蔵書目録

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『国家革新運動に於ける二大潮流』 (1935)

2024年04月21日 | 二・二六事件 2 怪文書

     

 国家革新運動に於ける二大潮流

  フアツシヨ派と国体原理派

 問 現下日本に於ける革新運動は如何なる潮流をなしてゐますか。
 答 大別すれば二大潮流がありませう。其の一つは所謂フアツシヨ派で他の一つは国体原理派です。
 問 其の所謂フアツシヨ派と>国体原理派とは何処が違ひますか。
   又軍部内にも二つの流れが在るとのことですがその通りですか。

  軍部内は何うか

 答 二大潮流に就いての差異は後から申上げますが、先づ軍部々々と云ふ声ですが、軍部と雖も現実社会の一部門である以上一般社会に於ける各種の動向を反映することも又当然でせう。

  両派の差異点如何

 問 それは兎に角として前に話された二大潮流の差異点を説明して頂きたい。

  改革意識の出発点は何う異るか

 答 先づ改革意識の出発点より話しませう。
   フアツシヨ派の人々は単に現実政治経済社会等の機構の矛盾欠陥に対する認識より之が改革へと出発する。
   国体原理派の人々は現実の政治、経済、社会等機構百般即ち国家社会全機構の欠陥矛盾は実に国体原理の歪曲より来たるものと認識する事より之が国体原理性革新へと出発するのです。

  変革部門決定上の差異

 問 では変革部門決定上の差異はありませんか。
 答 いや、大いにありす。
   先づフアツシヨ派の人々は経済第一主義より目的としての統制経済の樹立を以て主眼となし他の諸部門に至つては経済部門さへ立ち直れば自ら附随的に立ち直ると云ふ風に説いてゐます。
   国体原理派の人々に在つては経済部門固より重要なりとはしてゐますが、内外百般の歪曲されたる機構を根本的に変換すること、換言すれば我が日本の特異性たる国体原理の高調発揮に依る政治、経済、社会、思想、教育等百般の機構の歪曲面に根本的変革を主張してゐるやうです。そして経済部門に於ても国体原理の本質を発揮すれば必然に十全理想的なる経済形態が生れるものとしてゐます。結果としての統制経済が是です。

  日本の特異性の認識

 問 我が国家社会の特異性と云ふ事を言はれましたが、それではフアツシヨ派と国体原理派とはそれを各々どう云ふ風に説いてゐますか。
 答 フアツシヨ派に於ては『建国の本義に基づき』等を云つてはゐるもの、頗る物足らぬものがあります。随つて欧米の寄合所帯国家我が一大家族体国家との特異点の認識がはつきりしてゐません。
   国体原理派に於ては、先づ我が民族の生成発展の特異性を強調してゐます。

  我が特異性の第一 

 問 それはどう云ふ風に説かれてゐますか。
 答 先づ我民族は同胤一裔の敷島民族を核心として軌範的に生成発展し来たつた民族であると説くのです。そして皇国日本は此の民族の固有せる民族意識と信仰とを以て護持し経営し発展し拡充し来たれる『一大家族体国家』であつてかの欧米のそれの如き『寄合世帯国家』とは似ても似つかぬ優秀なるものと認めてゐます。

  国体原理とは如何 〔下の問と答は、前の箇所に新しく紙が貼られて次の文がある〕

 問 国体原理とは一言にして言へば同う云ふことですか。
 答 我が国は此の『一大家族体』の大父に在します所の 上御一人=全体たる 陛下と、全体たる 陛下に含まるゝ部分としての赤字にして臣民たる下万民との一元的構成する所の国柄であります。一元の位置に基く御統治者としての、家族体皇国日本の全体たる 天皇は 皇祖皇宗に対する御まつろひ(随順)の大御心を以て其儘万民をみそなはせらるゝので祭即政、祭政一本であります。又万民は全体たる 陛下に含まるゝ其の部分として全体たる 陛下に只管まつろひ(随順)協翼し奉るのであります。かくて全体は部分を、部分は全体を相互牽引求心して以て『君民体を一にす』る、是れ我が万邦無比の皇国体の精華でありまして天壤と
倶に無窮であります而して斯の天壊無窮の国体は全体=(上御一人)の絶対部分=(下万民)の平等=(上=全体、絶対なるが故に、=部分が平等である)の根本義の上に立ちて彌々明徴充実さるゝのであります。此の根本義即ち『上御一人=全体の絶対と下万民=部分の平等』これこそ千古不磨の我が『国体原理』であります。

