最も注目すべきものがある。
之れを要するに現下の情勢は文字通りの重大時局にあり、此の際国家の消長に心を致す同憂の士に、時局認識の資料として頒たんと思ひ、茲に本篇を編纂復製した。

  昭和十一年三月



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