蔵書目録

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「音の製作 濟韻」 (鈴木バイオリン) (1931.6) 

2020年11月06日 | 楽器目録 昭和 日本楽器、楽器製作者

 向暑の砌り益々御健祥欣賀の至りに存じ上げます
 さて此のたびバイオリン製作で御承知の鈴木政吉氏に依りまして樂器の鳴音を開發する玄妙の工術か發明されました
 此の工術は樂器に對する機能の薫陶法とも見るべきものでありまして施工の目的は各種各箇の樂器が非常に長年月よく彈き込れて眞の能力を發現したると同樣の狀態に致さんとするものであります(詳細は別紙説明書に依つて御參照下さい)
 鈴木氏の濟韻の工術は和洋管絃或ゆる樂器に通じて鳴音を美化增大にする事を得ますか氏はバイオリンの創始前三味線の工人として名聲あり又製作研究に就ての蘊蓄を有して居らるゝ關係より三味線の濟韻は殊に得意とせらるものゝ如くでありまして既に其施工の結果は斯界の元老稀音家六四郎師杵屋佐吉師並に今井慶松師等の夙しく絶賞されて居るところであります
 尚最近我國音響學の泰斗東京帝大教授小幡博士の感激の許に濟韻が樂器の發音に及ぼす狀態を仝博士自ら音波寫眞に依つて証明すべく着手中の由であります
 實に此發明は近代楽界の快事と存じまして此工術の博く樂壇に活用せらる時の速かならん事を切望するものであります
 就きまして本協會としては會員諸氏のために此の濟韻の施工を最も便宜に御利用の途を講じ度く考へまして鈴木氏への交渉の結果左記の特典ある豫約申込の方法を設け御希望の方々へ御需めに資す事と致しました
 施工の性質工程等の關係より御引受の數量時期等に制限を余儀なく致しましたが此点は宜しく御諒察頂きまして此機會に精々御申込願ひますれば本懐と存じます

  昭和六年七月
          名古屋長唄協會
  會員
            殿

    
   鈴木政吉氏  施工豫約申込規定
   三味線濟韻

一、本規定ニ依ル申込ハ   名古屋長唄協會々員に限る
一、申込受付定數      三味線 五十挺
一、申込受付期間      昭和六年七月廿日ヨリ仝八月卅一日迄
                但し申込定數に達したる場合は期間中と雖も締切ります
一、濟韻料         貳拾圓(一般施工料卅圓以上ノトコロ)濟韻施工濟の上現品と引換拂
一、申込方法        別紙申込書に依り本會事務所宛(名古屋新聞社内)申込マレタシ
一、施工及現品受渡しに就て 濟韻の施工は約一ヶ月の時日を要しますが十挺位同時に着手致しますから毎月十挺位の施工を完了する事が出來ます
             着手は御申込順に致します御申込を頂きますと術者から豫め着手の時日の回答を申上げます樂器は其日取の前に市内東區東門前町鈴木樂器店(電東一一六三)へ御届け下さるか又同店へ御申付けになれば店員御伺ひして樂器を頂きます
一、濟韻の証明       濟韻施工したる樂器は術者の証印を押捺して永久に價値を証明致します
一、御斷り         濟韻の施工の爲め樂器の原形等を變化する等の事は決してありませぬが三味線の皮は氣候其他の原因にて時としては破れる事がありますのでこれだけは豫め御許しを願ひます

  昭和六年七月
             名古屋長唄協會  

    鈴木政吉氏  施工豫約申込書
    三味線濟韻

 貴會御取扱ニ關ル三味線濟韻施工申込候也

       住所
        氏名
            電話    局     番
  昭和六年七月 日

 名古屋長唄協會御中

   

   樂器製作上の一大發明
 音の製作  濟韻

  樂器の革命的大發明
   鈴木政吉翁 濟韻(音の製作)に就て

 バイオリン製作者としての一生を記念すべき名作品の完成を多年の宿望として居りました鈴木政吉翁は偶々先年伊太利の古名器カルネリユースの力作品を入手した事に因を發し不撓四十余年の体驗と驚くべき製作の天分を以て二百年來失はれておつた音の製作秘訣を探り茲に劃期的の大成をとげ其製作品を遠く獨逸の樂壇に最初の發表を致しまして一躍歷史的の名作家として世界の斯界を驚嘆せしめたる事蹟は恐らく諸賢の御記憶に新しき事と存じます
 音の製作は二百年前伊太利クレモナに於てバイオリンの製作を完成せしめた不出世の名匠ストラデヴァリー氏並に共にクレモナの双璧と稱へらるゝカルネリユース氏兄弟等の大匠が創始の秘技であつたのでありますが其等巨人の沒後此の大藝術は繼承するものなく遂に廢滅に歸し再び彼等の手に成つた如き名作品は産出を見る事が出來なくなつたのであります爾來世界中樂器の製作に手を染むる者委くが其秘技の發見に努めて來つたのでありますが成効を見ず世に「クレモナの秘密」と稱せられ樂器研究者の永久の謎として殘つて居るのでありました