  現機構の反国体原理性とは 

 問 然らば現機構の歪曲されてゐると云ふのは、
 答 今云つた国体原理の上から見て例へば政党財閥の如きは下万民の平等を蹂躙してゐる、(陛下の赤子は自殺のみ可能である)是れ即ち上の絶対を冐し奉つてゐるのであります、最大兇逆です。即ち政党組閣制度、個人搾取資本制経済が国体原理に反すると云ふのです、現在の矛盾欠陥万悪盡く此の国体原理の歪曲の結果であるとなすのです。
   即ち九千万各々其の処を得て皇運を扶翼し此の国体を充実し世界に対し指導的地位を確立すべき使命国日本であるに拘らず内外盡く難局に在ると云ふのは要するに国体原理にもとる現在の歪曲覇道機構の結果であるとなすのです。

  国民生活苦を何う見る 

 問 両派の国民生活苦に対する見方は同う異つてゐますか。
 答 フアツシヨ派の人々は単に経済機構に矛盾があり欠陥があるから国民生活苦がある、即ち資本主義経済から統制経済に移行すれば国民生活苦は救はれるとなすのです。(金融資本高度制覇としての統制経済)〔※この()の箇所は、貼り紙〕
   国体原理派
   陛下の赤子が一人として其の処を得ず飢寒にさらされると云ふことはまことにあるべからざることである。「天下億兆于一人も其の処を得ざるは朕の罪」とまで仰せらるゝ大御心に対し奉て真に申訳がない、然らば何故に此状態農山漁村中小商工業者の生活苦が生れたかと云ふにそれは我が一大家族体皇道日本に本来在るべからざる外来の覇道経済機構を移入したからである、つまり明治維新の不徹底なりし結果で換言すれば国体原理に背反する機構を移植したからである、故に国民生活苦を救ふには一我が一大家族体皇道日本の国体原理性経済機構の本来の姿に復しなければならぬ、国体原理性経済機構の確立さるゝ暁には一人半人の飢民も在り得ない。と説くのです。

  国防観の差異は

 問 両派の国防観の差異は何処にありますか。
 答 両派とも現国防を以てしては不十分となす点は同じですが国防強化の為には政治、経済、思想、教育、宗教等の国家的一元的運営をなすべきで特に経済機構を変革すべきであると説いてゐます、世上所謂国防の鬼面を以て変革を強行せんとする国家社会主義者こそフアツシヨであると云ふのも無理からぬ処です。国体原理派にあつては国防の不充分は要するに国家全面が非国体原理性に歪曲され覇道の支配下に在るから不完全である、之を強化完備せんとすれば其の一大家族体の優秀本質の発揮即ち国体原理性復を必須とする、平易に云へば忠孝一本の特異性を十分発揮し得る如くせねばならぬ其の結果として政治も経済も教育も思想も外交も宗教も文芸等も万般のこと皆国体原理性に自ら一元的に運営せざるを得ない、是れ真の国防強化であると認めてゐます。

  国防完備と国民生活苦との関係

 問 国防と国民生活苦とに対する両派の見方は同う異ひますか。
 答 フアツシヨ派に於ては国防の完備と国民生活苦とを二元的に考へてゐる、其れは其の日常の運動に於ける実践を見れば明瞭に分る。百歩を譲るとしても国防の完備の為めには銃後の国民生活苦も捨てゝは置けぬ位の程度でせう。国体原理派に於ては国防の不全も国民生活苦も共に其の根因となす。国防の完備と国民生活苦の救済とは一にして二ならず、表より見れば国防の完備であり裏より見れば国民生活苦の救済である、即ち現在の覇道歪曲の日本を其の本来の一大家族体皇道日本の国体原理性本質に復固すれば国防も自ら完備せざるを得ないし国民生活苦も自ら救済せられざるを得ないと認めるのです。換言すれば国防の完備を期するには国民生活苦を徹底的に救済せねばならぬ、国民生活苦を徹底的に救済せんが為には対内外に亘る国体原理性根本改革を必至せざるを得ない、故に生活苦大衆に其の苦吟のドン底より国防の充実完備を絶叫せよと主張するのです。
 問 成る程フアツシヨ派の単なる矛盾欠陥の認識では不十分であることが分りました、で次には両派の政権に対する態度は同うですか。

