本書で、中島さんは、加藤被告(死刑が確定したかは知らないので。)が生まれた青森市での生活、市内の高校卒業後の短大生活、そして短大卒業後の派遣生活を丹念に追った。なぜなら、「事件の背後に潜む現代社会の問題を見つめる必要がある」(16頁)からであり、また「これからの世界を生きるために。社会の破裂を食い止めるために」(17頁)必要だからである。
本書を読むと、加藤被告はマスメディアで流されたイメージとは異なり、他人とのコミュニケーションができない人ではなかった。だから、いろいろな職場でも同僚とふつうに接していたし、ネット上の掲示板でも「仲間」がいたようだ。彼の最後の「居場所」となったネット上の掲示板から、「なりすまし」によって本人であるにもかかわらず、そこから排除されてしまったことの衝撃が犯行への引き金となったのかもしれないが、そこに至る経緯を知らなければ、その「居場所」の喪失感の大きさは理解できないだろう。
本書は奇しくも、震災直後の2011年3月末の出版となっているが、オウム事件に続いて、この事件も私たちの社会はすぐに忘れてしまうのだろう(震災ですでに忘れられているかもしれない。)。