     音の製作發見

 多年世の製作家科學者の献身的の研究も成効に至らなかつた音の秘訣が我が鈴木政吉翁に依つて大成された事は實に世界の驚異であつた次第でありますが翁の四十余年獨創の研究と偉大なる才能は嘗て如何なる製作者も考へ及ばなかつた着眼と獨步の研究に進んだのでありました一例を擧げますと從來バイオリンの製作の研究は器体の完成と云ふ事のみに注意されて居りまして從て材料原料の精選構造仕樣の方法等は可なり精細の研讃が成されてありましたが翁は此等の器体の製作は樂器の素質を構成する重大なる基礎工程ではあるが眞の音の製作は其上に更に高級の工術あると云ふ事を觀破したのでありました而して專ら其施工に就ての考究に沒頭致しましたが遂に翁の超人的の受感性が古名器に打込まれて居つた名工の氣魂に観應するに到つて茲に始めて二百年埋もれて居つた音の秘密は翁の手中に握られる事となりました。
 更に驚くべき事は斯くて翁の体得したる音の製作術はバイオリンにのみのものではなく管絃金石すべての樂器の音の製作術である實に樂器製作大乗の妙諦であつた事であります

     濟韻の成案

 爾来翁は此妙技を振つて自作の絃樂器の製作に專念して居りましたが過般此音の製作術を器体の製作と分離して加工し得る工案を得たのであります從つてバイオリンのみならず箏 三味線 尺八等の樂器にて翁の製作に依らざる既成のもの或は各位の御使用中の各種樂器へ施工して其鳴音を著しく美化増大に致す事か可能さるゝ事となりました、翁は此珍しき工術を樂器の濟韻と名稱致して居ります
 全く此工術は空前のものでありまして勿論翁の獨特の靈感に依つてのみ爲されるものでありますが濟韻施工の結果を最も判り易く申し上げますと御承知の如く樂器を永年彈き込みますと良き鳴音を發韻致します而かも名手に依つて其れが成されたる場合は一層光輝ある發音に致されます其原因は正しく彈き込まれる事に依つて音の道が啓かれるのであります云ひ變へますと樂器の性來含有して居る機能が漸次其働きを擴張され段々能力を發展する結果に他ならないのでありまして他から音を塗殖するものではない事は恰も天然の寶玉が磨かれて光輝を發すると同樣であります
 然るに樂器を彈き込む事に依りて樂器の眞の能力を發露せしめる爲めには非常の永い年月を要するのであります其爲めに事實としては音の全能力の發する前に器体其物の生命が保たない塲合が多いのでありますから何時の時代にも鳴りの名器は存在が尠いのでありますそこで翁の濟韻は一種の超人的の施工を以て樂器が非常なる年月正しく彈き込まれたものと仝樣の狀態に器体の機能を置く樂器製作の革命的の大藝術であります
 而して濟韻は決して科學的の裝置或は藥品等の塗殖的の差用に依るものでなく徹底して其樂器の箇性素質に應じて其全部の能力を啓發するにあります而も其効果は恐らく各位の御想像を越へるものと信します尚又此施工の爲器体の外觀は素より内部仕樣の何物にも何等の加削を用ひませんから豪も原態を損しないのであります     

     濟韻の結果を大方の發表

 最近翁は和洋各樂器に濟韻の施工を致しました結果を東都の斯界の權威方へ披露致しましたところ絶大の御賞讃を得尚即座に御秘藏の名器へ施工を依囑さるヽ向もあり翁は至大の面目を得ましたが尚斯る發明は樂界のため博く紹介し世の愛樂家の樂器の能率增進のため一般の需めに應して施工すべく切なる御勸めがありましたので翁も其旨を体して今回取扱ひ一切を弊社へ任しまして大方の御需めに從て妙技の施工を開始する事と成りました

     濟韻施工御申受に就て

 今回以上の次第に依りまして鈴木政吉翁濟韻施工に就ての御用申受其他一切の業務を弊社に於て取扱ふ事となりました
 就ては此空前の藝術を最も御便宜に各位の御需めに供へる事は多年の御恩顧に報ゆる一分であり又幸ひ其施工が御愛器の眞價發揚に資し引ては樂界に聊かたり共良果をもたらす事とも相成りますれば此上もなき光榮と存じます
 何卒此新しき藝術につき充分の御理解を賜りまして續々の御用命仰付けられん事を伏て懇願申上る次第に御座います

     濟韻施工樂器の種目及施工料

 濟韻を施工の樂器は當分左記の種目と致して居りますが其他の樂器に就て御希望の御座いました節は一應御紹會を願ひます
   一 (洋樂器) バイオリン、マンドリン、ギター、及同系低音樂器
   一 (邦樂器) 箏、三味線、皷、尺八、横笛類
   一 濟韻料     一器       参拾圓以上
   一 特別濟韻料 
        二重濟韻         五拾圓以上
        三重濟韻         百圓以上
   但し特別濟韻は樂器の素質が普通濟韻を施工の上尚其以上に細密に渉つて重ねて濟韻する事に依り最高の目的に至る見込みあるものに限り御希望に依つて施工を行ひます、施工を重ね益々細密に渉て濟韻する事に依つて音の美は完成されるのであります
濟韻の御用は左記の承り所へ御申付を願ひます
      以上

  昭和六年六月      鈴木バイオリン製造株式會社

  濟韻御用承り所   名古屋市東區東門前町
              鈴木樂器店
                電話東一一六三番
            東京市四谷區内藤町一番地
              鈴木バイオリン東京營業所
                電話四谷五六四六番
            大阪市東區淡路町三丁目二六ノ二
              鈴木バイオリン大阪營業所
                電話本四六六八番



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