  政権に対する態度は何う異るか 

 答 フアツシヨ派の人々は目的としての政権獲得を企図し一党独裁の形態を所期してゐます、国民大衆運動を叫んではゐますが是は作戦上の方便であつて即ち政権獲得独裁樹立の為大衆を方便に供してゐると云ふ訳です。此点がかの五・一五事件に於ける三上海軍中尉等により強烈に攻撃された事です。国体原理派に在りては目的としての政権獲得を極度に排し結果としての御親任垂下により 御親裁奉行に事欠かぬ様準備してゐるのです。一党独裁も排します、要は九千万大和して尊王協翼の本心の上に 御親政を扶翼し奉るに在りとなすのです。

  倫理観の差異は如何 

 問 倫理観の差異は何うです。
 答 フアツシヨ派に於ては何うしても俺が俺等がの意識が強烈とならざるを得ない、兎も角政権を獲らねば変革は出来ぬと考へてゐる。
   国体原理派は尊皇絶対、皇運扶翼を根本とする故に俺が俺等がの意識を極度に忌みます、政策の如きも尊皇絶対皇運扶翼の倫理性を以て貫通せるものでなくてはならぬと主張し、楠公、和気公の心根を以て勇往邁進すべきであると強調してゐます。

  対議会観の差異は

 問 両派の対議会観は同う異りますか。
 答 フアツシヨ派は固より独裁を主とする故議会はいらぬ然し方便として之を必要とし傀儡的に認めやうと云ふのです、例へば伊太利、独逸、ロシヤに於けるが如くに、
   国体原理派は議会を必ずなくてはならぬものと認めてゐます、が然し現在の如き欧米流の議会至上の覇道形態を忌み真の神集ひ神議り的議会の設立を絶対必要と認めてゐます。

  政党財閥に対する態度

 問 政党財閥に対する態度は
 答 フアツシヨ派の打倒政党、打倒財閥は要するに政権奪取の為に唱へてゐるに過ぎぬ、随つて政権さへ呉れるなら政党とも財閥とも妥協して行かう、つまり公武合体的の意図があります。
   国体原理派に於ては覇道機構即ち反国体原理機構の所産としての政党財閥に対しては之が徹底的反省解消を以て皇運扶翼即ち国体原理性皇道日本の建設に貢献する様要請するのです、而して覇道悪としての政党、財閥とは決して妥協はしません、一大家族体国家の本質に於て考へて御覧なさい、党派や財閥は存在すべからざるものではありませんか。

  フアツシヨは民主暴力革命の第一階梯か

 問 フアツシヨには下剋上の傾向がある、フアツシヨ政権の次は共産党独裁政権の出現だと云ふ人がありますがその点は何うですか。
 答 経済第一大衆動員方便本位ですから勢ひ下からの要求となり請願運動となり、下剋上的素質を帯びて来ます、一度公武合体的政権即ちケレンスキー政権を樹立すれば必ずその裡にひそむ民主的要求が活動を開始し此の政権を更に低次の民主的傾向に引きずり込む其処に所謂ボルシエビキ的政権が出現する、つまりロシヤ赤色革命の家庭を辿る可能性があるのです、ボル政権となればロシヤに見るが如く下剋上の極点にして又上剋下的独裁の極点を現はすことは御承知の通りです、国体原理派に於ては君臣即親子君民一体の一大家族体としての運動ですから下剋上もなく上剋下もあり得ないのです。

  対大衆工作の差異 

 問 国民大衆に対する両派の工作上の特長は如何、つまり我々国民をどう見てゐるかです。
 答 フアツシヨ派の人々は大衆の経済的不満、生活苦に乗じ之を煽動し各種の方法にて之を動員し以て政権獲得へと進軍します、つまり大衆国民は政権獲得の方便であり数字であると見てゐるのです。
   然し国体原理派に在りては大衆に対し
   陛下の赤子として皇民として尊皇絶対皇運扶翼を強調し現在の矛盾及生活苦は反国体原理性機構より来る所以を認識せしめ以て真の国体原理性一大家族体日本の建設により各々生活苦を脱し只管皇運扶翼に邁進すべきことを主張します。
   前者が大衆を方便とするに反し後者は飽く迄赤子として皇民としての動きを要望してゐます。

  改造団体の具体的分野は

 問 大体理解できました、では現在の改造団体の具体的分野は何うですか、どれがフアツシヨでどれが国体原理派ですか、左翼がフアツシヨで右翼が国体原理派ですか。
 答 右翼とか左翼とか、そんなことは真の変革過程に於ては全く問題になりません、内外の情勢が彌々切迫するに伴ひ強力政権を奪取して俺が俺等がの団体で変革をやつてのけやうなどゝ云ふ不心得な人達は勢ひ右翼であらうと左翼であらうと皆フアツシヨ派に固まります、つまり我が歴史上で言へば新田勢の如きが是れで、真に湊川の死戦の覚悟のない人、即ち威勢のよい方勝ちさうな方、権力のある方に付いてゐれば転んでも只にはならぬ、あはよくば何にでもありつけると、まあ斯う云つた人達がフアツシヨ派に入るのです。然しフアツシヨ新田勢の背後にはボルシエビキ足利が狼の如く待ち設けてゐることには新田勢は気がつかない、国体原理体得の不十分なる人程憐れむべきものはありません、その人達が憐れな丈ですめばいゝが此の皇国日本がボルシエビキ足利の兇逆で蹂躙されたることになつてはそれこそ大変です。フアツシヨ派は新田勢としてボルシエビキの足利勢の進軍への手引きとなり、露払ひの奴となるから十分国民は警戒してゐなくてはなりません。

  軍部にはフアツシヨ派はないか

 問 五・一五事件の海軍側の最高理論指導者と云はれる三上卓中尉は十月事件は陸軍の幕僚フアツシヨの妄動陰謀と云ふ意味のことを痛撃して国体の尊厳を説いたと聞いてゐますが、今の軍部内にはフアツシヨ派がまだ残つてはゐませんか。
 答 又軍部のことですか貴方はどうも軍部を気に病みますね。
 問 然し軍部と云ふ強力なる存在を背景として若し軍部内のフアツシヨ派と民間のフアツシヨ派とが強行突破をしたとしたら我国体は破壊せられ遂には足利の共産党が此の金甌無欠の日本を蹂躙するではありませんか。
 答 御尤もな御心配です然し前にも申した様に軍部それ自体は変革の主体たり得ない本質の上に置かれてゐます、故に若し仮に軍部内に所謂フアツシヨ分子があるとすればそれは必ず民間のフアツシヨ団体を傀儡となし或は前衛として策動してゐる筈です、要は国民の自覚如何にあります、国民が若し国体原理への眼を閉ぢてフアツシヨの吹きなす笛に躍つたとすれば其の時こそ貴方の心痛せらるゝ皇国日本の最大兇悪時機が来るえせう。
   然しはつきりすべき事は我々国民としてはお互ひに軍部を信ずべきではありませんか、将校も兵士も真つ黒になつて教練や航海に没頭滅脚してゐるあの軍部を信頼しやうではありませんか、若し我々国民に仮に知るべからざる処に一部不心得なるフアツシヨ分子がゐたとしても
   陛下の皇軍ではありませんか、将校皆がフアツシヨになる訳でもありますまい。
 問 然し我が歴史を見れば天下の軍隊が挙げて足利尊氏に味方したではありませんか百人中九十八人迄『両頭』人種です、筒井順慶です、故に自分自分等の利害関係から足利勢に味方しますよ。
 答 左様、その歴史こそ頼山陽が所謂『当時梟賊鴟張を擅にして七道風を望んで豺狼をたすく』と血を以て述べた処です。
 然し足利ありたるが故に、否足利に味方したる天下の軍勢ありたるが故にかの大楠公があるえはありませんか、そして
 明治陛下の御製『湊川懐古』に
  あだなみをふせぎし人はみなと川
  神となりてぞ世を守るらむ
 と仰せられてゐます、千歳の下極天皇基を護り奉つてゐるではありませんか。何よりも大切なのは貴方自身が大楠公湊川死の覚悟を持つことなのですぞ!!

  湊川死線の覚悟

 問 愚問を重ねました、恥かしくなりました……
   大楠公死線の覚悟のないものは敵でも味方でも御免を蒙むるとどなたかが云はれたさうですが……はつきり分りました、『両党を共に裁断すれば一劍天に倚りて寒し
 答 尊いことです、尊いことです

 〔図一枚〕 軍部及民間に於けるファツシヨ的動向

   

〔蔵書目録注〕

 本冊子は、『日本革新運動秘録』(昭和十三年八月)には、怪文書リストの「皇道派擁護的ノモノ」の中に次の記載がある。

 題名              月日        要旨
 國家革新運動に於ける二大潮流  昭和十年二月六日  國体原理派ヲ賞揚シフアツシヨ派を排擊セルモノ



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